リアル対話で得た「信頼」「共感」をブロックチェーンで見える化。仮想通貨c0ban創業者が生み出した新サービス

bajji office

東京・人形町にあるbajjiのオフィス。新しいサービスの開発が進んでいる。

撮影:小島寛明

リアルに人と会う。そして、会った人には「信頼の証し」を贈る。

ブロックチェーン上で、人が動いた記録を残すSNS「bajji(バッジ)」の開発が進んでいる。

「信頼の証し」は無制限には贈れず、日本円で買う。出会った人が信頼できると考えたとき、その証しとして「bajji」を購入して贈るという考え方だ。

bajjiのネットワークでより多くの信頼を集めた人は、リワード(報酬)も得られる。

プロジェクトを率いるのは、みなし仮想通貨交換業者LastRootsのファウンダー小林慎和さん。2019年4月に同社の代表取締役を退任し、新会社bajjiを立ち上げた。

「信頼を見える化できれば、それは資本主義の次の形になるはず。サービスを通じて、新しい時代の生き方をデザインしたい」と、小林さんは話す。

無制限の「いいね」の強みと弊害

SNSを全世界に広げたのはフェイスブックだ。

無料で誰でも参加でき、何度でも「いいね」を押すことができる。良い面もたくさんあるが、無制限に「いいね」が押されることで、不確かな情報やフェイクも拡散する。

小林さんは「フェイスブックは無料・無制限だからこそ広がり、世界をつなげてきたが、そのモデルは曲がり角に差しかかっている」と考えている。

bajjiのソーシャル・ネットワークで重視されるのは、実際に人と会うことだ。人に会ったときは、それぞれがスマホのアプリを開いて、会ったことを「エンカウント」として、ブロックチェーンに記録する。

リアルに会い、ブロックチェーンに記録

bajjiのサービスモデル

bajjiのサービスのイメージ

出典:取材資料より筆者作成

同じ2人が100回会い、エンカウントを記録してもいいが、100人と2回ずつ会った人の方が、高いスコアが記録される。

スコアは時間が経つと減っていく。3年前に仕事の打ち合わせでエンカウントを記録したが、それきりという場合は関係性は細くなる。

動き回って、たくさんの人に会い、しかも定期的に会うことで「太い関係性」をたくさん築くと、スコアが高くなる仕組みととらえていいだろう。

個人にスコアが集まる仕組みがもう一つある。最初は無料で割り当てがあるものの、その後は有料でbajjiを買い、会った人の活動に共感したり、人柄が気に入ったりしたときに、bajjiを贈る。

bajjiの販売で集まったお金は、スコアの高い人順にリワードとして配分される。

アカウントをつくる際には、本人確認の手続きも取り入れる。無料・匿名のインターネットから、有料・実名への転換を促す考えもあるようだ。

たとえば、就活のOBOG訪問で、いきなりリアルで一対一で会うのはちょっと気が引ける。こうしたときに、同じ大学から同じ会社に入った人の中から、より多くのbajjiを集めた人に会いに行く、といった使い方ができるかもしれない。

小林さんは「個人が生き抜く力をつけるために、bajjiを使い倒してほしい」と言う。

多くの人が活発に動き、その人たちが協力して何か新しいことが始まる ──。bajjiが描くのはそんな世界観だ。

みなし仮想通貨取引所が遭遇した荒波

小林さん

みなし仮想通貨交換業者の代表取締役を退任し、新会社bajjiを立ち上げた小林慎和さん。

撮影:小島寛明

小林さんが立ち上げに加わった会社は、通算で7社目になる。

bajjiの前に立ち上げたLastRootsは、独自の仮想通貨「c0ban(コバン)」を発行し、動画の広告を視聴した人も少額の仮想通貨が受け取れる仕組みで注目を集めたが、金融庁への登録が難航する。

2017年9月、改正資金決済法に基づき、仮想通貨の交換業者の登録が始まったが、LastRootsは審査を通過できず、「みなし業者」として運営することになった。

2018年1月、同じみなし業者だったコインチェックがハッキングを受け、580億円相当の仮想通貨が流出。みなし業者への風当たりが一気に強まった。

金融庁が示す経営管理態勢を整えて正式な登録業者になるには、膨大な作業を乗り越える必要がある。

登録を申請する業者に金融庁が提出を求める質問票は、質問項目が400項目を超える。ハッキングのリスクに備え、セキュリティを強化し、セキュリティやコンプライアンスに詳しい人材も新たに雇用しなければならない。

会社の支出が増える一方で、仮想通貨の価格下落とともに利用者も減った。登録を受けるまでの資金を確保するため、2018年8月には、ネット証券大手のSBIグループから追加出資も受けた。

取引所の代表を退任し、再出発。

そんななか、2018年9月に仮想通貨交換所のZaifがハッキングを受け、70億円相当の仮想通貨が盗み出された。

当然、LastRootsの登録作業もあおりを受けた。登録に必要なセキュリティや、人材の基準がさらに厳しくなった。

登録の難航に加え、仮想通貨の価格低迷が重なり、LastRootsは2018年秋以降、資金繰りに苦しんだ。小林さんらが支援企業探しに走り回った結果、浮上したのは、交換業への参入を目指していたオウケイウェイブだった。

2019年4月、LastRootsはオウケイウェイブの子会社になり、小林さんは役員を降りた。

LastRootsでの3年間は苦労が続いたが、そこから新たに立ち上げたのは、やはりブロックチェーンの会社だった。

bajjiのメンバーは、現在6人。6月にベータ版のリリースを計画している。

(取材・文:小島寛明)

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