ブロックチェーンの誇大広告列車が広告業界にやってきてからそろそろ1年が経つ。「なにがなんでもブロックチェーン」という広告主の熱狂は、この技術がアドバイイングに整合性を取り戻してくれるまでにはまだ時間がかかるとわかってきて、少し冷めてきたのかもしれない。
「なにがなんでもブロックチェーン」という広告主の熱狂は、この技術がアドバイイングに整合性を取り戻してくれるまでにはまだ時間がかかるとわかってきて、少し冷めてきたのかもしれない。
ブロックチェーンの誇大広告列車が広告業界にやってきてからそろそろ1年が経つ。2017年のビットコイン価格の乱高下をきっかけに、メディアが買われ、配置される方法に明確さがかけている問題について、ブロックチェーンが万能ソリューションになると多くの広告主が確信した。だがそれ以降、騒ぎは沈静化してしまった。
ブロックチェーンが業界で広く採り入れられる時期について、広告主の意見が分かれるだけでなく、サードパーティの認証不要で売り手と買い手のトランザクションのログを残す技術が、未公開の手数料やアドテク税、詐欺、不透明な取引契約に関する懸念を和らげてくれるのかも定かではない。業界観測筋の目にはいま、ブロックチェーンは、大変革をもたらすものと、単に巧妙な仕掛けの中間に位置するものとして映っている。
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残された各種の課題
KPMGのブロックチェーン担当グローバルリードを務めるエイモン・マグワイア氏は次のように語る。「広告へのブロックチェーンの応用はまだ極めて初期の段階にあり、いろいろと研究はされているが、(広告主からの)問い合わせはほんのひと握りほどしかない。現状ではブロックチェーンの導入は、燃えさかる炎というより狼煙の煙が上がった程度でしかないので、それが広告業界で支配力を持つようになるまでにはあと2~3年かかると私は見ている」。
レゴ(Lego)のマーケターのレーダーはブロックチェーンを捕らえているが、会社として使う計画はないと、同社の新興プラットフォーム部門を率いるジェームズ・ポルター氏はいう。
「プログラマティックな購入でブロックチェーンを実験しているブランドはいくつかあるが、たとえば『イーサリアム(Ethereum)』のような共有プラットフォーム上でもそれが使えるのかなど、メディアエージェンシーに対して問われるべき事柄もいくつかある」と、ポルター氏。「問題は、これから利用しようというシステムを全員が信頼しなくてはならないということで、それは、自分たちが実際に支持する(ブロックチェーンの)ソリューションに関して、業界が基準をある程度固めることができたときにのみ起こることだ」。
その点に到達するまでに、この技術が超えなければならない積年の障害がいくつもある。
ブロックチェーン・エバンジェリスト(伝道者)たちは、1秒あたり数千のトランザクションを処理するこの技術の能力を自慢している。アドエクスチェンジは、1秒間に数百万のトランザクションを処理する。これは、ブロックチェーンのほとんどの変数にとっては扱いきれない規模だ。ブロックチェーンはさらに、リソースを枯渇させる。ブロックチェーンが拡張されて、より多くのメンバーを含み、より多くの取引を処理するようになると、技術革新を目指すスタートアップ企業にとっては特に、それらを管理するためのコストも拡大する。これにより、広告主のなかにはブロックチェーンに懐疑的になるものもいる。ソリューションプロバイダーが約束してきたことが過去18カ月間に実現されていないからだ。
前向きなマーケターたち
アルコール製造業のペルノ・リカール(Pernod Ricard)のグローバルデジタルアクセラレーションディレクターを務めるピエール・イブ・キャロック氏はこう話す。「我々はブロックチェーンに注目しているが、広告主としてではなくディストリビューターとして、それが我々をどう助けてくれるかに関してだ。我々は、ブロックチェーンをめぐるWFA(The World Federation of Advertisers)との話し合いに参加しているが、我々は彼らを先導しているわけではない。ブロックチェーンは、広告が取引されるスピードという点において、現段階での最速の技術ではないので、それが現実世界のシナリオでどう機能するかをまず見る必要がある。だが、プログラマティック広告の購入にブロックチェーンが使われる可能性については疑う余地はない」。
キャロック氏は、新興技術に費用を注ぎ込む前に、広告主はコスト対価値を議論すべきだと言及する。プロクター・アンド・ギャンブル(The Procter & Gamble)やユニリーバ(Unilever)、ネスレ(Nestle)のように、メディアに多額の費用を費やしていて、メディアコスト節約のためにこの技術への初期支出をするであろう広告主にとって、ブロックチェーンの利点は明白だ。
メディアエージェンシー、エニシング・イズ・ポッシブル(Anything is Possible)の最高経営責任者(CEO)、サム・フェントン‐エルストーン氏は、「プログラマティックにおけるブロックチェーンの応用はまだはじまったばかりで、レガシー契約や好んで使う購入プロセス、関係性などの要素によって、ブロックチェーンのメリットを多くの人が実感できるまでに時間がかかっている。エコシステム全体を通じてブロックチェーン技術が展開されれば、パブリッシャー、エージェンシー、ブランドは、中央で管理された、スケーラブルかつ効率的な追跡技術へのアクセスを手に入れ、予算管理者がすべてをコントロールする力を取り戻せるだろう」と述べる。
広告主のあいだでは、真の製品を持つブロックチェーン企業が市場にはほとんど存在しない、という声が広がりつつある。インタラクティブ広告協会(Interactive Advertising Bureau:IAB)のテックラボ(Tech Lab)は2018年7月、メタX(MetaX)やフュージョンセブン(FusionSeven)、ルシディティー(Lucidity)のようなブロックチェーンのスタートアップ企業の技術を協会員がテストできるようにすることで、質問に答えるプログラムを発表した。
それを機能させる方法
ブロックチェーンの実用性には制約があるにもかかわらず、ゲームストップ(GameStop)のような広告主は、それを機能させる方法を見つけ出せたと思っている。
ゲームストップはこの18カ月、ブロックチェーン広告のスタートアップ企業ルシディティーやアドテクパートナーのアップネクサス(AppNexus)やインテグラルアド・サイエンス(Integral Ad Science)と共同で、フラウド検知や検証も含むプログラマティック購入者のすべての側面にブロックチェーンを利用する計画を進めてきた。
ゲームストップの広告エージェンシー、リチャーズ・グループ(The Richards Group)は、2018年6月にアドテクパートナーとブロックチェーン技術をテストし、ブロックチェーン経由でキャンペーンの詐欺まがいのインプレッション購入を減らすことができたという。こうした洞察を持つことはまた、ゲームストップが詐欺まがいのインプレッションをばらまく特定のサイトをブロックできるという意味でもある。
この取り組みを前進させるべく、ゲームストップは、プラットフォームを使って監査人の国際会計基準(IAS)を監査し、デマントサイドプラットフォームとサプライサイドプラットフォームの両方でメディアが実施を計画している方法でクリック詐欺マッチを確実にチェックできるようにしようとしている。ゲームストップは基本的に、ブロックチェーン内で取引するために、信頼されているパートナーがいるプライベートマーケットプレイスを管理したいようだ。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)