米IBMは、先週ラスベガスで開催された世界最大の家電見本市 「CES」において、量子コンピューター『IBM Q システムワン』を発表した。量子コンピュータの高速で優れた演算能力によりビットコインを始めとする仮想通貨が脅威にさらされる懸念が従来より出ているが、今回の発表に関しては「脅威にならない」と見る専門家が多い。

量子コンピュータとビットコイン

量子コンピューターは1982年に物理学者のリチャード・ファインマンが初めて理論を提唱。コンピューターの新時代を切り開く技術として期待されてきた。ここ何年かでグーグル、NASA、CIAなどが開発に着手。実用化が現実味を帯びてきた。コンピューター科学の専門家によると、超強力なマシンが登場すれば、現在の暗号化技術は通用しなくなる。そうなればビットコインの技術的な土台は崩れ、仮想通貨の偉大な実験は終焉を迎える。

英サイバーセキュリティー企業ポスト・クォンタムの共同創業者アンダーセン・チェン氏は、「ビットコインは量子コンピューターに耐えられない。第1号の量子コンピューターの誕生日が、ビットコインの命日になる」と、ニューズウィークの2016年10月の記事「量子コンピューターがビットコインを滅ぼす日」で述べている。

果たして今回のIBMの量子コンピューターで、ビットコインは滅びるのだろうか?

ビットコインの脅威ではない?

ブロックチェーン技術の人気専門書「マスタリング・ビットコイン」の著者であるアンドレアス・M・アントノプロス氏は、2017年2月Youtubeでの動画において、量子コンピューターとビットコインについて、以下のように語っていた。

量子コンピューティングの脅威は、それが1人の利用者にとってのみ利用可能で、他の人に利用可能でない場合にのみ現実的です。それでも、ある人が自分自身のスーパーコンピュータを開発することに成功した場合、ビットコインはターゲットにするには無駄なるくらい取るに足らないターゲットといえるでしょう」

今回のIBMの量子コンピューターに関しても、すぐにビットコインの脅威になることを否定する声が出ている。

暗号学者でブロックストリーム社CEOのアダム・バック氏は、eToroのシニアアナリスト、マティ・グリーンスパン氏とのツイッターでやり取りの中で、IBMの「Q System One」の100マイクロ秒の持続時間と20Qbitの計算能力は、従来のコンピュータと比較しても力不足と解説。今後数十年間は、従来型のコンピューターが市場を支配すると予想した。

さらにバック氏は、検証コスト署名などビットコインの開発者が量子コンピュータに耐性のある技術の開発に取り組んでいることも指摘した。

また、Bitcoin.comによると、マイクロソフト・クオンタムの主任研究者であるヘルマット・カッツグレイバー氏は、IBMの発表について「技術的に黎明期であるにも関わらず商業販売にこぎつけたという点でマイルストーン」と評価したものの、研究やPR目的以外ではほとんど価値がないだろうと話した。

サセックス大学の量子技術教授であるウィンフライド・ヘンシンガー氏も「量子コンピューティングに解決が期待されているすべての問題を解決できる量子コンピュータとは考えないでください」と述べたそうだ。