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『ブロックチェーン革命[新版]    分散自律型社会の出現』序章(その3)

ブロックチェーン革命[新版] 分散自律型社会の出現』が、日経ビジネス人文庫から刊行されました。

・8月5日(水)から全国の書店で発売されています。

これは、序章(その3)全文公開です。

序章(その3)

ビットコインから銀行の仮想通貨へ。そして証券へ
 第2章で述べるように、ブロックチェーンは、最初にビットコインなどの仮想通貨の基礎技術として用いられ、うまく機能することが分かった。中央管理機関が存在しなくとも、ブロックチェーンを用いることによって、通貨の取引を、高い信頼性で実行できることが立証されたのだ。ビットコインがインターネット上に現れたのは2009年のことだが、その後、多数の仮想通貨が誕生している。
 さらに、ブロックチェーンの応用範囲は仮想通貨にとどまらないことが分かり、さまざまな対象に対して適用が試みられることとなった。
 その最初のものは、銀行による利用だ。日本のメガバンク、シティバンク、UBS、ニューヨーク・メロン銀行など、多くの大手金融機関が、ブロックチェーン技術を送金サービスに用いるための実験に取り組んでいる。また、銀行業務の基幹システムである勘定系に適用するための実証実験も行なわれている。銀行業界は、ブロックチェーンを、ビジネスプロセスを劇的に効率化するための未だかつてない強力な武器と捉えている。こうした取り組みについては、第3章で述べる。
 ブロックチェーンの適用対象は、通貨に限られない。つぎに、証券業務への導入が試みられている。アメリカの証券取引所ナスダック(NASDAQ)は、未公開株取引システムの実証実験を行ない、成功した。ニューヨーク証券取引所なども同様の実験に取り組んでいる。日本証券取引所グループも、実証実験に成功したとの報告書を発表した。証券取引の清算・決済の分野で、ブロックチェーンが効率化を実現するだろうと考えられている。
 ブロックチェーン技術の適用対象は、さらに、保険やデリバティブなどにも拡張されようとしている。

金融業が大きく変わる
 金融業は、もともと広義の情報産業の一つだ。したがって、情報技術によって大きな変化が生じるのは、ごく当然のことだ。これまで金融業に大きな技術的変化が生じなかったのは、金融業が強く規制された産業であり、とりわけ参入規制が厳しかったからだ。このため、新しい技術を導入して業務を効率化するインセンティブが十分に働かなかったと考えられる。
 ブロックチェーンの導入は、金融業の基本構造にきわめて大きなインパクトを与える。この問題は、本書の第5章で論じている。
 現在、金融業で行なわれている業務の多くは、情報の仲介だ。これがブロックチェーンに代替されれば、中間者が不要になるので、コストが低下する。これによって、金融業の姿は大きく変わるだろう。銀行や証券会社が現在行なっている業務の多くが、ブロックチェーンによって代替されて、消滅するかもしれない。
 それだけではなく、仮想通貨独自の経済圏が形成されるかもしれない。そうなれば、金融政策のあり方にも影響が及ぶ。また、課税が難しくなるかもしれない。
 なお、金融分野に変化をもたらすものとして、最近、「フィンテック」(FinTech)ということがいわれる。これは金融サービスに情報技術を応用しようというものだ。ブロックチェーンもフィンテックの一部と考えられている。しかし、第1章の4で指摘するように、ブロックチェーンとその他のフィンテック技術の間には、大きな差がある。本当に重要な変革をもたらすのは、ブロックチェーンだ。
 ブロックチェーンはまた、「何が正しいデータであるか」をすべての人が知るためのプラットフォームとしての側面を持っている。ブロックチェーンのこの機能を利用して、インターネットの世界における真正性の証明や事実の認定を行なおうとする試みが進められている。
 具体的には、土地登記をはじめとする公的な登記や登録への活用だ。いくつかの国で、すでに実施されたり実験が行なわれたりしている。また、宝石、貴金属、ブランド品などの購入履歴のトラッキングにも応用が可能だ。これらについては、第6章で述べる。


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