和田晃一良氏 独占インタビュー

 2018年1月末、約580億円相当の仮想通貨「NEM」を流出させたコインチェック。バブルの様相を呈していた仮想通貨業界に大きく影響を与えた出来事として記憶に新しい。コインチェックはその後、マネックスグループ入りし、2019年1月に仮想通貨交換業者の正式な登録が認められた。

 仮想通貨の代表格であるビットコインが210万円を超える金額で取引されていたのは2017年末のこと。当時は、テレビや週刊誌までもが仮想通貨をこぞって取り上げ、日本全国が熱に覆われていた。だが、ビットコインの価格はコインチェックの流出事故を前後して急落。一時は40万円以下まで値を下げ、現在は90万円前後で取引されている。

 コインチェックを率いていた和田晃一良氏が当時、何を考え、今、何を思うのか。事件後、初めてとなる単独インタビューで和田氏が胸中を語った。

 2018年1月26日の昼だった。社内ツールでアラートが飛んできた。「仮想通貨が流出したかもしれない」。事実確認を急いだが、すぐに間違いない事実だと分かった。顧客へのアナウンスをどうすべきかなど、現場に対する指揮をすぐに決めなければならなかった。

 当時、何を思ったか。正直に言えば、「まさかうちが」というものだった。しかし、ショックを受けている場合ではなかった。最善を尽くすために何が必要か、最速で対応するためにどうすればよいのか、気持ちを切り替えた。一刻の猶予も許されない状況だった。

 何よりも優先させなければと考えたのは被害の拡大を防ぐことだった。流出した仮想通貨は「NEM」と呼ばれるものだったが、ほかの通貨も同様に盗まれては被害が拡大してしまう。

 仮想通貨の保管方法にはオンライン上で保管する「ホットウォレット」、オフライン環境下で保管する「コールドウォレット」の二つがある。当時、NEMのコールドウォレットを用意して取引所の実務に耐えられる体制構築は技術的難易度が高かった。被害の拡大を防ぐためには、ほかの仮想通貨の状況を確認、原因究明し、資産を安全に保管しなければならない。

 なぜ、コインチェックのNEMが狙われたのか。総合的に考えれば、当時のコインチェックが取り扱う仮想通貨の中でも、ユーザー保有額が大きい部類の仮想通貨であり、ホットウォレットで管理していたからだろう。

 振り返れば、反省しかない。当時は仮想通貨業界が熱狂に近い盛り上がりを見せていた。顧客数も取引量も拡大し、サーバーの負荷分散をどうするか、顧客対応をどうするかなど、社内で対応すべきことが急激に増えていった。

 セキュリティーの強化は当然念頭にあり、着手もしていた。だが、あらゆる対策にリソースを取られていた。

知らぬ間に抱えていた予想以上のリスク

 仮想通貨業界に集う人々、仮想通貨事業を手がける企業たち。全ては一緒に業界を作っていく同志だと思っていた。コインチェックが起こしてしまった仮想通貨流出事故によって、業界の進展が大幅に遅れてしまった。本当に申し訳ないと思う。

 もともとコインチェックの前身はレジュプレスという企業だ。「STORYS.JP」というユーザー投稿型のメディアを運営していた。その時に学んだのは、「テクノロジーは多くの人に使ってもらわないと意味をなさない」ということ。仮想通貨に興味を持ってもらったとしても、導入時につまづいてしまえば、見向きもしてもらえなくなる。

 まずは、仮想通貨に興味を持ってもらった人に使ってもらうことが仮想通貨業界にとっても重要だと考えていた。多くの人に使ってもらうためには、簡単に使えることが何もよりも重要だ。インターネット企業だからこそ、初心者でも使いやすいアプリの開発にこだわった。

 そのことが顧客に伝わったかは分からないが、コインチェックは数多くのユーザーに支持してもらえた。取り扱っている仮想通貨の種類が他社と比べて多かった点も支持されていた。NEMはもともとはそこまで人気のある仮想通貨ではなかった。しかし、日本全国が仮想通貨熱に覆われていく中で、日本でも一気に人気が出始め、ユーザー保有額が増大していった。

 ハッカーの立場に立てば、当然リターンの多い仮想通貨を狙う。いつの間にか私たちは予想以上のリスクを抱えていたということになる。

 先日、マネーフォワードフィナンシャルが仮想通貨事業を白紙に戻す発表をしていた。業界全体に迷惑をかけてしまったことを大変申し訳なく思っている。我々の流出事故は、レギュレーションが厳しく引き締められる一因となってしまった。(続く

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

春割実施中