イベントレポート

ブロックチェーンの「Next Use Case」をテーマに有識者が語る、銀行や証券会社の境界がなくなる世界

「ブロックチェーン・ビジネスサミット」トークセッションレポート第1弾

 12月18日、ブロックチェーン特化型コワーキングスペースの「Neutrino」と「HashHub」は日本マイクロソフト株式会社と3社合同で、東京・ベルサール六本木にて「ブロックチェーン・ビジネスサミット ~Beyond PoC~」(以下、ビジネスサミット)を開催した。同イベントは、ブロックチェーンの活用に興味のある企業やスタートアップ、エンジニア、学生を対象とした、ブロックチェーンに関する研究開発や実証実験により得られた知見を交換し合い、今後のビジネスに生かすことを目的に開催されたビジネスサミットである。

 メインホール、サブホールの2ホール制で行われたビジネスサミットは、メインではブロックチェーン業界の第一線で活躍をする有識者によるセッションが、サブではエンジニア向けにDApps開発等のワークショップが行われた。今回は、ビジネスサミットのレポートとして、数回に分けて代表的なセッションについて報告していきたい。本稿では、ブロックチェーンの「Next Use Case」をテーマに語る、セッション4として行われたパネルディスカッションの内容を紹介していく。

 50分という持ち時間で行われたセッション4は、Omise Japan株式会社の柿澤仁氏による司会進行のもと、大日方祐介氏、株式会社LayerX・CEOの福島良典氏、株式会社HashHub・COOの平野淳也氏がパネリストとして登壇をする。これまでの取り組みで得られた知見を踏まえ、ブロックチェーンの次のユースケースは何か、どのような領域に展開されていくのかについて議論を行う。

登壇者の自己紹介から

モデレーターを務める、Omise Japan株式会社の柿澤仁氏

 まずは、自己紹介からお願いしますと口火を切る、柿澤氏。

 自分だけプロフィールに社名も肩書も書いていないという大日方氏は、今年に入って「クリプトエイジ」という主に日本の若い世代に向けてブロックチェーンコミュニティを主宰しているという。普段は、海外のブロックチェーン最前線にて活躍をする人々を招き、企業向けに開発ミートアップを開催したり、先月は「NodeTokyo 2018」という名称で日本で初めてテクノロジーにフォーカスしたブロックチェーンカンファレンスをOmise Japan共催、Microsoftスポンサードで開催するなど、幅広く活動されているという。

 LayerXの福島氏は、ブロックチェーンは証券や電力と不動産などさまざまな分野で使え、コストを削減することができる技術だと考えているという。福島氏は、そのあたりに興味のある企業や、海外のプロジェクトと一緒に開発を行っているという。本日のセッションではネクストユースケースということで、何か少しでもみなさんの今後のビジネスに役立つを話したいと、自己紹介をする。

 今回のイベント共同主催者HashHubの創業者の1人である平野氏。HashHubはブロックチェーンスタジオとのこと。ブロックチェーンに関することは何でも相談してくださいという会社だという。HashHubは、起業家や開発者にコワーキングスペースを貸し出し、コミュニティ形成を促している。企業向けには、ブロックチェーンのリサーチからPoCの設計までやっているそうだ。また、エンジニア向けにブロックチェーンエンジニア集中講座も開催している。その他には、法人向けに有料でリサーチ・レポートを配信しているという。今日は、未来感のある話ができればと思っていると話す。

ずばりネクストユースケースとは?

 テーマは「Next Use Case」ということで未来感のある話もしたいが、(会場の)みなさんは現実感のある話を求めているかもしれないという、柿澤氏。最初は、本日のイベントに参加したという土産話を持ち帰ってもらうために、ずばりブロックチェーンのネクストユースケースとは何かをお伺いしたいと、単刀直入に尋ねた。

 平野氏は、次は信用コストを下げるということが目的ではないかという。IT関連や貿易に関する取引(他のセッションに複数回出てきた事例)を透明性のあるものにできるということは当然あるが、今日あまり話されてないこととしてあえて言うと、例えばEthereum上には分散型金融というものがあるという。これは銀行など金融系をバックにせずアセットが交換できたり、ステーブルコインを銀行預金を担保にせず、仮想通貨を担保にして実現可能なものがあるという。そういった経済圏ができていくのではないかという。

 我々が注目しているのは金融の領域だという福島氏。しかし、銀行や証券会社だけに向けたブロックチェーンを作ることに価値があるのかという、実はそうではないという。そのあたりにネクストユースケースのヒントがあるのではないかとのこと。

 現在、フィンテックの領域で何がおきているかというと、銀行や証券会社のアンバウンダリング(境界線がなくなること)化が始まっているという。分かりやすい例では、与信は、これまで銀行が決算書を見てレイティングや融資を決めていたが、最近ではネット決済のサービスが店舗のデータや事業所のデータを持っており、そのデータをもとに与信をしているという。つまり与信の機能が、銀行からいろいろな業者に分散しているという流れがあるというのだ。これは基本的に1つの会社がリスクを負ってお金を貸し出している状態だが、ここをトークンで小口化できないかなど、またその管理にブロックチェーンが使えるのではないかと、福島氏は考えているという。

 ブロックチェーンの最初のユースケースはBitcoinであり、Bitcoinのすごいところはいろいろある。皆さん自分の持っているBitcoinの量を疑ったことはないですよね? と疑問を投げかける福島氏。自分のウォレットに表示されているBitcoinの量を厳密に確認する方法はあるが、裏の仕組みを知らなくても表示されている数字を疑ったことはないはずだという。仮想通貨は、通貨を誰がどう担保しているかを、誰かの信用を使わずに証明できるのがポイントであると福島氏は語る。

 さまざまなものや権利を証券化していくとなると、その権利の保証を誰が行うのかが問題になってくる。たとえば電力なら化石燃料による電力より再生可能エネルギーによる電力のほうが価値は高いとされているが、クリーンな電力の取引で、その電力がどこからきて誰が持っているかなど、それを誰が保証するのか。何を持って権利を保証するのか、トレーサビリティをどう担保するのかというところにブロックチェーンは使われていくだろうという。そのマネタイズ手段としては、信用を売る。つまり、それが金融的なビジネスになっていく。銀行や証券会社に限らず、データを持っている企業、電力など色のないものを扱っている企業が、そういったモノに色を付けられる(区別が付けられる)のがブロックチェーンだという。それがお金以外の、ユースケースになっていくだろうと福島氏は語る。

 大日方氏もまた、2人が言うような分散型金融的な仕組みはアリだと思っているという。しかし、マスの人の生活を変えるという意味では先進国よりも新興国から起こっていくと思っているという。大日方氏によると、たとえば、東南アジアで鍵を握っているのはBinance社だろうという。シンガポールは国を挙げてクリプトの先進国になろうという動き方をしているが、Binance社も世界で初めて法定通貨と連携するサービスをシンガポールから始めようとしているという。これは、非常にインパクトがあるだろうとのこと。大日方氏は、東南アジア全域でBinance社は経済圏を広げていくつもりがあるんじゃないかと思っているそうだ。普通の人の生活を変えるようなドラスティックなモノを作ろうとすると、既存の枠組みからある程度サポートされている型じゃないとすぐには難しい。そういうことが2、3年で起こりうるのがシンガポール、インドネシア、フィリピンみたいな新興国から起こりそうだと大日方氏は見ているとのこと。

 先ほどの福島氏の話の中で、「権利を保証する」ことや所有権を表すことができるのがブロックチェーンのすごいところであるという話があったが、世間的にはスマートコントラクトばかり取り沙汰されていて、「権利を保証する」ことについてはあまり評価されていないように感じるが、これについてもう少し詳しくお伺いしたいと柿澤氏は質問をする。

株式会社LayerX・CEOの福島良典氏

 ブロックチェーンはシンプルに言うと台帳(帳簿)であると福島氏はいう。帳簿には何を書いてもいいが、一般的には資産を表すもの。Bitcoinの場合では、誰がいくら持っているかが書いてある。ノードを立てれば自由に帳簿にそれが書けるように思うが、同じデータを複数のノード、世界中のコンピューターが持つことによって、すべてで状態を合意している。これまでその合意を取ることが難しかったが、マイニングやステーキングに代表されるインセンティブを導入することで1つの状態に収束できるようになった。これはつまり、世界中で信用に足る台帳が共有されたということになるという。

 たとえばよく知らないシンガポール人がクラウドファンディングで何かやるとして、ICOで資金を集めたとして、その権利の20%を僕が持っているとする。この事実を誰も信用しなくていい。20%の権利を持っていることは台帳上で保証されている(裁判所とか法律上で権利を持つかは別)。少なくともデータ上は保証されるというのは、ブロックチェーンが活性した大きな進歩だと思うという。

 スマートコントラクトという単語はバズワードのように唱えられている。日本語に訳すとスマートな契約になるが、契約というと書類上の、企業間契約を簡単にするものが連想されがちだが、そうではないと福島氏はいう。スマートコントラクトは、どちらかというと台帳上の通貨の動きを決めたルールのようなもの。世間で言われる契約業務がスマートコントラクトによってなくなるわけではない。どちらかと言うと、権利の移転をプログラマブルにしたもの。1対1の送金ルールのような単純なモノ以外にも、2人で署名したらお金を引き出せるとか、ある条件下での配当金の比率を決めるなど、取引における複雑なルールを記述することに向いているものであるという。あくまでお金や資産を扱うもののサポート機能であるという。よってブロックチェーンのコアにあるのは、みんなに共有された台帳のデータが信用を持つこと、その数値によって「権利を保証する」ことだと思っていると福島氏はいう。

 柿澤氏は、今は、それを銀行などが高いコストをかけて作った台帳機能を維持しているということですね、と念をおす。それを、ブロックチェーンという技術で保証することで、いろいろと用途が生まれてくるという状況が現在ですね、と尋ねる。

 そうだとうなずく、福島氏。そこのコストがすごく安くなれば、誰しもが銀行みたいな機能を持てる時代になるのだという。

これまでの事例について

 これまで巨大な資本がないと保証できなかった台帳が、ブロックチェーンによって簡単に保証されるようになった。プレーヤーはそれを使ったサービス展開ができるようになる時代に突入したということですね、と柿澤氏はこれまでの意見をまとめる。それでは、これまでいろいろ見られてきた中で、ブロックチェーンによる面白い事例はありますか? と新たな質問を柿澤氏は投げかけた。

株式会社HashHub・COOの平野淳也氏

 平野氏は、「Compound」というプロジェクトが面白いという。Compoundは、Ethereumのブロックチェーン上でアセットをスマートコントラクトで貸し出しをしようというものプロジェクトだという。簡単に言うと、仮想通貨のEthereumおよび数種類のERC20トークンを貸し出すことのできるプラットフォームだという。Compoundは、スマートコントラクトで貸し出すことで、相手が分からなくても、担保にしているものが可視化されているので貸し出しができるという。これは実際にサービスは動いているが、まだまだ通貨オタクみたいな人しか使っていないので、ここで話すのにふさわしいかは分からないとのこと。ここから発展して、証券のトークン化、セキュリティトークンを誰かに貸して利息をもらえる可能性があるのではないかと平野氏はいう。

 また、柿澤氏は大日方氏にも同様の質問をする。大日方氏は、海外のいろいろなファウンダーと話をしていると思うが、その中で日本より先行している事例、面白いプロジェクト、あるいは注目している事例があれば伺いたいという。

 大日方氏いわく、海外ではエンタメ領域に取り組んでいるところも多いという。DAppsゲームを初めて作った「CryptoKitties」は、有名であるという。また、アダルトの領域でも進んでやっているプロジェクトがあったりする。すごく真面目なプロジェクトで、これまでライブストリーマーは、配信プラットフォームに多額の手数料を払っていたという。よってこれまでの仕組みでは100円単位など少額の投銭は難しかったという。それを解決しようとしているSpankChainというプロジェクトがある。アメリカの有名なセクシー女優がアドバイスしているが、まだまだ超黎明期ではあるが、ライブストリーマーの決済手段として使われる可能性があるという。

 柿澤氏は、やっぱりエロとかエンタメは使いやすいですよね(笑)と返すと、一瞬、場内は静まりかえり、「え、自分だけ?」と言ったせりふで会場の笑いを誘った。

オープンソースに関する問題

 ブロックチェーンは、オープンソースということで広がりを見せてきた感もあるという柿澤氏。実際この点は、それを使っていく当事者としてどう感じているか、また、今後はどうなっていくといいのかというような事例や、意見があれば伺いたいと切り出す柿澤氏。

 平野氏は、まずオープンソースソフトウェアと、その周りにあるこれまでのビジネスの構造を、ブロックチェーン業界にいる人は勉強するべきだという。

 ブロックチェーンは信用のコストやソーシャルコストを削減する技術で、それがそもそもクローズドコードだとなかなか成り立たないという考え方をすると、やはり基本はオープンソースだろうという。Bitcoinやクライアント、ウォレットに関してもそう。秘密鍵がクローズドコードの中にあったら、それをサービス運営者が簡単に秘密鍵を盗めちゃうという問題があるだろうとのこと。

 これまでのオープンソースビジネスの代表はRed Hatという会社だと平野氏はいう。Red Hatは、オープンソースソフトウェアのLinuxをさまざまな企業に導入している会社だとのこと。Linuxに関しては世界中からディストリビュートされているオープンソースソフトウェアだが、GitHubにあるものをすべての会社が自分で導入するなんていうのは難しい。そこをうまく導入しやすくし、アップデートがあればその保証をするし、業界に合わせてインテグレートをするのがRed Hatだという。

 この話はIBMがやっているような「Hyperledger」の話とも近い。彼らはHyperledgerのパブリックをやっている。それはオープンソースでやる。これを使う企業に対してコンサルティングをしたり、導入をサポートしたりする。これもビジネス構造はほとんど同じ。こういったビジネス構造がリンクする場面はすごく多いという。

 柿澤氏は、オープンソースを企業に取り込むのは難しいと思うが、福島氏はソフトウェア開発をされている経験からして、それはありだと思うか? と尋ねる。

 福島氏は、基本的にはありだという。しかし、かなりリテラシーが高くないとオープンソースは使えないとも言う。また、それは技術面での話だという。今、ブロックチェーン業界にはエコシステムが足りていない。それを使いお金を稼げている会社は少ないと思うとのこと。ブロックチェーンはデータベースとしての性能はよくないので、いろんな企業やプレーヤーが乗っからないと意味がない。複数のプレーヤーが乗っかってきて初めて意味のあるシステムになるのだという。そこをオープンソースで勝手にやってくださいというスタンスでは、誰も乗ってこない。コンソーシアムチェーンやパブリックチェーンなどいろいろなものが今日出てきたが、すべてに共通していることは1社で閉じていたら意味がないということだと思うとのこと。複数の利害関係者を絡めて初めて信用やソーシャルコストが発生してくる。ブロックチェーンはそこを下げていくシステム。なので、そこに乗っかってもらう努力をしていかなければならないだろうという。

 大日方氏は海外のファウンダーといろいろ話されて、そういうディセントラライズ(非中央集権)のような潮流の変化を感じることがあるかを伺いたいという柿澤氏。

大日方祐介氏

 どこまでディセントラライズでやるかということはよく議論に上がるという、大日方氏。インターネットに相当するような分散型のものを作ろうと取り組んでいるプレーヤーはEthereumファウンデーション含めて引き続きいるという。彼らも1、2年前にICOして、ある程度走っていける資金があるからこそ、低レイヤーに集中して開発ができているのだという。彼ら自体も、実際にどうやってユースケースを作れるかというところを進めているという。

最後に

 それでは、そろそろ時間なので、ひと言ずつ、ネクストユースケースを作るにあたってエンタープライズ向けにご意見を伺いたいと、最後の質問をする柿澤氏。

 平野氏は、ブロックチェーンはかなり新しいことなので、ずっと調べたり勉強している人がこのステージ側に立っている。そういう人たちと、ブロックチェーンを導入したいという企業の間にかなり知識乖離があるという。HasHubはそういった企業に対しても知識乖離を埋めるためのソリューションをほぼすべて用意していくので、ぜひお声掛けいただきたいという。

 福島氏は、今日のテーマにもなっている「Beyond PoC」がポイントだと話す。ブロックチェーンは、実際のビジネスで使うまでいかずにPoCで終わってしまう、ブロックチェーンってこの程度かという理解で終わってしまうプロジェクトが多いという。ブロックチェーンは技術的に未成熟な部分もあるため、その一歩先に行くには、確かに技術の問題もある。とはいえできることもたくさんあって、そのできることがなぜ進んでないかと言うと、ビジネスになってないからだという。そこは法律や技術ではなく、ビジネスになってないからが一番の原因だと思うとのこと。

 福島氏は、ビジネスにできるところは、既にあるという。実際海外の事例を見ていると、まだキャッシュフローとして回ってないけど、トランザクションだけでビジネスとして食べていけるようなものがぼちぼち見え始めている。逆に技術の会社は、ブロックチェーンの技術にすごく詳しい会社でありながら、業界のドメイン知識が足りない。業界のドメイン知識を持っている皆さんと技術を持っている我々と、その技術をどうビジネスに変えていくかとをつなげていくことが大切だという。我々もPoCではなくビジネスを作っていきたいと思っているので、そういうことに興味がある企業の方にはどんどんお声掛けいただきたいという。

 今すごい黎明期だという大日方氏は、現在、仮想通貨を持っている人の数と1995年に公開されたインターネットのWebサイトの数が同じぐらいだという(インターネットの黎明期)。それぐらいブロックチェーンは、黎明期だという。ブームではなく、長期的な目線で取り組みたい。それに値するぐらい大きいマーケットだと思っていると大日方氏は語る。

 ブロックチェーン業界はものすごいグローバルで、世界同時多発的にいろんな試行錯誤が起き、世界が同時に動いている業界だという。やっぱり日本で日本人だけでやっていたら一生追いつけない。そもそもそれではブロックチェーンに取り組んでないのと等しいぐらいだと大日方氏は、思っているという。ブロックチェーンに関して、折角、世界から日本が注目されるポジションにある今は、20、30年に一回あるかどうかのチャンスだという。ぜひ日本のチームや企業から、次のスタンダードになるようなサービスとか企業を作っていきたいと思っているという。

 お三方の意見を伺い柿澤氏は、今日すごい学びが多く、さまざまなネクストユースケースが感じられたという。考えるヒントとしてはインターネットの歴史、オープンソースシステムの歴史、フィンテックの歴史など、これまで何が行われてきたのかを紐解いてみるといいんじゃないかという感想を述べた。信用コストが圧倒的に下がるってところにも着目しつつ、海外の潮流を見ながら日本もやっていきましょうという言葉で、セッションの幕を閉じた。

高橋ピョン太