被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

それってネット詐欺ですよ!

内緒の情報をゲット! 流行の仮想通貨で投資金額が1000倍になるかも!?

 ビットコインなどの仮想通貨は、法案の改正に伴い「暗号資産」と呼ばれるようになりそうです。安倍首相も国会で、今後は暗号資産と呼ぶと言っています。そんな話題から入り、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の話をもらいました。

 ICOとは、企業が必要な資金を独自の仮想通貨で集めて、出資者にトークンを渡して配当を出す仕組みのことです。IPOと呼ばれる新規株式公開に似た資金の調達手段と言えます。企業側は、面倒な手続きや与信が必要な銀行から借りなくても、スピーディーに大きな金額を調達できるというメリットがあります。ICOはIPOよりも遙かに小さなコストで実行できるのもポイントです。出資者は、創業期の企業にアプローチできるので、将来上場したりすると大きなリターンを見込むことができます。

 分散型ストレージネットワークサービスを提供する「Filecoin」は、ICOにより2億3200万ドルを調達しました。日本でも2017年にテックビューロ株式会社が運営する「COMSA」が109億円を調達しています。

RRiceさんによる写真ACからの写真

 あるとき、SNSでつながっている人から、まだ世に出ていない企業のICOの話が飛び込んできました。堅実なトラディショナル企業が新規事業部門の立ち上げに際し、仮想通貨界隈では有名な人を巻き込んでICOをするというのです。一口10万円から購入させてもらえると持ちかけられました。ICOでは1000倍以上になるケースもありますが、今回は10~100倍くらいだろうと言うので、逆に信用できそう。さらには、万一の際には買い取ってくれるというのも安心です。そこで、100万円入金したのですが、1年以上経っても上場しません。返金してもらったほうがよいでしょうか?

 ネット詐欺の可能性が高いと言っていいでしょう。金融庁と消費者庁、警察庁は、仮想通貨のトラブルに関しての注意喚起を行っています。上記のようなICOの詐欺事例も掲載されています。

 ブロックチェーンの仕組みを利用する仮想通貨は、中央銀行が存在せず、強力なセキュリティによって守られています。ビットコインも仮想通貨も怪しいものではなく、将来性も十分。メリットだらけなので、いつかは主流の決済手段になる可能性もあります。

 ただし、現状ではいろいろと問題があります。ユーザーの知識不足につけ込み、ネット詐欺が多発しているのです。上記のようにICOに出資させるものから、存在しなかったりほとんど流通していない仮想通貨を買わせる手口、保有していた仮想通貨が5倍になったので売却したらシステムエラーを理由にトレード前の金額に巻き戻されたりするなど、枚挙に暇がありません。国民生活センターには、仮想通貨の運用コンサルタントを名乗って全資産を渡したら逃げられたとか、利用していた仮想通貨の口座が凍結されて何もできなくなったという事例が紹介されています。消費者庁は、LINEでつながれば毎月ビットコインを30万円分もらえるというのでつながったら30万円のタブレット端末を買わされたといった事例の注意喚起を行っています。

 質問にある買い取り保証も、まず買い取ってくれるかどうかがそもそも不安です。もし対応してくれても、100%返金はありません。2~3割戻ってくれば上々です。しかも、返金処理を行えば、詐欺で訴えるのも難しくなってしまいます。

 この手のネット詐欺を防ぐには、まずSNSなどで知り合った面識のない人からの勧誘には耳を貸さないことが重要です。信頼させるために、法律や有名人、実際の事例などを交えて話をしてきますが、仮想通貨の売買には、金融庁・財務局公認として、仮想通貨交換業者に登録されている事業者を利用する必要があります。登録事業者以外による売買は禁止されているのです。

 ここでしか、今しか、あなただけが、といった煽り文句や、100倍は固い、必ず値上がる、上場の情報がある、といった情報などに惑わされないでください。自分が投資するものに関してはとことん調べ、理解するようにしてください。理解できないなら、安易に投資をするのは控えた方がよいでしょう。株式など、厳格なルールが存在するなら、適当に投資しても一方的に損をする可能性は低いのですが、仮想通貨の環境はまだ整っていません。

 イギリスでも2018年度の仮想通貨に関する詐欺の被害額は3438万ドルに上り、被害届件数は前年比3倍以上に増えています。一攫千金を狙う若者をターゲットにしていました。

 あり得ない美味しい話はありません。欲望に駆られて正規ルート以外で変なことをすれば、いいカモです。支払えるだけのお金をむしり取られることでしょう。

 今後、テレビで仮想通貨や暗号資産が取り上げられる機会が増えてきます。そこで生半可な知識を得たことでネット詐欺に引っかからないよう、今のうちにご両親にこの手のネット詐欺の情報を共有してあげてください。

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