イベントレポート

ブロックチェーンによる電力の厳密な制御と管理は再エネ化した未来のインフラに必須

FLOC主催「ブロックチェーン×エネルギーの現在と未来」より

 ブロックチェーン総合スクール「FLOCブロックチェーン大学校」を運営する株式会社FLOCは4月11日、東京・丸の内vacansにてFLOC特別セミナー「ブロックチェーン×エネルギーの現在と未来」を開催した。エネルギー業界の最前線で事業に取り組む5名が登壇し、パネルディスカッションを行った。

 セミナー冒頭では、RAUL株式会社・代表取締役の江田健二氏が登壇し、後のディスカッションに向けた意識共有として「エネルギー産業におけるブロックチェーン活用の展望と事例」と題した講演を行った。

大きく変わるエネルギービジネスと20年後のエネルギー像

RAUL株式会社・代表取締役の江田健二氏

 エネルギー業界では、「2019年問題」と呼ばれる課題がある。これは2009年11月から始まった、太陽光発電の余剰電力など再生可能エネルギーの固定価格買取制度「FIT」について、買取期間が満了する家庭が出始めるというものだ。昨今、それら電力供給も行う電力消費者「プロシューマー」が生み出す電力をどのように扱うということで、「ブロックチェーン」、「エネルギー情報」といった技術をキーワードにさまざまな取り組みが行われている。

 従来、一般消費者向けのエネルギーは、電力会社やガス会社が一方向的に供給してきた。2020年以降にはプロシューマーが急激に増加し、生産消費者が中心となって電力供給が行われる時代へシフトしていくと江田氏は言う。

 プロシューマーによる消費者間での電力融通の仕組みにおいて、ブロックチェーンが基盤となる。IoT機器同士が互いにブロックチェーンを介してつながり、電力を融通し合いながら、その記録をブロックチェーン上に記録していく仕組みが未来像としてあるという。

IoT機器同士が互いにつながりブロックチェーンで電気取引が自動化される2030年像

 電力の使用状況は、スマートメーターの登場によってインターネットを介してリアルタイムに共有することが可能となった。ここにAIスピーカーなどのIoT機器をかけ合わせることで、エネルギー情報に新たな付加価値を生み出す仕組みも検討されているという。

 こうした取り組みの延長として、江田氏は2030年以降のビジネスモデルの予想として、電力を販売しない電力会社の台頭を述べた。未来の電力会社は電気を売るのではなく、プロシューマーらの電力をマッチングし、電気の流れを最適化することをビジネスにすると語った。

トークセッション

パネルディスカッションの様子(写真左から、RAUL・江田氏、DELIA・中村氏、シェアリングエネルギー・井口氏、みんな電力・三宅氏、丸紅・吉野氏)

 江田氏の講演の後、江田氏を司会進行として4名のパネリストが登壇するトークセッションが実施された。セッションは会場からの質問に対して、パネリストが挙手制で回答していく形式で進行した。以下では会場から出た気になる質問とその回答をまとめる。


    パネリスト
  • 一般社団法人DELIA・代表の中村良道氏
  • 株式会社シェアリングエネルギー・事業開発室長の井口和宏氏
  • みんな電力株式会社・専務取締役の三宅成也氏
  • 丸紅株式会社・国内電力プロジェクト部企画チームの吉野美佳氏

ブロックチェーンを利用するビジネスモデルは電気事業法など制度設計の影響を受けると思うが将来的にどのようなビジネスモデルが可能になるか?

 この質問にはまず井口氏が回答した。氏は、P2Pの電力取引について、その商用化は2030年以降になるというのが大枠の見立てだと答えた。現在は低炭素電力など、環境価値取引の商用化が進んでおり、北欧やシンガポールではすでに実用化が始まっていると述べた。

株式会社シェアリングエネルギー・事業開発室長の井口和宏氏

 続いて三宅氏が回答する。みんな電力はP2Pの電力マッチング事業に取り組んでいる。2018年7月に実証実験を行い、2019年4月から商用展開中とのこと。三宅氏は、ブロックチェーンを用いたP2Pの電力マッチングは現行の法制度に則って可能だと答える。重要なのは、利用者が「誰にお金を払うか」であるという。電気を使ったことに対してお金を払うというルールの下で設計すれば計量法の影響を受けることがなかったという。さらに、相対取引の方式にすることで市場を作らずにシステムを成立させることができたと語る。

みんな電力株式会社・専務取締役の三宅成也氏

ブロックチェーンは電力の物理的制御に用いられるのか?それとも環境価値の交換にだけ用いられるのか?

 現状、ブロックチェーンを用いて電力の物理的制御を実行している実証実験は、知る範囲では行われていないと吉野氏が回答した。丸紅は米LO3 Energy社とともに仮想発電(VPP)の実証実験を行っている。そのLO3 Energy社は最終的には電力の取引から物理的制御までをブロックチェーンで実現することを理想と掲げていると吉野氏は述べた。

 続いて吉野氏は、環境価値取引におけるブロックチェーンの商用化は、ヨーロッパ方面では2020年代半ばになるという予想を述べた。イギリスやドイツでは、政府機関主導で法改正に向けて検討が進められているという。物理的制御を含めるとハードルが高くなるが、各機関での検討から5年程度で何らかの形になるという傾向から先の予想になるとのこと。

丸紅株式会社・国内電力プロジェクト部企画チームの吉野美佳氏

 続けて、同じ質問にDELIAの中村氏も回答した。DELIAの目的がまさにブロックチェーンによる電力の物理的制御であるという。パワーコンディショナーから出てくる電力データをエナジーサーバー経由でブロックチェーンに書き込む。この速度を上げていくと、秒間1万件にも迫る膨大なデータ量が発生する。これを処理し、面的制御を行うために必要なブロックチェーンの性能をDELIAは検証している。ここから抽出したデータを元にパワーコンディショナーを制御する設備をブロックチェーンを使って実現することを目指しているという。

一般社団法人DELIA・代表の中村良道氏

電力を個人間取引を行う分散ネットワークにおいて、いかにして同時同量の原則を満たすか?

 「同時同量という考え方をP2Pに当てはめると、成立しない」と答えるのは三宅氏。使う電気と作る電気を一致させる同時同量という考え方は電力供給の原則だ。再エネの発生量が予測できないことから、P2Pのやり取りにおいて事前に需給を擦り合わせることは不可能だという。電気を1つのプールと考えて、大きな取引プールの中で全体として需給のつじつまを合わせることが現実的だと三宅氏は語る。そして、プロシューマーすべてが別個に同時同量を満たすような制度は非経済とした。

 一方、再生可能エネルギーが80%を越えると今の電力系統が全く使えなくなると中村氏は言う。再生可能エネルギーが全電力に占める割合が高い状態では瞬間ごとに高速で同時同量を実現することが必要だと主張する。再生可能エネルギーは生成量が均一ではない。再生可能エネルギーの割合がエリア内で一定量を超えると、電力を物理的にきちんと制御しなければ、停電が頻発するリスクが生じてしまうのだという。

 つまり、現時点から近い将来までは同時同量を厳密に満たす必要はない。再生可能エネルギーの割合が増加する未来までに、エリア内の電力を正確に追跡し、リアルタイムに同時同量を満たすインフラを構築する必要があるということだ。そうしたインフラを構築するために、ブロックチェーンに可能性を感じていると中村氏は語った。

日下 弘樹