日経BP総研による「2019年・10の予測」の中編をお届けする。選んだ10のテーマは、どのテーマも既に変化の「兆し」は見えている。 2019年は、これらの「兆し」が「結実」へと向かい、評価が定まっていく年となるだろう。

【予測4】ブロックチェーン:金融以外でも世界を変える

 仮想通貨の「Bitcoin(ビットコイン)」を支える中核技術であり、分散型台帳技術とも称される「ブロックチェーン技術」が注目を集めている。「インターネット以来の大発明」と呼ぶ向きもあり、近い将来、社会を支える基盤技術となり、ビジネスや組織のあり方を根底から変えていくだろう。

 当初は「FinTech」に代表される金融分野が中心だったブロックチェーン技術の実証実験も、ここに来て流通、貿易、医療など様々な分野に広がりを見せている。いくつかの課題を抱えているが、ブロックチェーン技術は2019年以降、大きく花開くだろう。

 調査会社の米IDCによると、世界のブロックチェーン関連支出額は今後、年率73・2%の高い成長率で伸び続け、2022年には117億ドルに達するという。国内の支出額も、2018年の49億円から2022年に545億円へと急拡大するとみる。2018年の支出額は15億ドルと見込まれ、2017年の支出額の約2倍だ。

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組織や取引のありかたを大きく変える

 ブロックチェーン技術は、2008年にサトシ・ナカモトという謎の人物が書いたビットコインに関する論文に端を発する。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などと異なり、まったく突然、世に現れた技術である。

 ブロックチェーンとは、インターネット上に公開された分散型の「台帳」のことだ。複数拠点に分散配置されたサーバーなどに、それぞれ同一のデータを同期させて一つの台帳を維持する。

 これにより政府や中央銀行に依存せず、ネットワークの参加者全体でデータを改ざんできないように管理し、その信頼性を担保する。中央集権型の組織による「集中取引」から、非中央集権型の「利用者間の直接取引」への転換を図るもので、中央管理サーバーを介さない、低コストでの資産移転や決済が可能になる。

 例えば、複数の銀行を経由することが多く、手数料も日数も多くかかる国際送金に応用すれば、圧倒的なコストダウンと日数短縮が図れる。

 別の言い方をすると、ブロックチェーン技術は、「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)」に代表されるプラットフォーマーとは対極にある概念だ。膨大なデータを中央集権的に管理するGAFAに対して、ブロックチェーン技術はネットワーク全体でデータの真正性を証明する。

 こうした可能性に着目し、ブロックチェーン技術に取り組む企業が増えている。

 対話アプリ大手のLINEはブロックチェーン技術を使った仮想コイン(トークン)サービスを2018年末までに開始する。発行するトークンの総量や、どのようなロジックで配布したのか、ブロックチェーンを通じて全て可視化する。透明性を担保することでサービスへの信頼を高める。

 ソニーはグループ会社と共同でブロックチェーン技術を使ってデジタルコンテンツの権利情報を管理するシステムを開発した。音楽や映画、教科書、電子書籍などのデジタルコンテンツの作成日時や作成者をシステムの参加者間で証明できる。今後、ソニーグループの事業にどのような形で適用できるかを検討していく。

 ほかにも医療情報管理や電子投票、貿易、保険、コミュニケーション、トレーサビリティーなど、ブロックチェーンの適用領域はどんどん拡大している。

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「ブロックチェーンならでは」を見つけられるか

 大きな潜在力を持ったブロックチェーン技術だが、技術者不足や処理性能(スケーラビリティー)など、乗り越えなければいけない課題は山積みだ。

 中でも大きいのは、「ブロックチェーンでないと解決できない」とか「ブロックチェーンにすれば圧倒的に性能が上がり、コストが下がる」といったユースケース(事例)がまだ見つかっていないこと。既存のビジネスロジックを置き換えたり、技術の検証をしたりといった試みはたくさんあるが、現状では決定打に欠ける。

 2019年に期待したい。