イラン、仮想通貨を一部解禁 米は制裁回避を警戒
【カイロ=飛田雅則】米国の制裁で苦境にあるイランが暗号資産(仮想通貨)の一部解禁に動いている。イラン政府は28日、法的位置づけが曖昧だったコンピューターを使って仮想通貨を得る「採掘(マイニング)」活動を許可した。国内使用は禁止のままだが、企業が外国との決済に使うなど本格解禁に向けた布石との見方もある。仮想通貨は監視が難しいため、米国はイランが国際決済に使うことで制裁の回避を狙っていると警戒する。
マイニングはコンピューターを使って膨大な仮想通貨の取引を記録し、見返りに報酬を仮想通貨で得る作業を指す。大量の電力を消費するため、電気料金の安いイランは魅力的で、法的な位置づけが不明確ななかでマイニング業者が増加。政府はたびたび業者を摘発してきた。
イランのロウハニ大統領は28日に閣議を開き、政府の許可を得た業者に対して、マイニング活動を認めることを決めた。新たに法律をつくるのではなく、行政の裁量で業者にマイニングを認める形だ。マイニング活動が活発になり、イランは国際的な決済に使える仮想通貨を大量に獲得できる可能性がある。
地元メディアによると、イランの中央銀行も徐々に仮想通貨の使用を解禁していく方向だ。まずはイラン企業が外国との貿易決済に使う準備を進めるのを認めることなどが想定されている。イランの方針転換の背景には米国の経済制裁がある。
米国のトランプ政権は18年にイラン核合意から離脱し、イランに対して原油や金融の取引を制限する制裁を再開した。今年5月にはイラン産原油の全面禁輸制裁に踏み切った。イラン経済の屋台骨である原油の輸出量は減り、同国経済は疲弊の色を濃くしている。
米国の制裁はベルギーに本部を置く、国際送金システムを運営する国際銀行間通信協会(SWIFT)にまで目を光らせ、国際的な資金の流れからイランを排除する狙い。米財務省は仮想通貨の取引業者やコンピューターの販売業者に、イラン人と取引しないように注意を促してきた。テロ・金融犯罪を担当するシガル・マンデルカー財務次官は「イランは孤立しドルの入手が絶望的となっている。仮想通貨を自らを守る手段と考えている」と警戒する。
イランと敵対関係にあるイスラエルで仮想通貨の取引会社を創業したエダン・ヨゴ氏は「1日あたり金額ベースで15億~45億ドル(約1600億~4900億円)ほど仮想通貨が取引され、国際取引も容易になっている」と指摘する。そのうえで「イランは米制裁の抜け道として使おうとしている」と指摘する。
仮想通貨は追跡や監視が難しく、米紙ニューヨーク・タイムズは「イランの大企業の監視はできるが、数多くある中小企業までは目が届かない」と指摘する。「イランによる仮想通貨を使った国際的な決済を許してしまう可能性がある」と警告する。
トランプ政権は対イランで「最大限の圧力」を加えた後に、北朝鮮と同様に交渉のテーブルに相手を誘い込む体験をなぞろうとしているとみられる。仮にイランが仮想通貨で制裁をかいくぐることができれば、米国の戦略は骨抜きになりかねない。