なんでお金が欲しいんだっけ? マネックス証券・松本大さんが選ぶ「お金以外の本」

マネックスグループCEO

マネックスグループ会長兼社長CEO・松本大さん

撮影:Ryuichiro Suzuki

ふと「本を読みたい」とは思うけれど、どんな本を読めば良いのかわからない。ECサイトでリコメンドで表示されるのは前に買った本と似たようなものばかり……。

そんな人に向けて、様々なジャンルの第一線で活躍している方に、テーマに基づいてご自身の人生のなかで影響を受けた本を紹介いただく「BLIND BOOK CLUB」。

それらの本をタイトルも著者の名前もシークレットでお届けすることで、アルゴリズム過多な時代に新しい気づきがあるような「本との偶然の出会い」を演出します。

今回、お話を伺うのは、今年4月に『お金の正体』(宝島社)を刊行したマネックスグループ取締役会長兼代表執行役社長CEO・松本大さん。

約6年ぶりの著書となりますが、株式投資やネットトレードの入門書や仕事術についての本ではなく、30年に渡ってお金を仕事にしてきた松本さんがタイトル通り「お金」そのものについての考察を深める本。

私たちの多くは日々お金に捉われて生きていますが、「お金そのもの」について考える機会はそうないのではないでしょうか?

お金を構成する3要素について

お金の正体

撮影:Ryuichiro Suzuki

同著の帯に記されたこんな言葉が、松本さんの「お金」に対する考え方を端的に表しています。

お金がたくさんあれば好きなモノを買えます。

お金がたくさんあればあるほど、信頼されます。

お金が集まる場所には、人の想いがあります。

お金はこれら3つの要素ですべて説明がつきます。

さらに、冒頭ではお金を構成する3つの要素について、光の3原色になぞらえてこのように説明がされています。

光には赤、緑、青という3つの原色があります。たった3つの色を混ぜるだけで、紫にも茶色にもなり、白も作り出せます。パソコンのディスプレイやカラーテレビの画面も、この3原色を上手にブレンドして、きれいな画像を映し出しています。

私はお金も光と同じように、3つの基本的な要素で成り立っていると考えています。「信頼」「価値」「想い」の3つです。

お金に関するあらゆる活動は、この3つの要素で整理できるのではないか、と。(16ページ)

その中でも、インターネットやSNSの普及による情報の民主化が「信頼」を独占してきたお金の絶対的な地位を揺らがせていること、絶対的な尺度と思われてきたお金の「価値」が時と場合によっては無力になりかねないこと、ESG(環境、社会、企業統治)投資やクラウド・ファンディングなど「想い」を持ったお金が力を持ち始めていることが指摘されています。

今回は、お金の持つ「想い」の要素についてメインに話を伺いました。

感覚的に「お金」を身につける

松本大

撮影:Ryuichiro Suzuki

ーー「お金の正体」というと、これまでの松本さんの本に比べてかなり包括的なテーマに思えるのですが、「こんな本にしたい」というイメージが当初からあったのでしょうか?

もともと、自分はずっと債券や為替を仕事にしてきました。

株や、最近では仮想通貨を提供するようになって、国内外、広い意味で「お金」に関わる仕事を33年にわたって本当にどっぷりとやってきて。

キャリアの後半ではお客様にお金への関わり方の提案やサービスを提供してきたのですが、「お金」にまつわるサービスの話ってどうしても抽象的になってしまいがちなんですよね。

そんな中、小さな子どもでも「お金」とはこういうものだというのが感覚的にわかるものがつくりたかった。お金ってなんなんだろうと自分なりに思索を深めてきたわけです。

ーーお金が感覚的にわかるもの…。アニメーションだったり、ストーリーだったりでしょうか?

夢は、文字のない本を作ることだったんです。

世界中で子どもが触れる、絵や感覚だけの本。それに触れたり見たりすることでお金がわかるっていう。

そういうのが夢だったんですけど、それはさすがに超天才的アーティストでも難しくて(笑)、わたしには到底それができない。

でも活字で書くのも大変だな……って。

大変だなっていうのは、執筆が大変なんじゃなくて「お金ってなんだろう」というコンセプト自体があまりクリアじゃなかったんです。

もやもやと「だいたいこういうことだろう」って思っていても、輪郭がまだクリアになっていなかった。

お金の正体を考えるきっかけは「仮想通貨」

お金

撮影:Ryuichiro Suzuki

ーーそれでもこのタイミングで本を出そうと思ったきっかけは?

近年、仮想通貨に関わるようになって「信頼」について考えてきたことなどはあったものの、まだ生半可な状態で『お金の正体』なるものを書くという決意が私にまだないときに、編集者の方がパッションを持って「やりましょう」と後押ししてくれたんです。

その中で話し合っている時に、もやもやとしたものがパリパリと剥がれて行って「お金の正体」の輪郭が明らかになっていったようなイメージです。

ーーそこでたどり着いたのが「信頼」「価値」「想い」だと。

その組み合わさり方はいろいろで、色の組み合わせが様々にあるように、お金にも「信頼」「価値」「想い」の3要素があって、「お金」と一概に言っても、その組み合わせや濃度によっていろいろな側面がある。

その中でも、特に「想い」の部分が昔に比べて強くなってきていると感じています。

お金の「想い」は自分自身

お金

撮影:Ryuichiro Suzuki

ーーその「想い」の部分が、金融業界に関わっていない一般の人にも想像がつきやすい部分なのではないでしょうか。この本では「お金」の例として、寄付金投資やクラウド・ファンディング、ESGが挙げられています。

「想い」のことを考えていたら、結局は「想い」とは自分自身なんだっていうところに行きつきました。それは僕自身の「想い」ではなくて。お金が持っていて、お金が果たす「想い」の要素の部分が、社会においてより重要になっている気がしているんです。だからこそ、一般の人にも想像がつきやすいのだと思います。

たとえば寄付するっていうのは、その寄付先に「想い」を伝えるアクションであって、経済的な交換価値を与えるというよりは「想い」を与えている、「想い」を託したり、注入したりしている……。

つまり、お金を使うということは自分を使うってこと、普段の消費も、ひとつひとつが「想い」だと思うんです。

お金を支払って何を食べるにしても、どういう服を買うにしても、全部自分自身の「想い」というか納得があったほうが良いんだと思っています。

ーー「収入と幸福感は比例しない」と本の中でも触れられていました。他人の価値基準の押し付けではなく“自分自身で選択しないと人生の充実にはつながらない”と。

本にも書きましたが、最近、子どもにお金をかけて、親が思うこれを勉強しろとかここに行けとか、お金を渡して習い事に行かせるとか、塾に行かせるとか、これってどういう行為なのかって考えるんです。

結局、それは自分の「想い」を押し付けていることになるから。親は「金まで出してやっているのに」と言いがちなんですけれど、それって「想い」の押し付けですよね。

それが100%悪いかっていうと言い切れないところもあって、親が子どもに対する「想い」があってそれをぶつけてみる、というのはまあ「アリ」なのかもしれないけど、それでも一方的になってしまいがちです。

親も「子どもにお金を使う」というのはそういう側面があることをわかっていないといけないと思います。自分が子どもに「想い」を押し付けたとしたら、1万円にしろ1000万円にしろ、「想い」が大きければ大きいほど「重い」んです。負担になるんです。

大人も子どもも、みんなこの本を読んでそういうことを考えてくれたら良いなあ、って思いますね(笑)。

お金を考える「想い」を育む本3冊

オススメ本

撮影:Ryuichiro Suzuki

お金にまつわる「想い」は社会性を帯びるもの。先ほどの子どもの例のように他人に共感し、「想い」を育むことは、他者への想いを馳せることにもつながります。そこで今回の「BLIND BOOK CLUB」では、松本さんに『お金の「想い」を育む本』というテーマでセレクトしていただきました。

■ 一冊目:前に進む力をくれるアフォリズム集

この本の中の一つの言葉の「常識的な概念とは逆のもの言い」が心を楽にしてくれて、前に進むための力をもらえたのだと言います。アフォリズム集には2つの良いところがあって「気軽に読める」「いい言葉を知ることで、それが行動規範になる」とも。

■ 二冊目:辛いときに「救い」を感じる短編集

人間って、辛いときに、それが自分だけの問題だと思うと脆くなってしまうもの。だけど、自分の抱えている問題が古今東西、みんなが抱えているものなんだって思うとすこし気が楽になりますよね。

この本の説明をする際に、松本さんはこう言いました。大人になってからも思春期的な感情は抱えてしまうもの。自分に対する不満や、こうありたい自分となれない自分などが描かれているこの短編集に今でも懐かしさの混じった「救い」を感じるのだそうです。

■ 三冊目:「折れてしまった人」の心がわかる本

25年以上、経営者としてマネージメントを行ってきた松本さん。やはり部下のマネジメントについては考えることが大いにあったのだそう。モチベーションの維持はもちろんのこと、「折れてしまった人」に対してどのような接し方をするかは、非常に微妙で大切だったと言います。間違えると非常に負担になるものですが、この本を読むと、「折れてしまった人」がどんな言葉で傷ついてしまうのかがよくわかるのだと言います。

『お金の正体』では、お金の3要素のみならず「投資」や「仮想通貨」「金融」、さらに松本さん自身の「正体」についても考察が行われます。見方をすこし変えるだけで、今後のお金との付き合い方が変わったり、漠然と抱いている不安が払拭されることだってあるかもしれません。「お金ほしーい」なんてつぶやいてしまいがちな人は、「BLIND BOOK CLUB」から届く本を手に取ってみても良いかもしれません。


 


「BLIND BOOK CLUB」とは
「BLIND BOOK CLUB」は、様々なジャンルの第一線で活躍している方にテーマに基づいてご自身の人生において影響を受けた本を紹介いただき、それらの本をタイトルも著者の名前も明かさずにお届けすることで、アルゴリズム過多の時代に「本との偶然の出会い」を演出するサービスです。仕事や暮らしのなかで抱いているもやもやが解消されたり、知的探究心を満たしたり、ストーリーや文章の一節に心が動いたり。選者とテーマの掛け合わせによって受け取る体験もちがうはず。その人がその本を選んだ理由の書かれたメッセージとともに読み進めていただけたらと思います。>>BLIND BOOK CLUBのプロジェクト一覧はこちら

Photo: 鈴木竜一朗

Source: BLIND BOOK CLUB , 宝島社

ライフハッカー[日本版]より転載2019年7月30日公開の記事

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