インタビュー

ブロックチェーン技術を用いた電力取引で、消費者が電力融通しあう地産地消の未来

P2P電力取引プラットフォームを開発するデジタルグリッド阿部力也氏に聞く

今、ブロックチェーンの活用で熱い産業は、電力業界だといってよい。2016年から電力の小売が全面自由化され、再生可能エネルギーなどの電気を個人間で売買する「P2P電力取引」が可能になった。その電力取引を実現するプラットフォームに、ブロックチェーン技術が用いられているのだ。

一方で、中央集権的な管理機構を持たないブロックチェーンの特性は、これまでの産業構造を大きく変えてしまう可能性も持ち合わせている。再生可能エネルギーのP2P電力取引においては、どのような未来が待っているのか。同分野で先をいくデジタルグリッド株式会社・代表取締役会長・最高技術責任者の阿部力也氏に話を聞いた。

買いたい電力に嘘がない仕組みをブロックチェーンで構築

「省エネなんて言っている場合ではない。いずれ、どの家庭も、発電機を持って、自由な電力取引ができるようになれば、電気は使いたい放題の時代が来る。電気からはエネルギーを作ることも可能で、そうなれば、エネルギー問題に左右されない世の中もやってくる。皆がエネルギーを持てる時代は、とんでもない豊かさが待っている」

そう語るのは、デジタルグリッドの阿部力也氏だ。同氏は、再生可能エネルギーのP2P電力取引の行く先に、このような未来を描いている。ちょうど、インターネットが登場した頃、電話代が無料になり、いくらでも話せる時代が来ると言っても誰も信じられなかったように、今、電力の世界は、大きな変革の入り口にあるというのだ。

阿部氏が2017年に設立したデジタルグリッドは、再生可能エネルギーや分散電源を含めた電力取引のプラットフォーム「Digital Grid Platform(DGP)」を構築・運営している。具体的には、同氏が開発したデジタルグリッドコントローラー「DGC」を発電家と需要家に配備し、「どんな」電力を「いつ」「どこから」「どこに」「どれだけ」融通したのか、その需給管理を自動化し、取引内容をブロックチェーン上に記録する電力取引システムを実現した。

阿部氏が開発したデジタルグリッドコントローラー「DGC」

デジタルグリッドが実現した電力取引で特徴的な部分は、独自開発したデジタルグリッドコントローラー「DGC」だ。このコントローラーの中にブロックチェーンの秘密鍵を内蔵し、スマートメーターが計測した正しい電力量をブロックチェーン上に記録できるシステムを構築した。つまり、ブロックチェーン技術を活用するにあたり、“そもそものデータが正しいかどうか”という疑念がついてまわるが、デジタルグリッドコントローラー「DGC」の場合は、電力量を計測する大元のデータを書き込むため、間違いがないというのだ。阿部氏によると、意外にもこの部分を実現できている企業は少ないという。

「DGP」の仕組みイメージ(デジタルグリッド公式サイトより引用)

「消費者が電気を選べるマーケットを作るために一番課題だと思ったのは、買いたい電力に嘘がないことだった。電力の世界では、発電量を抑制しようとしても、誰かが無視して発電し続けることも可能であるため、公正な取引を実現するためには、誰が作った電気なのかをクリアにする必要があった」と阿部氏は語る。

同氏によると、現在、日本全体で2000から3000の発電機か存在し、再生可能エネルギーで作られた電気は300万キロワットにもなるという。これら全てに対して、誰が、どのように発電した電気なのか、大規模なコンピュータシステムを構築して把握するのは、むずかしい。皆で認証し合うブロックチェーン技術を用いる方が、よっぽど有効だというのだ。

電力業界でブロックチェーンの活用が進むドイツへ

そもそも、阿部氏はどのような経緯を経て、ブロックチェーン技術を用いた電力取引のプラットフォームを考案し、実現に辿り着いたのか。意外にも、「ブロックチェーンを知ったのは、大学で特任教授をしていた頃に学生から教えてもらった」と同氏は話す。

もちろん、それ以前に30年以上も電力業界に身を置き、発電所の建設などに関わってきた同氏であるが、大学で特任教授だった頃に、電力を好きな場所に分配できる電力変換機「デジタルグリッドルーター」を作り、特許を申請した。当時は、電力自由化の時代ではなかったが、福島出身の阿部氏は2011年に起きた東日本大震災をきっかけに原子力発電について切実に考え始めたという。

「原子力反対、だけではなにも解決しないと思った。お金を持っているのは消費者であり、消費者が電気を選べるマーケットを作ればいいと考えた」と同氏は当時を振り返る。そこからデジタルグリッドルーターを実現した阿部氏であるが、セキュリティ対策が一番の課題点だったいう。どうすればいいか。悩んでいた阿部氏の元に学生がブロックチェーン技術の話を持ってきたというのだ。阿部氏は「IT技術と電力技術、そこにブロックチェーン技術が加わって、電力取引が可視化できればトンデモないことが起きると考えた」と話す。

その後、阿部氏は電力業界でブロックチェーン技術の活用が進むドイツへ渡る。そこで、再生可能エネルギーを配電・小売する電力会社Innogyに出会い、ブロックチェーン技術の可能性を知ることとなる。Innogyはもともと、RWE(ドイツの大手エネルギー会社)の配電事業を売却して設立した企業であるが、ブロックチェーン技術の活用が同社の利益に大きく寄与したというのだ。

「Innogyが何をしたのか。彼らはそれまで電線に付けていたメーターをやめて、お客さんの家に発電機とメーターを付けるようにした。その情報をブロックチェーン上に記録することで、政府が電線を流れる電力量を把握できないシステムを構築し、税金対策につなげた」と阿部氏は説明する。ドイツでは、電線に付けられたメーター経由で電気が送電されると、政府が売上を把握できるという。そこから莫大な税金が発生するため、ブロックチェーン技術を活用した。つまり、中央集権的な管理体制から脱却するためのブロックチェーン活用というわけだ。

阿部氏は、このような先進的なブロックチェーンの活用をドイツで目の当たりにし、デジタルグリッドにおいてもブロックチェーンの活用を進めた。

デジタルグリッドがEthereumを選んだ理由

話をデジタルグリッドに戻そう。繰り返しになるが、阿部氏が開発・実現した電力取引のプラットフォーム「DGP」は、ブロックチェーンの秘密鍵を内蔵したデジタルグリッドコントローラー「DGC」を発電家と需要家に配備し、スマートメーターで計測した電力量などの情報をブロックチェーン上に記録する仕組みだ。阿部氏は、このプラットフォームの構築にあたり、ブロックチェーンにEthereumを採用し、その中でも組織が管理しやすいプライベートチェーンを利用した。スマートコントラクトで発電量と価格をマッチングさせ、それを元に発電家に発電時間や発電量を要求する。現在は、1年契約で実行しているが、いずれは30分単位の売買を目指しているという。取引の改ざんを防ぐための分散合意アルゴリズムとして「Proof of Stake」を活用し、いわば、多数決による合意形成を築いている。

数あるブロックチェーンからEthereumを選んだ理由について阿部氏は、「自分たちで作り込めるのが良いと考えた。なかでも、Ethereumのプライベートチェーンを利用すれば、ノードが限定され、マイニングの必要もない。また、Ethereumはコミュニティが存在して、みんなで作って進化していくのも良いと考えた」と語る。

つまり、コンソーシアム型のブロックチェーンは、最初にプラットフォームを築いた企業が、“ブロックチェーンのプラットフォームを売る”という発想で運用・管理が進む。となると、ブロックチェーンの管理は一社への依存度が高くなり、公平性を求める市場に歪みが生じる可能性もある。

阿部氏やデジタルグリッドの場合は、あくまでも電力取引を目的とした自社のプラットフォームとして使用するだけなので、ブロックチェーン自体が進化する方がいいと判断した。幸い、Ethereumは文献も豊富で日本国内のエンジニアで構築することも可能だ。

ただし、ブロックチェーンの特性として、デジタルグリッドのプラットフォームを利用して電気を購入する企業同士が、互いの取引内容が見えてしまう状況を防ぐため、デジタルグリッドとしては、ファイヤーウォールを立てるなどさまざまな対策も講じているという。

地産地消する電力融通をブロックチェーンで行う

冒頭でも記述したように、阿部氏はブロックチェーン技術を活用した電力取引について、“みんなが発電機を持つ時代”や“電気は使いたい放題の時代へ”といった、今はまだ、信じられないような未来像を描いている。

ところが、デジタルグリッドが環境省と取り組む実証実験では、すでに阿部氏が描く未来の一部が見え始めている。具体的には、「ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業」と呼ばれる環境省の実証事業で、デジタルグリッドが代表企業として推進しているのだ。

同事業では、さいたま市浦和美園地区をモデルに選び、系統電力(電線)と切り離された地域を作ることで、コンビニやショッピングモール、スマートハウスなど街区内だけで電力融通が行えるよう自立可能な電力系統をめざす。通常、再生可能エネルギーはある程度の段階で「発電過剰」になり出力抑制が行われるが、同事業では再生可能エネルギーの過剰分に対しても悪い影響を与えない配電網を自治体が持ち、ブロックチェーン技術を応用したプラットフォームで発電家と需要家の電力融通を行う。つまり、とある地域内で電力を地産地消しようという試みだ。

さいたま市浦和美園地区で実証実験中の自営線を利用した電力融通

阿部氏はこの取り組みについて「自治体が配電網を持ち、電力融通を行うことで、再生可能エネルギーの買い手が少ない状況を解消しつつ、自治体は配電網から収入を得られるメリットがある。また消費者だった人が発電側に回るプロシューマー(生産消費者)になり、電力を外へ売る自治体も現れるかもしれない」と話す。

こうした発言の背景には、阿部氏が以前訪れたドイツの影響もある。なぜなら、同国では再生可能エネルギーが広がったことで電力市場がヨーロッパに広がっているからだ。確かに、再生可能エネルギーを作るためのデバイスなど、初期投資には時間もお金もかかってしまうが、取り組みが一旦広がると、再生可能エネルギーほど安いものはない。

分散電源やブロックチェーン技術の活用で、P2P電力取引のマーケットは非常に面白い時代に突入した。この動きが産業全体、また社会全体にどのようなインパクトを与えていくのか、今後も見届けていきたい。

神谷 加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。