2017年7月22日 NEWSビットコインの動向に関する当協会の見解

※7月23日に恒久的なビットコインの分岐は起きませんので、ご安心ください。
※ただし一時的な分岐(オーファンブロック)が起きる可能性はあります。そのため23日はコインの確認は標準の6確認、もしくはそれ以上待つことを推奨します。
※なお、BIP(Bitcoin Improvement Proposal)66のときの例とは異なり、今回はすでにほぼすべてのマイナーがBIP91について理解しており、23日のアクティべート後に不用意にBit1を立てない採掘をするリスクは低いと考えます。

8月1日のBTC Cash、8月中旬のSegwitのアクティベート、そして11月中旬の2Mハードフォークが現状で分かる限り残された主なイベントです。

 

用語の整理

・ソフトフォークとハードフォーク
プログラムの変更の方法でありチェーンが分岐するかどうかとは直接は関係ありません。
またこの区分けはどちらかというとマイナー向けではなくクライアント向けに意味のある区分けであり、ソフトフォークの場合SPVウォレットなど多くのクライアントソフトウェアは変更をする必要はありません。

・チェーンの分岐(一時的と恒久的)
ブロックチェーンが分岐すること。一時的な分岐はオーファンブロックとも呼ばれ常に起きています(1日数回)。通常は1、2ブロック後にその分岐は行き止まりとなる(Re-Organization[再構成]とも言う)。
用語としてハードフォークという言葉が多用されるが、非常に混乱を招くので「分岐」という言葉を使うことを推奨します。

 

これまでの経緯

・Segwit (Segregated Witness)
署名部分を別管理にするというプログラムの変更のこと。ソフトフォークとして実装されます。トランザクションのサイズが小さくなる効果と、トランザクション展性問題を解決しサイドチェーンを利用しやすくする効果があります。

・BU (Bitcoin Unlimited)
1MBのブロックサイズを大きくするプログラムの変更のこと。ハードフォークとして実装されます。ブロックサイズをどこまで大きくするかについて動的な仕組みを持っており、そのためチェーンの一時的な分岐が起きやすいと言われています。

・BIP9 (投票)
プログラムの変更時に分岐が起きにくいようにするために、突然変更をアクティベート(有効化)するのではなく、事前に投票を行い十分な数の投票を得た場合に限り有効にする仕組み。
過去NブロックでX%以上の支持があればプログラムの採用が決定し(ロックイン)、Yブロック後に変更が有効になる(アクティベート)仕組み。

・BIP141
Segwitによる変更をBIP9による投票によって行う提案であり、従前から投票は行われてきました。しかしX%の部分を95%にしていたためなかなかロックインされませんでした。

・BIP148 (UASF[User Activated Soft Fork])
なかなかロックインされないSegwitに業を煮やして投票によらずに強制的にSegwitを有効にしてしまおうという変更。投票ではなくある時期(8月1日 0:00 UTC)になったら有効化される。
しかし少し変則的で8月1日になったらSegwitが有効化されるのではなく、8月1日になったらSegwit(BIP141)の投票を行っていないブロックを不正なブロックとみなすという変更でした。
結果的に不正でないブロックは 100% Segwit支持となるのですぐにロックインし有効化されるというシナリオでした。
しかし投票を介さないのでチェーンの恒久的な分岐の危機が高まりました。

・BTC Cash / BitcoinABC
BU をベースにしたハードフォークでUASFに対抗する形で提案された。UASFと同じで投票によらずに時刻で有効化する。
当初は UASF が起きた場合に限りその12時間20分後に起きるように設定されていました。
しかし7月18日になって UASF とは関係なく有効化すると宣言されました。

・ニューヨーク合意(NewYork Agreement, NYA)
過激な UASF により高まった分裂危機を収めるために Segwit と ブロックサイズの2MBへの引き上げを両方行うという合意。
多くのマイナー、取引所などがサインをしました。

・BIP91
ニューヨーク合意の結果としてまずは UASF と同じことを投票形式で行うこととした。投票を7月21日に開始し 80% で有効と決める。
UASF と同じこと、つまり Segwit(BIP141)に投票していないブロックは不正なブロックとみなします。
しかしUASFと違うのは投票を行うことで、十分な賛成がなければ発動しないため分岐のリスクは殆どありません。

・7月21日に BIP91 がロックイン
開始後すぐに BIP91 が80%を獲得しロックインされました。その結果7月23日午後8時ごろには有効化され、その後1ヶ月以内に Segwit が有効化することが確実となりました。
しかしロックインしたにもかかわらず一部のマイナーが Segwit(BIP141) のフラグを立てずにマイニングを行っていました。
そのまま7月23日を迎えるとチェーンの分岐が起きてしまうという恐れから、一部では「ソフトフォーク(UASF)の危機が8月1日から7月23日に前倒しになった」という情報が出ました。
しかしこの説明は完全に間違いで UASF が危機だったのは投票をしなかったからであってBIP91 は投票の結果これを行うのでネットワークの51%以上が裏切り者(ビザンチンノード)でない限り分岐は起きません。
なお、そもそも51%以上のビザンチンノードを想定するのであればいつでも分岐は発生しえます。
今回のこのマイナーの行動は不安を感じさせるものであったのは事実ですが、上記説明は理論的にも誤りであり、かつ、結果的にも誤りです。
なお、実際にロックインの数時間後には多くのマイナーが Segwitフラグを立てるようになっており、7月23日の分岐のリスクは本日現在、考えにくいです。

よくある質問

・8月1日に分岐は起きるのですか?
UASFによる分岐の可能性はなくなりました。しかしUAHF(BTC Cash)による分岐は起き得ます。

・7月23日に分岐は起きるのですか?
ネットワークに多数のビザンチンノード(裏切り者)がいない限り分岐は起きません。
しかし小数のビザンチンノードや変更のことを知らない「のん気な」ノードによりいつもより多くの一時的な分岐(オーファンブロック)が作られる可能性があります。そのため普段は1確認で済ましている場合でも、6確認以上を待つことが推奨されます。

・なぜ8月1日前後にコインの引出しや預入を停止する取引所があるのですか?
UAHFによる分岐後にトランザクションが発生するとそのトランザクションが分岐したどちらのチェーンには入るのかあるいは両方にはいるのか予測がつきません。
チェーンの分岐が一時的なのか恒久的なのか、一時的だとして何度も繰り返されるのか、なども予測できません。
そのため確実に特定のチェーンでのみトランザクションを発生させるために分岐の予測される前後ではコインの引き出しや預入を停止する場合があります。

・コインがなくなることはあるのでしょうか?
ビットコインの転送を行わなければブロックチェーン上にあるコインがなくなることはありません。
混乱期に転送を行うと意図していないチェーンのコインも一緒に移動してしまうことがあります。これを Replay Attack といいます。
また分岐後に受け取るコインについてはその分岐が恒久的なものであるかどうかの見極めがきわめて重要です。
一時的な分岐によるチェーンで受け取ったコインはなくなることはないものの、もうその分岐のチェーンでは新たなトランザクションが承認されることがないため使うことの出来ないコイン(≒無価値)となります。

・ハードウェアウォレットに入れておいたほうが安全でしょうか?
信用の置けない事業者にビットコインを預けておくよりは安全だと考えます。しかし、8月1日の分岐後にコインをそれぞれのチェーンで意図したとおりに送ることが出来ない場合は、ビットコインを分離送付できる事業者に預けておくほうが安全だと考えます。

・分岐するとコインが2つもらえるのですか?
分岐が恒久的なものであれば、分岐前のチェーンで保持していたコインは両方のチェーンで別々に利用することが出来るため2つもらえるのと同じことになります。但し、分岐後の2つのコインの価値がどのようになるかは市場により決定され、予測はできません。
また、証拠金取引などのレバレッジサービスで保持しているコインについての扱いは事業者ごとに扱いが異なります。

・マイナーのプログラムの変更は難しいのでしょうか?
今回のシグナル発信をするためのプログラム変更はBit1フラグ・Bit4フラグを立てること、またBit1 が立ってないブロックを拒絶するという簡単な変更です。プログラムの更新によるリスクは、8月中旬に予定されているSegwitアクティベートの方が高いと言えます。

・過去のBIP66では一時的な分岐が起きましたが23日も起きるのでは?
過去BIP66においてReOrgが必要だったのは不用意なマイナーおよびプログラムのバグがあったからで今回は
・ほぼすべてのマイナーがこのこと(BIP91)を知っている
・上述の通りプログラム自体が単純なのでバグが起こりにくい
の理由により大きなリスクはないと考えられます。

・でもマイナーが嘘をついているかもしれないのでは?
もちろんマイナーが悪意をもって(ビザンチンノード)シグナリングをし、悪意をもったハッシュパワーの存在を想定するのであれば、それは今回に限ったことではなく、ビットコインネットワークは混乱します。それを想定するのであれば23日に限らずいつでも一時的な分岐の可能性があります。もしビザンチンノードが51%以上いるのであれば恒久的な分岐もあり得ますが、これは今回に限らずブロックチェーンの根源を揺るがす事態です。

・それでも通常より分岐リスクが大きいのではないでしょうか?
23日に恒久的な分岐は起きません。一時的な分岐(オーファンブロック)は通常よりリスクが高く、23日は確認数を6以上に増やすことを推奨しています。

 

以上

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