アドテクのメタX(MetaX)は3月21日、「アドチェーン」というサービスを立ち上げた。ブロックチェーンの台帳を使うことでクリエイティブの一つひとつに、いわば「タグ付け」してインターネット上で追跡し、閲覧の有無、閲覧した人、実際に配信された場所、コンバージョン率、予算の使われ方などを把握しようというものだ。
暗号通貨の代名詞となったブロックチェーン。いまや、フラウドや透明性確保など、デジタル広告における問題点の解消に向けた新しい活用の取り組みが進んでいる。
アドテク企業のメタX(MetaX)は米国時間3月21日、「アドチェーン」というサービスを立ち上げた。ブロックチェーンの台帳を使うことでクリエイティブの一つひとつに、いわば「タグ付け」してインターネット上で追跡し、閲覧の有無、閲覧した人、実際に配信された場所、コンバージョン率、予算の使われ方などを把握しようというものだ。
理論から実践へ進む
メタXのCEO、ケン・ブルック氏によると、同社はブロックチェーン技術の実験を2年前に開始。この技術がビットコイン以外で、それも広告分野で使えるようになったのは、ブロックチェーンをベースとするオープンソースのソフトウェア「イーサリアム(Ethereum)」が登場したからだという。
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ビットコインを裏付ける技術として、これまでは金融分野でよく知られていたブロックチェーン。本質的には共有された巨大なExcelシートであり、さまざまな用途が考えられる。
マグロ漁が持続可能な形で実施されているか、購入したハンドバッグがコピー商品かどうかなど、幅広い検証が可能だ。広告分野でも、たくさんの企業がこぞってデジタルメディアの広告インプレッション追跡にブロックチェーンを採用することで、ブロックチェーンが理論から実践に移りつつある。
アドチェーンの特徴
重要なのは、ブロックチェーンおよびアドチェーンは理論上、業界の複数の参加者が、ひとつのグループのデータに依存することなく協力できる点だ。「不変かつ分散ということになれば、足並みを揃えられる」とブルック氏はいう。アドチェーンはこれから、クリエイティブアセットのxmlにトラッカーを埋め込んでいく。これにより、それを見ている人やビューアビリティの基準を満たしているかなどがリアルタイムで分かるようになる。
アドチェーンでインプレッションが本物かどうかを判断するのは、理論的には次のようなものだ。バイヤーが購入したインプレッションは、ブロックに暗号化され、チェーンのすべての参加者に一斉配信される。このインプレッションはパブリッシャーによって検証され、台帳に追加。ブロックチェーンに参加する誰もが、インプレッションの発生を確かめて承認できる。
アドチェーン技術の活用に着目するメディアエージェンシーのIMMでアナリティクス担当アソシエイトディレクターを務めるフレッド・アスカム氏によると、メディアを買い付ける同社にとってもっとも興味深いのは、詐欺防止のためのスケーリングだという。「インベントリー(在庫)がプロバイダー間で売買され、大量に再販される場合、どうしても問題が生じる。このインプレッションが経由してきたすべてのサーバー、クリエイティブのコード、表示された内容といった情報が、データベースに入ってくるだろう。こうして、トランザクションのレベルで大量のインサイトを得られるようになる」と、同氏は語った。
そのほかの広告活用
広告業界にはほかにも動きがある。ナスダック(Nasdaq)は3月14日、ニューヨークインタラクティブ広告取引所(NYIAX)を2017年中にローンチすると発表した。これにより、ブロックチェーン技術を使ったインベントリー販売が可能になる。
現在NYIAXでは、ブロックチェーンを「スマートコントラクト」という別の用途で使っている。スマートコントラクトは取引の促進を可能にするもので、これをブロックチェーンで使うことにより、条件が満たされる限り、一定の契約を自動的に締結できる。NYIAXのCEO、ルー・セベリーヌ氏はロイター通信に、「デジタルの取引が臨界量に到達したら、テレビ、紙、ラジオ、屋外広告の各市場への対応を開始する」と語っている。
サイマルメディア(Simulmedia)のCEO、デイブ・モルガン氏は、もっとも興味深い、ブロックチェーンの潜在的な用途は広告配信の検証だと語った。デジタル広告において、配信検証は間違いなく時代の潮流なのに加えて、アクセンチュア(Accenture)やデロイト(Deloitte)などによる集約的なチェックがあまりに複雑化し、費用も高くなりすぎていることから、効率化にも有効とされている。
議論はさらに広がっている。アドテク企業のマッドハイブ(MadHive)が、GoogleやFacebookの先を行く取り組みとして、OTTテレビ向けのブロックチェーン技術を開発中だ。同社の発想は、「TVエブリウェア(TV Everywhere)」などのOTTアプリを通じて、ブランドが広告インプレッションをリアルタイムで追跡するもので、アドチェーンとよく似ている。
ブロックチェーンの課題
問題は普及が進まなければならないこと。ブロックチェーンが機能するには、ブランド、エージェンシー、DSP、アドエクスチェンジ、パブリッシャーと、さまざまなレベルの複数のプロバイダーが、同じブロックチェーンに登録する必要がある。目下、製品の大半はベータ版だ。
「これは広告業界では何度か繰り返されてきたことだが、測定技術は登場から普及まである程度のタイムラグがある」と、ロク(ROKU)やアメリプライズ・フィナンシャル(Ameriprise Financial)などのクライアントを抱えるIMMのアスクハン氏はいう。「一定の透明性に向けた次なるステップであり、かなりのレベルの普及を必要としている」。
Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)
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