弁護士が解説!改正資金決済法と仮想通貨への影響まとめ

弁護士が解説!改正資金決済法と仮想通貨への影響まとめ

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平成29年4月1日、改正資金決済法が施行された。本法律の改正は平成22年4月1日に施行されてから7年ぶりとなる。今回の改正は、仮想通貨や取扱業者への規制が新たに盛り込まれた。本稿では、仮想通貨に共通する特徴と、仮想通貨に関わる改正資金決済法や税制に焦点を当て、弁護士が詳しく解説する。

  1. 改正資金決済法の施行までの流れ
  2. 仮想通貨とは
  3. 仮想通貨の共通の特徴① 発行者の不存在
  4. 仮想通貨の共通の特徴② 分散型の取引記録および匿名性
  5. 仮想通貨の共通の特徴③ ブロックチェーンと「発掘」による新規生成
  6. 仮想通貨に係る資金決済法の改正
  7. 仮想通貨に関する税制 ~消費税法
  8. 資金決済法におけるその他の改正内容

改正資金決済法の施行までの流れ

仮想通貨は、近年その利用者や流通量が徐々に増加しているが、その制度的な位置付けには明確ではない部分が残っている。

そのような中で、仮想通貨の消失事件が発生したことや、仮想通貨を用いた資金洗浄やテロ資金供与への懸念の高まりから、仮想通貨ないしその取扱業者への規制が求められていた。

これらの動きを踏まえて、内閣(所管は金融庁)が提出した、情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(平成28年法律第62号。以下「平成28年銀行法等改正法」という。)が、平成28年5月25日に参議院で可決され成立した。

この法律により資金決済法も改正され、仮想通貨に関する規制が新たに設けられることになった。

平成28年銀行法等改正法は、その附則第1条により、公布の日から1年以内に施行とされているところ、平成29年3月24日に、改正される各法の施行令および施行規則が意見公募手続を経て公表され、平成29年4月1日に施行された。

仮想通貨とは

仮想通貨とは

仮想通貨とは何かを簡潔に説明することは容易ではなく、改正資金決済法第2条第5項においても現状から帰納した内容の定義にとどまっているが、あえて表現すれば、物理的実体がなく、かつ現金を裏づけとしない固有の経済的価値を有することから、「サイバー金(銀)地金」が最も近いのではないかと考えられる。

各仮想通貨によって仕様の細部には差異があるが、仮想通貨は概ね以下のような共通の特徴を有している。なお、専門的・技術的見地からは正確性や厳密性に欠ける可能性があることに留意いただきたい。

仮想通貨の共通の特徴① 発行者の不存在

仮想通貨の共通の特徴① 発行者の不存在

仮想通貨には、中央銀行等の特定の発行者は存在せず、発行者が流通量を操作できるわけではない。

もっとも、このことは仮想通貨の流通量が発行開始から不変であるということを直ちに意味するわけではなく、流通量は後記の「仮想通貨の共通の特徴③」により、当該仮想通貨の提唱者によって発行開始時に定められた仕様に従い、一定の上限までは徐々に増加している。

仮想通貨の共通の特徴② 分散型の取引記録および匿名性

通貨の共通の特徴② 分散型の取引記録および匿名性

仮想通貨には特定の発行者が存在しないことから、仮想通貨の取引の記録は、大まかにいえば当該仮想通貨の利用者全員が保持する分散型の仕組みとなる。

各利用者は、利用に際して、仮想通貨の仕様(発行、記録、決済等の方法)が実装されたウォレットというソフトウェアを入手する必要がある。

そして、(ウォレットの種類によって保持する範囲は異なるが)そのウォレットを通じて、各利用者の下に取引の記録が保持されることになる。

ウォレットを第三者から入手する、またはウォレット機能そのものを第三者に委託する場合は、当該第三者が何らかの許認可を得ている業者であれば、当該第三者に適用される規制が利用者にも間接的に影響することになるが、自ら作成し、仮想通貨を自主管理すれば特段そのような制限は及ばず、本人確認を受けることなく匿名性を維持したまま利用することも可能となる。

仮想通貨の共通の特徴③ ブロックチェーンと「発掘」による新規生成

仮想通貨の共通の特徴③ ブロックチェーンと「発掘」による新規生成

仮想通貨のある利用者から他の利用者への移転取引は、発行開始時からの全利用者の全取引が記録されている。

移転取引は、一定量ごとに一つのブロックにまとめられて内容が確定し、その後は新しいブロックが開始することを繰り返し、ブロックが鎖のように連なっていくことから、このような記録形態はブロックチェーンと呼ばれている。

新しいブロックを簡単に接続できるようになっていると、第三者が真実の移転取引とは異なる不正な取引を勝手に実施しても、その不正な取引をまとめた正しくないブロックも次々と接続できてしまうので、仕様上、一つのブロックが完結して次のブロックを接続する際には、大まかにいえば一定の暗号を総当たり手法で解読することが必要となっている。

解読には優れた計算能力が求められ、そのための投資も必要となることから、最も早く解読した利用者に、報酬として一定量の新規に生成した仮想通貨が付与される。

この新規生成分の獲得を目指して大量のコンピューターを調達し、解読のための計算を実施することを俗に「発掘」、それを営む利用者を「発掘者」と呼ぶ。

この仕様により、不正な取引を記録しようとしても、他の発掘者全員の計算能力を上回らない限り、正常な取引が次々と記録される速度を上回ることができず、実際にはうまくいかないことになる。(逆にいえば、一定数の発掘者が団結した場合、分裂を含む仕様の変更が生じる可能性もある。)。

また、移転取引(の累積によるブロック更新)の費用は当面この発掘の報酬で賄われるため、安価な手数料での迅速な決済が可能となる。

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仮想通貨に係る資金決済法の改正

仮想通貨に係る資金決済法の改正

平成28年銀行法等改正法により、資金決済法が改正され、仮想通貨に関する規制が新たに導入されることになった。

なお、平成28年銀行法等改正法は原則として公法的な規制に関するものであり、規制の対象として仮想通貨の定義を設けているが、仮想通貨の私法上の性質や効力について新たに規定するものではないことに留意が必要である。

また、仮想通貨に関する税制上の取扱いも、同様に平成28年銀行法等改正法の対象外となる。これらの事項をも改正法の対象とするためには、法務省、財務省、総務省といった、各事項をそれぞれ所管する省庁との調整が必要となる。

利用者保護

仮想通貨は、特定の発行者が存在しないため、価値を記録した情報が消失すれば消滅してしまう。

保有者が自主管理している仮想通貨は、消滅した場合には当然ながら誰からも補償は受けられないことになる。

一方で、保有者が第三者に保管を委託している仮想通貨が、当該保管受託者の過失により消滅した場合には、当該保管受託者が賠償責任を負うことになるが、当該保管受託者に資力がない場合には、結局十分に補償を受けられない可能性もある。

このような事態を可能な限り防止するため、情報の安全管理措置(改正資金決済法第63条の8)や、業務を第三者に委託した場合の委託先に対する指導(改正資金決済法第63条の9)が仮想通貨交換業者に義務付けられている。

なお、他人の仮想通貨を管理する行為は、仮想通貨の売買や交換等に関して行う場合に限り仮想通貨交換業となるので(改正資金決済法第2条第7項第3号)、単に管理を受託するだけの場合(例えば、ウォレット機能のみを提供するような場合)は、当該管理受託者は仮想通貨交換業者としての登録は不要であり、これらの義務も適用されないことになる。

資金洗浄・テロ資金供与対策

仮想通貨は、自主管理であれば許認可の必要な業者の関与なしに利用することが可能であることから、資金洗浄・テロ資金供与対策という観点からは一定の限界が存在する。

もっとも、資金洗浄やテロ資金供与を企図する者からすると、自ら発掘も行い仮想通貨を第三者の関与なく取得できる状況にない限り、資金洗浄やテロ資金供与に用いる仮想通貨を入手するためには、仮想通貨を業として取り扱う取引所・交換所との取引が必要となる場合が多いといえる。

従って、仮想通貨交換業者に対策を義務付けることで、完全ではないものの、資金洗浄・テロ資金供与の抑止が可能となる。

そのため、平成28年銀行法等改正法により、犯罪による収益の移転防止に関する法律も改正され、仮想通貨交換業者も適用対象に含められることになった。

仮想通貨に関する税制 ~消費税法

想通貨に関する税制 ~消費税法

仮想通貨の取引については、特に消費税の課税関係が問題となる。

現在の消費税法上の取扱い

仮想通貨は、その価値を認める他人に交付する以外の使途が現状想定されないことから、経済的には(日本国内では強制通用力のない)外国通貨や前払式支払手段に類似しており、非課税とすることが望ましいと考えられる。

また、物理的実体を有しない価値情報であるという性質上、国境を越えた取引も容易であり、課税取引のままでは、仮想通貨が非課税とされている国又は地域との間での仮想通貨の売買と、国内での仮想通貨の売買に不均衡が生じることにもなる。

ただ、仮想通貨は、性質ははっきりしないものの何らかの資産ではあることから、その売買が定義上「資産の譲渡等」であることは否定しがたいため、非課税とするためには税制改正によりその旨の規定(例えば、消費税法第6条第1項及び別表第一の第2号〈外国通貨〉、第4号〈電子マネー等〉)を設けることが必要になる。

仮想通貨に関する税制改正

平成28年銀行法等改正法による資金決済法の改正までは、仮想通貨は法令上認知されておらず、特段定義も存在していなかったため、仮想通貨を対象とした税制を創設しようにも対象の画定ができない状態が続いていた。

今回、資金決済法の改正により、仮想通貨に対する規制が導入されることになったのを踏まえ、平成29年度税制改正において、仮想通貨の譲渡が非課税とされることになった(平成29年政令109号による改正後の消費税法施行令第9条第4項。なお、第48条第2項第1号にも仮想通貨が追加され、課税売上割合の計算にも影響しないこととなっている。)。

資金決済法におけるその他の改正内容

資金決済法におけるその他の改正内容

改正資金決済法における改正内容は、そのほとんどが仮想通貨に関するものだが、それ以外にも若干の改正がなされている。

前払式支払手段関係

前払式支払手段の利用者への情報提供方法の合理化、払戻し時の公告、苦情処理、発行者が供託等を行う発行保証金の算定基準日の追加に関する改正が行われている。

資金移動業関係

資金移動業の一部の廃止に関する手続が整備されている。

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