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仮想通貨 しくじり芸人たちの告白

仮想通貨のミライ(1)

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億万長者を意味する「億り人(おくりびと)」まで生み出した仮想通貨。ちょうど1年前の2018年1月26日、過去最大となる約580億円相当の「NEM(ネム)」がハッキングで盗まれた。普段、スマートフォン(スマホ)で資金を動かす利用者が慌てて運営会社本社に殺到する姿は、まさに仮想通貨バブルの崩壊が始まったことを象徴していた。なぜ、一獲千金の夢にのみ込まれたのか。人々は今、何をしているのだろうか。NEMに個人資産を全額投じていたお笑い芸人の藤崎マーケット、便乗アイドル仮想通貨少女の今を追った。

ツイッターで炎上

NEM流出事故は2018年1月26日、リアクション芸人、出川哲朗のテレビCMで有名になっていたコインチェック(東京・渋谷)で発生した。2014年に起きたマウントゴックス事件を超える過去最大の流出規模で、深夜に開かれた記者会見は炎上した。インターネットのニュースや動画で見ていた投資家も炎上する。

「コインチェックの仮想通貨が全て盗まれました。貯金すべてなくなりました。仕事ください。」(2018年1月26日 23:54)

藤崎マーケットが投稿した1本のツイッターが深夜にもかかわらず一気に拡散した。インターネット上で社会的騒動に発展するきっかけとなった。

96万人の1人

2019年1月9日午後5時、大阪市の吉本興業本社会議室。このツイッターの主を追い求め、記者は東京から大阪にやってきた。そこにいたのは藤原時(とき、34)。今は正統派漫才でなんばグランド花月にも出演し、関西で根強い人気を誇る藤崎マーケットのトキだ。12年前の2007年、ラララライ体操でブレークしたが、ほぼ全財産ネムに投資していた"しくじり芸人"として有名だ。

トキは仮想通貨投資家が最も多い30代。利用者350万人(現物取引)のうち3割超を占める96万人の1人だ(日本仮想通貨交換業協会調べ)。96万人という人数は"ミセスワタナベ"と呼ばれ、外国為替を動かすまでになったFX(外為証拠金)取引の愛好家を超えた。預金金利がほとんどつかない超低金利時代。個人マネーは少しでも利回り、価格上昇の見込める先を探し始めた面もある。コインチェックを買収したマネックスグループ社長、松本大は「かなり存在感のあるアセット。投機マネーがそこに流れたおかげで、資本市場はひょっとすると変に過熱せずに済んだ効果があったかもしれない」

仮想通貨の取引金額は69兆円(2017年度)。1年間で20倍、その前の年と比べると実に788倍に膨らんだ。一獲千金を夢見た大量の投資未経験者たちが仮想通貨バブルに飛び込んでいった。

そんな1人がトキだった。流出事故数カ月前の2017年11月、仮想通貨取引を始めた。芸人としてはネタにできるかもしれないが、経済的にはダメージが大きい。本人は今、何を思っているのか。のめり込んだ当時の状況も振り返りつつ、話を聞いた。

欲の化け物に

「NEM(の価格)は上がりきっていなかったので。『これは来るぞ』と」

トキは値上がりしそうな仮想通貨を物色していた。コインチェックは業界最多の品ぞろえ。ブームに乗ってクチコミで広がっていた。「はじめは1万円くらい。遊べるお金を入れてみようという感じ」。そんな気分は始めてすぐに吹っ飛んでしまう。「あれれ、すぐに1.2倍に値上がり、じゃあ、10万円入れてみよう。あれ、2倍になったぞ。右肩上がりだったので、誰にも相談せず、ぶち込みました(苦笑)」

トキの周囲は仮想通貨投資ブームだった。芸人仲間だけではない。営業先に向かうバスの中、遠くに座っていた衣装さんのスマホがちらっと見えた。黄緑色のコインチェックの取引画面だった。「あ、この人らもしてんねやあ、って。仕事が手につかず、欲の化け物になってました」

トキは株も投資信託もFXも手を出したことはない。真性の投資素人だ。「仮想通貨は実際に使えるの、魅力じゃないですか。ビックカメラとか」。特定のお店に限ってだが、モノやサービスを買えるため、「決済もできる投資」と考えれば、株や投資信託よりも手を出しやすかった。心理的なハードルが低かったのだ。

顔がコインに見える

一方、予想を超える損失を生むリスクがあるのも仮想通貨だ。「和田(晃一良)社長自ら記者会見したので、本当にとられたんだと思いました。一睡もできない状態になりました」。ウイスキーをロックで4杯、日本酒も5合飲んだ。翌朝、予定通り、吉本興業所属の大先輩ハイヒールリンゴが司会する番組に出演した。「生放送の間、リンゴ姉さんがずっとコインに見える謎の現象が発生して……。それくらい追い詰められていたんですね」

ネム流出により、トキの手元に残ったのはわずかばかりの現金と、電子マネーに入った6千円だけだった。

便乗アイドル

仮想通貨バブルは社会現象になった点でも平成の金融史に名を刻んだ。仮想通貨の特徴は世界中で一斉に普及したことにある。便乗したビジネスも国内にとどまらず、グローバルを意識したものが出て来た。

「だっておもしろくないですか(笑)。世界巻き込めるなって。あんま日本考えて無くて、世界にアプローチできるなって。タイミングをずっと伺っていた」。見た目30代半ば、男性プロデューサー、3104(サトシ、年齢非公開)は18年1月に結成したアイドルグループ「仮想通貨少女」の仕掛け人だ。

声をかけられた1人が上川湖遥(こはる)(18)。「仮想通貨という名前も知らない状態だったので、何が何だかわかりませんでした。マスクを付けてメイド服を渡されて戦隊ヒーローみたいに何かと戦うのかなぁって」

「仮想通貨少女」は、仮想通貨を擬人化したアイドル少女。それぞれビットコインやモナ、リップルといった仮想通貨名を割り振られた。結成のわずか1週間前のことだった。

CNNも取材

世界進出構想の出足はよかった。流出事故の2週間前、1月12日のお披露目ライブに米CNNや英BBCなど海外メディアが押し寄せたからだ。3104も「今回もコインチェック事件がなかったら、どうなっていたかわからなかった」と振り返るほど、当時の仮想通貨は世界とつながっていた。そんな矢先に流出事故が起きた。上川は流出した仮想通貨ネムの担当だった。がぜん、メディアの注目も高まる。所属事務所に1日100件以上取材依頼が押し寄せた。

ネム担当の憂鬱

当時、静岡県内の実家暮らしをしながらアイドル活動をしていた上川。「ネム担当」がいなければ取材が成立しないため、親元を離れて東京で寮生活をすることを決意し、高校も転校した。しかし、風向きは次第に逆風に。「コインチェックで盗まれちゃったり、凍結されちゃったりしたユーザーの方から『あなたたちがデビューしたからだ!』みたいなお言葉をいただくこともあって」。世界のアイドルを目指すどころか、コインチェックと同じく世間からバッシングを受けてしまう。

募金活動で世界へ

事件から1年。今では仮想通貨少女の仕事は「ほとんどない」。現在は仮想通貨少女と掛け持ちで参加するグループ「星座百景」が中心だ。仮想通貨少女は世間を騒がせ、多くの投資家を翻弄したコインチェックと同じくしぼんでいったが、上川は「私を変えてくれた、意味のある事件だった」と打ち明ける。

今でもボロボロになるまで専門書を読み込み、仮想通貨を勉強した結果、行き着いたのが「募金」だ。

海外協力を支援するボランティア団体、ピースウィンズ・ジャパンとの出会い。イラクに募金しようとすると高い手数料を払うと聞いた。その手数料があれば、さらに活動できるのに……。仮想通貨であれば手数料は無料。「助けを求めている人に仮想通貨が役立つんだ!」。団体側に提案し、2018年12月、台風で被害の出た岡山県真備町に50万円相当のネムを募金した。値上がりすれば込めた想いは何倍にも膨らむ。「次は世界に」と考えている。

仮想通貨少女の世界進出は道半ばだが、仮想通貨が世界共通の決済手段だからこそ、高校3年生になった上川の思いは世界への道とつながった。

仮想通貨バブルの崩壊とコインチェックの流出騒動はセットになって、人々の脳裏に強く焼き付いた。取材した人が共通して使う言葉は「事件」。当時、誰もが2014年に起きたマウントゴックス事件を想像していたからだ。流出した仮想通貨は580億円相当で、マウントゴックス事件の約480億円を超えて過去最高。マウントゴックスは運営会社社長だったマルク・カルプレスは今でも法廷に立っている。

しかし、コインチェックはマウントゴックスと違う道を歩み始めた。コインチェックは刑事責任を問われず、利用者に流出した仮想通貨を日本円で返金した。返金総額466億円で、被害者は7~8割取り戻した計算だ。相次ぎ損害賠償訴訟を起こされたが、急成長したコインチェックの営業利益は537億円(2018年3月期決算)。返金できるだけの利益を稼いでいた。

藤崎マーケットのトキも預けたお金が「7割ぐらい返ってきました。ゼロになると思っていたので。返ってきただけなのに、儲かったような顔してました(笑)」。これだけの大騒動を引き起こしたコインチェックは倒産せず、全額ではないものの顧客に被害も補償した。セキュリティがずさんで、経営が稚拙だったというのが仮想通貨に味噌を付けた構図だ。

日本円よりいいよ

「『なんか、またやりたい』と気になっている。仮想通貨自体は本当に良いものですよ。手数料もかからないし、一瞬で送金できるし、『日本円』と比べると絶対こっちの方が良いのに」。トキは実際、別の仮想通貨をまだ残している。その理由は「また注目される日が来るんだろうなと思っている」から。

日本円という貨幣で作られた世界は手数料もかかるし、預金金利も付かない、ある面では非効率ともいえるシステム。今の若者に映る現代の金融システム像だ。それを正面から否定しにかかったのが仮想通貨だった。「決済」という機能に未来を感じたからこそ、仮想通貨に価値が生まれ、投機マネーまで呼び込んでしまった。

 仮想通貨を実現した技術はブロックチェーン。分散型台帳と呼ばれる新技術は今まで主流だった中央集権型の思想を根底から覆す威力が潜む。長い道のりのまだ入り口に差し掛かったところでつまづいたコインチェック。セキュリティや安定性でなお課題の残る分野だけに、貨幣を軸にした世界とのせめぎ合いがこれから本格化する。仮想通貨陣営のチャレンジャー、それを体内に取り込もうとするディフェンダーのストーリーを紹介する。

=敬称略、つづく

(水戸部友美)

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仮想通貨のミライ

億万長者を意味する「億り人(おくりびと)」まで生み出した仮想通貨。1月26日はコインチェックから約580億円相当の「NEM(ネム)」が盗まれた流出事故からちょうど1年。普段、スマートフォン(スマホ)で資金を動かす利用者が慌ててコインチェック本社に殺到する姿は、バブル崩壊が始まった象徴だった。暗号資産へ改名する仮想通貨はどこへ向かうのか。ミライを探った。

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