英ケント大学コンピュータ科学部の研究者2名が、現行のASICベースのマイナーと提案されている量子ベースソリューションのエネルギー消費率を比較する研究を行った

チームのプレプリント研究論文によれば、量子コンピューティングを利用したシステムは、エネルギー効率で標準的なマイニングリグを明らかに上回っているという。「量子ベースのマイニングへの移行により、比較的保守的な見積もりで約126.7 TWHのエネルギー節約が可能であり、これは2020年のスウェーデンの総エネルギー消費に相当する」とのことだ。

論文によれば、ビットコインのマイニングオペレーションは年間150テラワット時(TWH)以上を消費しており(2022年5月時点)、提案された量子ベースのシステムが持つ潜在的な影響を示している。

2人の研究者は、3つの異なる量子マイニングシステムとAntminer S19 XP ASICマイナーを比較する実験に基づいて結論を導き出した。量子マイニングデバイスは、フォールトトレランスのシングルレイヤーを持つシステム、2層のフォールトトレランスを持つシステム、専用のエラー訂正機能がないシステムに分かれていた。

研究者らは、ブロックチェーンマイニングは、量子コンピューティングのエリアの中でエラー訂正がそれほど重要ではない数少ない分野の1つであると指摘している。ほとんどの量子機能では、エラーがノイズを生成し、計算システムが正確な計算を生成する能力を機能的に制限する。しかし、ブロックチェーンマイニングでは、最先端の古典システムでの成功率はまだ比較的低い。研究論文によれば、「古典的なビットコインマイナーは、成功率が約0.000070%であれば利益が出る」。また、研究者らは、古典的なシステムとは異なり、量子ベースのシステムは、時間の経過とともに精度と効率を向上させるために微調整できることを指摘している。

量子コンピューティング技術はまだ初期段階にあるとされているが、ブロックチェーンマイニングという非常に特定の問題は、フルサービスの量子コンピューティングソリューションを必要としない。研究者らは、「量子マイナーは、スケーラブルでユニバーサルな量子コンピュータである必要はなく、単一のタスクを実行するだけでよい」と述べている。

最終的に、研究者らは、既存の量子技術を使用して、古典的コンピュータに対して量子優位性を示すマイナーを構築することが可能であると結論付けている。

しかし、潜在的なエネルギー節約にもかかわらず、研究者たちは「ノイジー中間規模量子」(NISQ)システムと呼ばれる量子コンピューティングシステムのタイプに焦点を当てていた。プレプリント論文によれば、量子マイナーは、約512量子ビット(qubits)というサイズで「大幅な」エネルギー節約を実現するはずだという(量子ビットとは古典的なコンピュータにおけるビットに似た単位)。

ただしNISQシステムは通常、50~100qubitsでのみ動作するという。エネルギー節約が実現可能であっても、512qubitsの量子コンピューティングシステムの構築および維持費用は法外な値段になる。D-WaveとIBMのみが、同じ範囲の顧客向けシステムを提供している(D-WaveのD2は512 qubitsプロセッサで、IBMのOspreyは433 qubits)が、そのアーキテクチャは大幅に異なるため、qubits数の比較は実質的に意味がないという。

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン