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『2040年の日本』全文公開 第5章の5

『2040年の日本』 (幻冬舎新書)が1月20日に刊行されました。
これは、第5章の5全文公開です。

5 無人企業DAOが現実化する

ブロックチェーンとは

    ブロックチェーンとは、改ざんできないデジタル情報を記録する仕組みだ。
 「プルーフ・オブ・ワーク」という仕組みで、改ざんができないようになっている。この仕組みは、非常に分かりにくい。この説明は、第8章の3を参照。さらに詳しい説明は、拙著『仮想通貨革命』(ダイヤモンド社、2014年)、『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞出版社、2017年)を参照されたい。ここでは、詳しい説明は省略する。そして、そのような技術が利用可能になっていることを前提に話を進める。
 比喩で言えば、石に簡単に文字を刻むことが可能になったようなものだ。そこに刻まれた文字は、改ざんできない。
 そして、情報を刻み込んだ石を、いくつかの町の中心にある広場で公開する。そうすれば、そこに書かれてある取引が、当初契約されたままの取引だ。だから、例えばビットコインの取引なら、そこに記録されている所有者が正しい所有者ということになる。
 なお、以上は「パブリックブロックチェーン」と呼ばれるもので、自由意思で参加するコンピュータの集まりによって、データの記録作業が行なわれる。
 この他に、「プライベートブロックチェーン」と呼ばれるものがある。これは、金融機関や大手IT企業などが管理・運営する。そして、信頼できると考えられるコンピュータを選んで、その集まりによって情報の記録作業を行なう。ここでは、プルーフ・オブ・ワークは用いられない。

スマートコントラクトとは

 「スマートコントラクト」とは、コンピュータのプログラムの形に書くことができる契約のことだ。ある条件が満たされたときに、どのような行動を取るかを決めている。これをブロックチェーンに記録しておく。そして、事態が生じたら、行動を指令する。
 こうして、人間が恣意的な判断を下さずに、コンピュータが自動的に契約を実行する。契約の交渉、締結、履行などをコンピュータが自動処理し、その記録をブロックチェーンに記録するのである。これによって、複雑な契約を、短時間で、低いコストで実行できる。
 具体的な例で説明しよう。いま、Aさんがアマゾンで書籍を購入したいとする。この希望は、インターネットを通じてアマゾンに送られる。その情報はアマゾンで処理されるが、人間の手作業ではなく、コンピュータのプログラムで自動的に処理される。このシステムは、アマゾンが管理している。これが、現在の中央集権的な企業の仕組みだ。
 この取引を、ビットコインの場合と同じような仕組みで自動化することができる。
もっとも、違いはある。ビットコインの場合には、送金があったという記録をブロックチェーンに書き込み、それを公表するだけで十分だ。しかし、いまの場合には、代金をクレジットカードで引き落としたり、書籍をAさんに発送するという作業が必要になる。
 これらを、「スマートコントラクト」で行なう。スマートコントラクトは、Aさんからの注文によって発動され、実行される。そして、こうした取引を行なったことがブロックチェーンに記録され、公表される。
 このように、スマートコントラクトが実行されることによって事業を進めていく組織を、DAO(Distributed Autonomous Organization:分散型自律組織)という。
 DAOでは、中央集権的な管理主体なしに、事業を進めることができる。送金や記録などの単純なサービスだけでなく、複雑な業務を自動化できる。ルーチン的な仕事は、基本的に自動化が可能だ。
 AIは単純労働を自動化するが、DAOは管理職の仕事を自動化するのだ。企業の管理職が現在行なっている仕事の大部分は、DAOによって取って代わられる可能性がある。

すでに稼働しているDAO

・仮想通貨
 ビットコインは、最初のDAOであったと考えることができる。
 誰でも参加することができるコンピュータのネットワークが形成される。ビットコインの保有者AさんがそれをBさんに送金したいとき、そのネットワークに向けて、Bさんにビットコインを送るという情報を、インターネットを通じて送る。
 コンピュータのネットワークは、あらかじめ決められたルールに従って、この取引が正しいものかどうか(Aさんに確かに残高があるか? 二重支払いはないか? など)をチェックする。
 チェックができたら、それをブロックチェーンに記録する。この記録は、書き換えることができない。この取引情報が公開されるただし、Aさんの名は、暗号で保護されている)。書き換えることができないので、この情報が公開されることによって、送金が完了することになる。

・保険
 保険では、「P2P保険」というものが登場している。これは既存の保険会社を介さずに、少人数の保険加入者が直接に繫がってルールを設定し、新規加入者の受け入れ、見積もり、請求、払い戻しの実行などの事務を、スマートコントラクトとブロックチェーンによって自動的に処理するものだ。
 また、「パラメトリック保険」というものもある。これは、事故の発生に応じて、ただちに保険金を支払う保険だ。フライト遅延が確認された場合に、スマートコントラクトによって自動的に保険金の支払いが行なわれる保険が、すでに提供されている。

・DeFi(分散型金融)
 DeFiと呼ばれるものが拡大している。銀行のような中央集権的組織なしに金融サービスを提供する。仮想通貨の取引だけでなく、融資、保険、デリバティブ取引など、より複雑なサービスが提供されている。
 ビットコインの最初の形態は、いかなる組織の管理もなしに運営される仕組みだった。ところが、その後、取引所という中央集権型の組織が現れ、ビットコインと現実通貨との交換やビットコインの送金は、ここを通じて行なわれるようになった。したがって、管理者なしで金融サービスを提供するというビットコインの当初の性格は、薄れてしまった。それに対して、DeFiは、ビットコインの最初の形に近い形で運営される。
 金融は、基本的には情報を扱っているだけだ。したがって、業務の大部分をDAOで運営することが可能だ。ただし、現在のDeFiが扱っているのは、仮想通貨だけだ。これは、技術的な問題によるのではなく、規制当局との関係による。

未来の世界でDAOはどうなるか

 DAO化できる事業は、金融以外にも多数ある。例えば、オンラインショップは、かなりの程度DAO化できるのではないだろうか?
 スマートコントラクトの内容を、データによって補正すれば、硬直的行動ではなく、状況に対応して行動を変えていくことが可能になる。
 そのためには、DAOが置かれた現在の状況を、正確に知ることが必要だ。DeFiが現実通貨と結びつけば、詳細なマネーの取引データを提供できるだろう。
 あるいは、銀行が保有する取引データを活用することも考えられる。「オープンAPI」とは、金融機関が保有する取引データを、外部の事業者に開放する動きだ。現在すでに、これを用いて、経理や給与支払いの事務が自動化されつつある。これをDAOの運営に用いるのだ。
 いま人間が行なっている作業を、AIを用いて自動化し、事業の運営をスマートコントラクトで行なえば、人間がまったく関与しない完全無人企業を実現することができる。
 業務のすべてをDAOで置き換えるのが難しい場合には、事業全体をDAO化するのではなく、その一部分をDAO化することが考えられる。そして、人間との共同で運営するのだ。


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