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『円安が日本を滅ぼす』:全文公開   第3章の4

『円安が日本を滅ぼす』-米韓台に学ぶ日本再生の道 (中央公論新社)が 5月23日に刊行されます。
これは、第3章の4全文公開です。

4 韓国、台湾の貿易黒字は増大

 韓国貿易収支の黒字は拡大
 ウォン安政策をとらなかったにもかかわらず、韓国の輸出額は、2000年頃から顕著に増加した。
 1990年代の中頃から現在に至るまでに、輸出が約4倍に増えている。人口が日本の約半分以下の韓国が、輸出で日本と同じくらいになったのだから、輸出依存度がいかに高いかがわかる。
 そして、輸入の増加は3・5倍にとどまる。このため、90年代中頃には赤字だった貿易収支が黒字化した。
 図表3‐4に示すように、1990年代中頃までは、韓国の貿易収支差はほとんどゼロだった。しかし、1998年頃から黒字が増加し、経済を牽引する役割を果たすようになっている。さらに、2008年頃から顕著に増加した。
 2007年までは貿易黒字は100億ドルから200億ドル程度の水準だった。それが2009年には400億ドル程度に増加し、2011年からは日本より多くなった。そして、14年から15年には、900億ドル程度に増加した。その後減少したが、400億ドル程度の水準は維持している。
 韓国は輸出主導の経済成長を果たしたことになる。韓国の成長率が高い原因がここにある。そして、1人あたりGDPや賃金を上昇させた原因もここにある。
 台湾の貿易収支(図には示していない)は、2018年の670億ドルから、2020年の752億ドルに拡大している。

 韓国、台湾の輸出競争力は向上
 通貨高になると、現地価格がそれまでのままでは、自国通貨建ての売上が減少する。売上を一定に保つためには、現地通貨建ての価格を引き上げなければならない。
 それでも売上が減少しないようにするためには、品質を高める必要がある。韓国では、そのための努力が行われた。
 台湾も同じ戦略をとった。それが典型的に表れているのが最先端半導体だ。これを作れるのは、台湾のTSMCと韓国のサムスンしかない。
 こうすれば数量をあまり増やさなくても、輸出額は増加する。そして、輸入額はさほど増えず、貿易黒字が拡大する。
 国内では賃金が上昇しているので、国際的に見て上昇する人件費で生産していることになる。それにもかかわらず、貿易黒字がこのように増大しているのだ。
 これは、韓国、台湾の輸出競争力が向上したことを意味する。この具体的内容については、第4章で見ることとする。

 韓国と台湾の貿易黒字は拡大を続ける
 もともと韓国、台湾では、輸出への依存度が大きいので、これが拡大した影響は経済に大きな影響を与えたと考えられる。
 なお、2000年から07年頃、アメリカの輸入が増加し、アメリカの経常収支赤字が拡大した。これは、アメリカ国内で消費が増加したためだ。これが、日本や韓国などの輸出増大に寄与したことは、間違いない。
 しかし、リーマンショックによって、このメカニズムが崩壊した。その後、日本も韓国も、輸出の伸び率は低下している。ただし、日本の輸出が07年頃以降ほとんど停滞してしまったのに対して、韓国、台湾の輸出は増加を続けた。
 そして、日本の貿易収支が11年以降15年まで赤字化したのに、韓国の貿易収支は黒字を続けた。

 賃金停滞は、日本が選択した政策の結果、生じたこと
 以上で述べたことをまとめよう。
 2000年頃以降の日本と韓国・台湾は対照的だ。韓国や台湾では、通貨を減価させなかった。しかし、生産性向上により貿易収支の黒字を増大させ、経済成長率を高めて賃金を上昇させるという好循環が実現した。
 それに対して日本では、円安が貿易収支の黒字を縮小させ(あるいは赤字化し)、経済の停滞がもたらされた。いわば、「亡国の円安」だったわけだ。
 日本で賃金が上がらないことが問題にされている。それは、以上で見たように、日本が選択した道がもたらした結果なのである。
 もちろん、韓国や台湾の路線が、今後もいままでのように続けられるかどうかは、確実でない。とりわけ、米中貿易戦争の影響は大きいだろう。実際、韓国の貿易収支黒字は、2018年頃から頭打ちになっている。これによって、経済成長も頭打ち気味だ。韓国経済の将来については、第6章で述べることとする。


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