シリコンバレーにあるウォルマートの店舗
シリコンバレーにあるウォルマートの店舗

 米ウォルマートがデジタル通貨の特許を申請していたことが分かった。ウォルマート独自の通貨として買い物だけでなく在庫の流通管理などにも利用するものだ。フェイスブックが2019年6月に発表した「リブラ」は議論を巻き起こしているが、ウォルマートのデジタル通貨はどのようなものか。

ウォルマートが申請したデジタル通貨の特許(米国特許商標庁の資料より引用)
ウォルマートが申請したデジタル通貨の特許(米国特許商標庁の資料より引用)
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 今回の特許は2019年8月1日、米国特許商標庁で「SYSTEM AND METHOD FOR DIGITAL CURRENCY VIA BLOCKCHAIN」として公開されたものだ。ウォルマートアポロという会社から、2019年1月に出願されたもので、2018年1月にも関連特許が出されている。デジタル通貨の名称は「ウォルマート通貨(Walmart Currency)」だ。

 ウォルマート通貨はビットコインのように需要と供給で価値が変動しない。価値が安定しているステーブルコインとして発行する。米ドルを基準の通貨にするという。ブロックチェーン技術も利用する。これらの点はリブラとほぼ同じだ。

 ウォルマートの狙いの1つは、ビザやマスターカードなどのクレジットカード会社に支払う決済手数料の軽減だ。米国では多くの消費者がクレジットカードで決済する。筆者も米国で現金を使うのは月に5回に満たない。

 米メディア、ビジネスインサイダーの2014年の記事によるとウォルマートは年間約30億ドル(約3150億円)の手数料を支払っているという。現在はさらに大きな額になっているはずだ。ウォルマート通貨を発行することで手数料を削減し、商品の値下げの原資に回すことができる。ウォルマートの店舗のほか、パートナー企業の店舗などでの買い物に利用できるとしている。

デジタル通貨の銀行サービスを目指す?

 ウォルマートの主要な顧客でもある低所得者層は、信用力が低いことなどからクレジットカードや金融口座を持てない場合がある。実は筆者も米国に来てから1年間は現地でクレジットカードを作ることができなかった。クレジットスコアと呼ぶ信用指標がゼロから始まるためだ。信用力が低い顧客に対し、ウォルマート通貨でウォルマートでの決済のほか、金融サービスを提供することもできる。

 「金融弱者」へのサービス提供はフェイスブックも強調している。ウォルマート通貨は毎日の買い物に利用するものであり、クレジットカードに比べて割引きを設定すれば低所得者層での利用が一気に広がる可能性がある。

 またウォルマートはウォルマート通貨に利子を付けるとしている。この点は「銀行サービスではない。利子はつけない」としているリブラとは異なる点だ。金融サービスを提供すれば、ウォルマート通貨の利用者に対する低利率での短期の貸し出しなどが可能だろう。

 ウォルマートは全世界で約220万人、米国だけで約150万人の従業員を抱える。そうした従業員への給与の振り込みをウォルマート通貨で行えば、銀行手数料の削減や、ウォルマートでの購買の底上げにつながるだろう。ウォルマートは米国でフルタイムの従業員に1時間当たり平均で14.03ドルを支払っており、人件費やそれに関連するコストも大きい。

 これらの従業員が利用すればまずは100万人規模が一気に利用するデジタル通貨の銀行サービスが誕生することになる。

他のデジタル通貨利用者との連携も視野

デジタル通貨の使用で得られる情報を基に他の事業者や利用者との連携も想定する(米国特許商標庁の資料より引用)
デジタル通貨の使用で得られる情報を基に他の事業者や利用者との連携も想定する(米国特許商標庁の資料より引用)
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 ウォルマート通貨が特徴的なのは、顧客の商品購入を起点として、サービス連携できる仕組みを想定している点だ。デジタル通貨の持ち主が、青年か未成年かの情報も付加されており、酒やたばこの購入時に活用できるとしている。

 特許の内容によると、クラウドサービスを介して、他の利用者がリクエストした商品を購入したり、店舗から自宅への商品配送を請け負ったりできるようにするという。信用力のある個人同士をつないで、ウォルマートでの買い物を代行してもらうといったことが可能になる。買い物に行けない人の代わりに買い物に行けば、ちょっとしたお小遣い稼ぎになり、自分が買い物に行けない時にはウォルマート通貨を利用して誰かに買い物を頼むことができる。

 ウォルマートには多くの取引先が存在する。そうしたパートナーとのやり取りにもデジタル通貨を利用するとしている。ウォルマートの在庫を購入したり、設置や修理などのメンテナンス業者との連携も想定している。

 フェイスブックはリブラのサービスを2020年にも始めると公表した。ただ、世界中に20億人以上のユーザーを抱えるフェイスブックのデジタル通貨への参入に対し、米国議会や米国をはじめとする各国の金融当局が懸念を示している。各国の通貨や金融システムへの影響が見極めきれないからだ。

 これに対してウォルマート通貨は特許出願の段階であり、自社のリアル店舗での商品購入という用途を強調している。このためリブラに対するような警戒感や批判はないようだ。

 ただ、ウォルマート通貨が、現在あるポイントや電子マネー以上の利便性を訴求するには、通貨と同様の汎用性も求められる。そうなるとリブラと同様の議論が巻き起こる可能性もある。また、リブラが避けて通ろうとしている銀行のサービスに取り組むとなると、金融業界も警戒する可能性がある。


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