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「超」英語独学法 全文公開:はじめに

『「超」英語独学法』が、NHK出版から刊行されました。
3月10日から全国の書店で発売されています。
これは、はじめに全文公開です。

はじめに

英語の勉強における五つの誤り
 多くの人が、「時間をかけて勉強したのに英語が上達しない」と言う。その一番大きな原因は、「やり方を間違えている」ことだ。
 本書では、「多くの日本人が陥っている間違いは何か」を指摘し、それに代わる英語勉強の方法を提案する。
 とくに強調したいのは、どこに集中し、どこで手を抜いたらよいかという判断だ。
 われわれは限られた時間の中で、しかも外国語として英語を勉強するわけだから、英語を母国語とする人々と同じレベルまで英語をマスターすることはできない。
 そこで、どこに集中し、どこで手を抜くのかが、重要なポイントになる。
 英語の教師は、これについて必ずしも正しい判断ができるわけではない。判断ができたとしても、「ここは手を抜いてもよい」とは、おそらく言わないだろう。そんなことを言えば、自分が失職してしまうかもしれないからだ。
 「どこに集中し、どこで手を抜くのか」は、英語を道具として使っているユーザーの観点からしか言えない。
 私は、英語の教師ではないが、「英語のユーザー」ではある。本書では、私自身の経験を振り返り、どこに集中して、どこで手を抜いたらよいかという判断を軸に、英語の勉強の具体的な方法論を考えていくことにしたい。
 
多くの日本人が陥っている間違いとは何か? それはつぎの五つだ(図表0 ― 1参照)。

図表1 (2)


 第1の誤りは、「なんとなく勉強しなければ」とか、「英語を流ちょうに話せるようになりたい」と漠然と考えることだ。何のために英語を勉強するのかを、はっきりさせる必要がある。
   第2の誤りは、英語にはさまざまなものがあることを意識していないことだ。世界にはさまざまな英語がある。国や地域によって違うし、正確な英語と、俗語・スラングとの違いもある。
 勉強する目的をはっきりさせる必要があるのは、このためだ。さまざまな英語のうちどれを対象とするかによって、勉強すべき内容がまったく違う。例えば、受験をするための英語と仕事のための英語とは、まったく違う。
 本書では、ビジネスパーソンが自分の仕事に英語を使う場合を主として考える。この場合には、その分野の専門用語を習得することが最も重要な課題になる。
 第3の誤りは、「英会話学校に行けば英語が上達するだろう」と期待することだ。
 この考えがなぜ間違いか? それは、仕事に使う英語の場合には専門用語が決定的に重要なのだが、それは分野によって大きく違うからだ。
 専門用語は、英会話学校では教えることができない。これを学ぶには、独学によるしかない。
 第4の誤りは、英語を単語に分解し、翻訳することによって理解しようとすることだ。学校での英語教育がこのような方法で行なわれているので、無意識にそうするのだが、これは言葉の勉強方法としては間違いだ。単語に分解して翻訳するのではなく、文章を丸暗記する必要がある。
 第5の誤りは、「実用英語のためには話す訓練が必要」と考えることだ。しかし、重要なのは「聞く訓練」だ。聞くことができるようになれば、自動的に話せる。話す訓練はとくに必要ない。
 以上で述べた誤りから脱却しなければ、いくら時間をかけても、英語の能力は向上しない。逆に、これらを常に意識して勉強を進めれば、英語の能力を飛躍的に高めることができる。本書を貫いているのは、このような考え方だ。これをさまざまな箇所で繰り返し強調する。

本書の構成
 本書の構成は、以下の通りだ。
 第1章「ニューノーマル時代になぜ英語が必須なのか?」では、英語の重要性がかつてないほど高まっていることを強調する。英語は世界語だ。これまで自国語だけで仕事をしていた国の人々も、英語を学んで国際的な活動ができるようになった。
 新型コロナウイルス後のニューノーマル時代には、ビデオ会議によって簡単に国境を越えることができる。こうした世界では、英語の重要性がさらに増す。
 第2章「どの英語を、どの程度勉強すべきか?」は、先に「第2の誤り」として述べたことの詳しい説明だ。「英語」といっても、話されている国や地域によって大きく違う。正確な英語と日常的な英語も違う。外国人がスラングや方言を理解するには、大変な努力が必要だ。
 だから、「どこを完璧に訓練し、どこで手を抜くか」という判断が重要だ。本書は、「8割原則」を提唱する、つまり、「多くの場合に大丈夫」という水準を目指す。
仕事で英語を使う場合には、正確な英語を理解できればよい。スラングや方言は分からなくてもよい。また、RとLの区別が正確にできるようになるよりは、コミュニケーションがきちんとできることのほうが重要である。
 第3章「社会人の英語は独学でしか学べない」では、まず「学ぶためには学校に通わなければならない」という考えが、単なる思い込みにすぎないことを指摘する。
 これは、とくに社会人の勉強について言えることだ。なぜなら、仕事のための英語では、専門用語が必要であり、英会話学校では、それを教えることができないからだ。
 そこで、この章では、「専門用語が必要」ということの意味を詳しく説明する。専門用語は、完璧にマスターする必要がある。「英会話学校に通えば英語がうまくなる」と考えるのは、「仕事に使う道具」という視点がないために生じる誤りなのだ。
 なお、日本の大学における英語教育体制の欠陥(その分野の専門家が英語を教えず、英文学の専門家が教えている)についても述べる。
 第4章「単語帳を捨て、丸暗記せよ」は、先に「第4の誤り」として述べたことの詳しい説明だ。
 日本人の英語能力が向上しない大きな原因は、「英語を単語に分解した上で、それを日本語に翻訳する」という方法で勉強していることだ。これでは、単語を覚えることも、文法の規則を覚えることもできない。そして、英語を仕事のために使うことなど、到底できない。
 単語帳を捨てて丸暗記する必要がある。暗記する対象は、自分が興味のあるものを選ぶのがよい。「丸暗記法」は、受験のための勉強法としても、最強のものだ。
 第5章「聞ければ、自動的に話せる」では、英語を聞くことについて述べる。多くの人は、英語を聞く練習よりも、話す練習をするのが重要と考えている。しかし、これは、先に「第5の誤り」として指摘したように、間違った考えだ。
 外国で仕事をする場合も留学する場合も、「話す」機会より「聞く」機会のほうが圧倒的に多い。しかも、話す場合には内容を自分でコントロールできるが、相手の話を聞く場合には内容をこちらでコントロールすることはできない。
 だから、どんな内容でどんなスピードであっても、正しく聞き取れなければならない。英語を聞く練習は、完璧に行なう必要がある。そして、信じられないかもしれないが、完璧に聞けるようになれば、自動的に話せるようになる。
 話す練習を特別にする必要はない。口頭英語の訓練は、「聞くこと」に集中すべきだ。このための教材は、いまではインターネット上にたくさんある。英語を完全に聞けるようになるために必要な訓練時間は、2000時間程度だ。これには、数年かかるだろう。
 第6章「仕事でも必要なサバイバル外国語」のテーマは、旅行者にとっての外国語だ。
 英語圏以外の国の場合、ビジネスでは英語が通じるとしても、街に出ればその国の言葉が使われている。しかし、多くの国で英語が通じるので、まず英語で対処することを考えよう。外国旅行では、言葉よりも重要なことが多い。ただし、言葉が決定的に重要な場合もある。それがどんな場合かを知っておく必要がある。
 英語で用がすむことが多いとしても、いくつかの「サバイバル外国語」を覚えておけば、コミュニケーションは円滑になるだろう。
 第7章「書く英語で能力が評価される」では、「英語を書くこと」について述べる。
 話し言葉はある程度の間違いがあっても許されるが、英語の文章を書く場合には、正確でなければならない。なぜなら、書いた文章によって能力を判定されるからだ。そしてビジネスに支障をきたす事態にもなりかねない。
 日本人にとっては、とくに冠詞が難しい。これを間違えると、英語とはみなされない。相手の書いたメールをモデルにして書き換えるなどの緊急対応策はあるが、基本的には勉強するしかない。
 第8章「AI時代の『超』英語法」では、AI(人工知能)の発達によって可能になった自動翻訳について述べる。
 自動翻訳は、さまざまに使うことができる。音声で入力したものを翻訳し、音声で出力することができるので、会話に近いことが実現できる。
 最近では、AIの図形認識能力(パタン認識能力)が向上したため、印刷された文字の読み上げや翻訳もできるようになった。
 自動翻訳機能は、とくに英語以外の言語について、便利に使える。ただし、このようなことができるようになっても、外国語の勉強は必要だ。
 第9章「英語の勉強は楽しい」では、外国語の勉強が楽しいことを強調したい。外国語を読んだり聞いたりすることができれば、知識が広がる。それによってさらに勉強したいという気持ちが強まる。このような楽しみがあるからこそ、外国語を勉強するのだ。
 本書が想定している読者は、英語を使って仕事ができるようになりたいと考えている社会人の方々だ。
 ただし、本書が提案している勉強法は、受験生にとっても有効だ。受験英語がきわめてバイアスのかかったものであるのを理解すること、単語帳を捨てて文章を丸暗記すべきことは、受験生にとって重要なノウハウである。

情報テクノロジーが英語の勉強法を変えた
 私は、これまで英語勉強法の本を何冊か書いてきたが、いま再び英語勉強の本を書くにあたって強く感じたのは、情報技術の進歩だ。とくに、外国語の音源がきわめて簡単に手に入り、それらを簡単に利用できるようになったことだ。
 私は学生時代に、ケネディ大統領の就任演説の録音が欲しくて、散々苦労したことがある。何年もしてから「ソノシート」という形で手に入れたときは、宝物を獲得した気持ちだった。ところがいまでは、インターネットにアクセスすれば、鮮明なカラー動画付きの録音をいとも簡単に、しかも無料で入手することができる。
 1980年頃には、在日米軍のラジオ(FEN)のニュース解説を録音して英語のヒアリングの訓練をしたことがある。しかし、いまは、録音などという面倒なことをしなくても、インターネットにアクセスするだけでよい。そして、スマートフォンを持っていれば、散歩中でも電車の中でも聞くことができる。
 さらに、コンピュータのパタン認識能力の向上によって、書籍に印刷された文字をスマートフォンに読み上げさせたり、翻訳させたりすることが可能になった。いまや、どんな国の言葉でも、理解できないものはない。
 こうして、外国語の勉強を、効率的に進められるだけでなく、楽しく行なうことが可能になった。このような驚くべき技術進歩の成果を最大限に利用しなければ、本当にもったいない。第5章と第7章に、これらに関する詳しいリンク集がある。是非活用して、最先端の英語勉強法を実践していただきたい。



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