インタビュー

ディーカレット時田社長に聞く「デジタル通貨は、儲け話ではなく生き方の話」の世界観

まずは仮想通貨による電子マネーへのチャージ、ポイントやギフトとの交換でその使い道を増やす

株式会社ディーカレット・代表取締役社長の時田一広氏

 仮想通貨交換所「DeCurret」を開業した株式会社ディーカレット。同社は3月27日よりDeCurretの新規口座開設の受け付け開始と共にメディア向けに「ディーカレット事業発表会」を開催した。発表会で代表取締役社長の時田一広氏は、ディーカレットは「デジタル通貨による価値交換プラットフォーム」の提供を目指し、すべての人がデジタル通貨を活用できる社会が訪れるよう、ディーカレットの事業を推進していくことを宣言した。

 金融庁認定の登録仮想通貨交換業者としては19社目の後発となるディーカレットだが、同社が目指す事業計画は独創的だ。ディーカレットは、仮想通貨や電子マネー、ステーブルコイン、ICO、STO等のトークンなどすべてをデジタル通貨と総称する。ディーカレットの事業は、すべてのデジタル通貨の価値交換を目指す、新しいお金のための「金融プラットフォーム」作りだという。今回は、時田氏の語る新しいお金のための「金融プラットフォーム」について、より深く話を伺いたく、直接インタビューをさせていただくことにした。

 なお、発表会の詳細については、すでにイベントレポート記事を掲載しているので、併せて参照いただきたい。

仮想通貨交換所「DeCurret」がターゲットとするユーザー層

ディーカレット事業発表会での時田氏

 最初に、ディーカレットが新たに仮想通貨交換業の分野に参入した理由を伺った。仮想通貨交換所「DeCurret」がターゲットとするユーザー層やディーカレットの直近の目標について聞く。

──DeCurretの新規口座開設受け付けが始まりましたが、まずはターゲットとするユーザー層や直近の目標について教えてください。

 仮想通貨取引または仮想通貨を保有している方々に安心して使っていただけるサービスを提供します。仮想通貨に興味があって実際に取引を行っている人は、自分が仮想通貨に詳しいか、もしくは周りに詳しい人がいて取引を行っている人がほとんどだと思います。

 仮想通貨の取引をやってみたくてポンとこの世界に飛び込む人もいますが、我々がいろいろなサービスを開発していく過程で、仮想通貨の取引をやっている人の多くはそばに仮想通貨に詳しい人がいるという調査結果があります。金融サービスというものは、信頼している人がやっていて、その人に教えてもらい始めるというケースも多いです。

 ディーカレットは、仮想通貨の「交換」「保管」「送受」をしっかりと行えるサービスを提供します。次のステップとして、一般的に誰もが利用している既存の金融サービスと連携を行い、仮想通貨の利用シーンを広げていきます。

──電子マネーへの仮想通貨のチャージが次のサービスとして予定されているというのはそういうことですか?

 電子マネーの利用者は多いので、仮想通貨からのチャージはニーズが高いと考えています。スマホ決済も含めた前払い式決済手段と呼ばれているようなキャッシュレス決済はターゲットとして捉え、仮想通貨からチャージ可能なサービスを展開していきます。

 次の段階として、ポイントやギフトと交換できるサーヒスを提供します。仮想通貨を現在あるサービスと連携することにより、金融サービスの橋渡し役として一般的な人々に仮想通貨を身近なものに感じてもらえると思っています。

 すでに仮想通貨を持っている人には、ポイントから仮想通貨に交換できたり、それを電子マネーやギフトに交換できたりするほうが仮想通貨だけの取引をするよりも使い道が増えます。また仮想通貨を高値の時に買ってしまって、現在、何もできずにそのままという人も少なくありません。そういう人が仮想通貨の新しい使い道として利用できるサービスが増えれば、仮想通貨の取引を再開してくれるようになるかもしれません。

──たとえば電子マネーにチャージしたポイントを仮想通貨として出金できるようなことについてはいかがですか? 現状で電子マネーが換金できてしまうと銀行の業ライセンスが必要な上、電子マネーサービス側のシステム改良も必要になるとは思いますが。

 既存の仕組みでは難しいと思います。かなりイレギュラーなことをすれば可能かもしれませんが、関係者に業務負荷も大きいでしょう。我々は、事業計画をステージ1と2の二段階で考えています。ステージ1は仮想通貨取引と仮想通貨の既存サービスへの交換です。ステージ2は対象をデジタル通貨に拡大します。ステーブルコイン等既存の金融資産を担保にしたデジタル通貨が出てくれば、我々のプラットフォームで交換できるようになる可能性があります。その時には、様々な価値を各金融サービスが自由に出し入れできるようになるかもしれません。

──ステージ2でデジタル通貨の出し入れ等が可能になった場合、交換対象によっては仮想通貨交換業者のライセンスだけではできないことも出てきますよね。そういった場合は、御社はそこに必要なライセンスを取得しにいくのでしょうか?

 どのライセンスで何ができるか、どのライセンスを取得するのかは、現時点でデジタル通貨の詳細や扱いが明確でないためコメントは難しいのですが、法に対しては真摯に向き合います。またすべてをディーカレットだけでやろうとは考えていません。ディーカレットのコアはデジタル通貨の交換と考えており、そのために必要なライセンスが明確になれば、取得する方向で取り組みます。証券会社がセキュリティトークンと言っているSTO(Security Token Offering)についても同様です。

新しい金融商品の可能性

──仮定の話ですが、金商法に関するライセンスを取った場合に、新しい金融商品が作れる可能性がありますよね。

 ライセンスに関しては前述の通りですので、あくまで可能性としての話ですが、証券会社と連携してSTOで発行されたデジタル通貨(トークン)を仮想通貨としてディーカレットで交換できるようになれば、証券トークンを交換したり、金融サービスに連携したりできるようになります。

──そうなった場合に、御社はSTOしたりICOをしたい企業に対してバックアップするようなことはお考えですか?

 金融機関や事業会社等様々なパートナーと協力して、通貨開発や発行、管理の仕組みを整備していきたいと考えています。

パートナー企業との関係について

 ディーカレットは、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)を筆頭に、国内大手企業19社の出資によって設立されたことでも注目を浴びたこともあり、その連携についても気になるところだ。ここで他社のみなさんと協力してやることというキーワードが出てきたので、今回、改めてパートナー企業との関係性についても伺った。

ディーカレットのパートナー企業(出資会社)

──パートナー企業のみなさんは、どのような思いで参加されているのでしょうか?

 各社のデジタル戦略はポテンシャルも大きい分、試行錯誤されていることも多いと思います。実現方法の1つとして、デジタル通貨交換で実現する取引と決済の一体化という世界があると考えていただいていると思っています。ディーカレットは、2か月毎に株主報告会を実施しており、我々の事業進捗の報告を行い、今までの主要テーマは仮想通貨交換業者としての登録と開業に向けた進捗を報告してきました。またパートナーの株主各社のデジタルビジネスに関する取り組みをご紹介いただき、株主さん同士の情報交換、共同での取り組み等を活発にディスカッションいただいています。STOのような話も出てきます。そういう意味でディーカレットはデジタルビジネスのプラットフォームです。

──やはりそれは、IIJさんとして培ってきたシステム等への信頼も大きいものなんでしょうか?

 IIJはFXシステムを自社開発しており、証券、銀行、FX専業10社以上に採用されています。このシステムをベースに仮想通貨を交換・保管・送受をするための特有の開発、ネットワークインフラやセキュリティ、コアシステム以外のリスク管理やマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策(AML/CFT)等の金融機関としての管理システム、開発全体の統括管理を含め、100名以上の開発体制をIIJと共同構築し、一年以上の歳月をかけて開発してきました。

新しいお金の金融プラットフォーム

 最後に1点、どうしても聞きたいことがあった。ディーカレットはホームページで、新しいお金のための「金融プラットフォーム」が目標であるという解説の冒頭で「私たちはもう住んでいる国の法定通貨に縛られなくていい」「デジタル通貨は、儲け話ではなく生き方の話」という話があり、その世界観に感銘を受け、より具体的に伺いたかったのだ。

──最後にこれまで伺ったお話と、ホームページに書かれていた「デジタル通貨は、儲け話ではなく生き方の話」はどうつながっていくのか。将来の夢としての話でも結構ですので、お伺いできますか?

 仮想通貨とデジタル通貨、そしてその先に、今おっしゃっていただいた夢の世界があるんですが、技術は仮想通貨の技術でできると思っています。仮想通貨でできることが広がれば、通貨の種類を拡大することで利用シーンが広がると思います。それが実現すると、ホームページに書かれている物語のような「私たちはもう住んでいる国の法定通貨に縛られなくていい」「デジタル通貨は、儲け話ではなく生き方の話」という世界は、そう遠くはないと思っています。

 通貨の種類というのは、まだいくつか課題があると思っています。これは単なるステーブルコインと呼ばれているものだけでは、実現できないかもしれません。ステーブルコインは、既存の資産が確定しているものと置き換えるものなので、仮想通貨の課題である安定性というものを解決します。ただ仮想通貨はコンセンサスアルゴリズムによってシステムが発行しており、法定通貨とは根本的に異なる概念の通貨です。ある意味、非常にユニークなものなんだと言えます。もしかすると、既存の資産に裏付けがない仮想通貨のようなもののほうが、世界で共通に使えるかもしれないですね。

 ステーブルコインは価値のデジタルへの置き換えという方法になるので様々な価値をデジタル通貨として発行できるメリットがあります。この方法で取引と決済の一体化等、既存の金融サービスではできていない、かなり多くのことができると思っています。ただ、法定通貨であれば、裏付けの資産は銀行に保管し、それ以外の金融資産であれば取引所か保管振替機構に保管される可能性が高いので、今と同様のコストがかかります。その辺りの方法を考えないと今の仕組みに縛られる可能性があります。

──そういった縛られない通貨を御社が発行するようなことはやらないんですか?

 ディーカレット自身は通貨の発行はしない方針です。流通プラットフォームが主要ポジションと考えています。プラットフォームが通貨を発行してしまうと、ニュートラルでなくなる可能性があります。但し、通貨を開発・発行する方々に対しての支援、協力はしていきます。通貨を開発・発行する方々に対しては、協力していきたいと思っています。

──そういう意味で、今後新たに扱う通貨の予定はありますか? あるいは現在取り扱いを予定している通貨以外に対してはどのようなお考えですか?

 仮想通貨については、選定基準に基づいて増やしていきます。すでに取り扱いを表明しているBTC・BCH・LTC・XRP・ETHについては、非常にポピュラーなものです。今後は、これら以外の仮想通貨とデジタル通貨に広げていく時にステーブルコインというものが対象に入ってくると考えています。現時点で明確になっているものではなく、随時発表していきたいと思っています。

 通貨交換においては通貨が商品です。通貨種類は多くあったほうがお客様に魅力的だと思っています。ただし、仮想通貨の取り扱いについては金融犯罪やお客様への安全性も含めて慎重に判断していきたいと思っています。また我々が安心して交換できるプラットフォームを提供することで通貨開発が進むことも願っています。

──ありがとうございました。

高橋ピョン太