あの騒動が、リアル(現実)社会に何を残したのかは今もって見えづらい。平成30年に相次いだ仮想通貨の流出問題である。ハッカー対策を怠ったという交換業者への責任追及で終わるなら、根本的な解決にはならないだろう。政府や中央銀行の枠組みを超えるという仮想通貨の理想は、嘘だったのか。バーチャル(仮想)世界で暴走する欲望に、歯止めをかけることはできるのか。社会課題を良心の観点からひもとく新しい学問「良心学」を提唱した同志社大神学部の小原克博教授に尋ねた。(小野木康雄)
通貨自体が仮想的なもの
--最近は「暗号資産」に名称を変える動きもありますが、仮想通貨という言葉自体が、分かったようでよく分かりません
「実は、通貨そのものが仮想的なものです。1万円札が紙切れにならずにモノと交換できるのは、それだけの価値があると信頼されているからです」
「通貨はバーチャルを土台にして成り立っている。言い換えれば、人間は存在しないものを作り出し、そこに価値を与えたわけです。太古の昔に作られた貨幣と仮想通貨は、原理の上では同じだと言えます」
〈仮想通貨は2008年、サトシ・ナカモトと名乗る人物の論文を元に、世界のネット愛好家らが電子取引のシステムを構築。政府や中央銀行に干渉されず、国境を越えて流通するのが特徴とされた〉
--仮想通貨をめぐる報道をどう見ていますか
「ほとんどがセキュリティーに関するニュースですね。では、安全性が確保されれば仮想通貨は普及していいのでしょうか。仮想通貨が社会にどう影響するのかという議論が、成熟していない印象を受けます」
--すると、何が問題だと考えますか