圧倒的正しさが故に難しい、ブロックチェーンと向き合う面白さ

Cryptoeconomics Labインタビュー1

業界で活躍する方にお話を伺い、業界の姿をお届けするインタビュー。

今回はCryptoeconomics LabのCTOを務める落合渉悟氏にお話を伺いました。業界内でも独特の雰囲気を放つ落合氏。同氏が思うブロックチェーンの面白さと難しさ、そして未来について語っていただきました。

落合 渉悟(おちあい しょうご)氏

全てのスマートコントラクトブロックチェーンに使用可能なL2開発フレームワークであるOVM、およびPlasma開発で世界的に注目を集めるCryptoeconomics LabのCo-founder/COO(同社リサーチャー部谷がCTO就任)。技術理解はさることながら、経済・国際秩序などにも広い見識を持ち、CELの高い技術力をどこに投下することで成果が最大化されるかについて全面的な責任を持つ。

ビットコインとの出会いとPlasmaに取り組むまで

– 仮想通貨・ブロックチェーンを知ったきっかけを教えてください。

一番最初にビットコインを知ったのはキプロス危機の時。2013年ごろでした。国の財政危機の際にブロックチェーンが逃避通貨として使われるユースケースを目の当たりにして、これは詐欺案件ではないんだなと実感しました。

– 仕事でブロックチェーンに関わるようになったのは?

その後はインドネシアでECアプリのCTOをしていました。インドネシアの金融は先進国と比べるとまだまだ未発達です。そのため、ECサービスが割賦払いなど一部の金融サービスを提供するような流れがありました。

金融サービスに使える技術を探している中で、イーサリアムに出会ったんです。当時はとても使えるものではありませんでしたが、いずれ化けるなと感じでいたので頭の片隅にいれていました。それがいつのまにか研究に費やす時間が増えていき、最終的にすっかりハマってしまったという形です(笑)

– プラズマに注力し始めたきっかけはなんだったのですか?

イーサリアムの同時処理能力が低いという問題から、シャーディングやプラズマといった技術を追い始め、法人として事業化できる余地が相対的に大きいということでプラズマにフォーカスすることになりました。

弊社の中から海外の大きなイベントで登壇したり、最先端の研究内容を発表する社員も出てきています。今年8月にはTezos財団から助成金を受け、複数のブロックチェーンにまたがってプラズマを展開できるようにもなりました。つまりは、70億人にスマートコントラクトを届けることを考える際の、デファクトスタンダード化が始まっているということです。

現在、プラズマのプロトコル開発にフォーカスしているチームはCryptoeconomics Labのみです。この分野で先に開発を行なっていたPlasma Group(プラズマグループ)とは開発領域を分担し、Plasma Groupは数年先の中長期的な部分、私たちは1-2年先の直近の部分を研究開発しています。

いわゆる仮想通貨ブームの時期はたくさんの相談をいただきました。ですが、内容を見てみるとブロックチェーンの本質でないようなものが多かったのが事実です。法人として登記が完了したのが2018年の7月だったのですが、最初は純粋なプラズマの仕事はなかなか貰えませんでした。最近になってやっとプラズマ一本に絞れてきたというところですね。

ブロックチェーンの世界に妥協は不要

落合氏インタビュー写真

今取り組んでいる仕事の魅力とはなんでしょうか?

開発者目線でいうと、オープンソースの開発が基本なので、世界最高水準のエンジニアたちと質の高い議論ができます。弊社は地方在住者がほとんどですが、それでも妥協なく最高の仕事に携われるところが誇りですね。

最近私自身の仕事がBizDevよりになってきているのですが、そちらの目線でいうと、経済学的に新しい知見をどんどん発見して、世界を変えるレベルの提案ができるところです。

「世の中の現状がこうだから」と保守的になるといい提案ができず、容易に発想に蓋がされてしまいます。なので、できない理由を疑い、発想の蓋をはずして、かつ、きちんと世の中に受け入れられる現実的な提案をしていくという非常に高度なバランス感覚が求められます。そこが難しさであり面白さでもありますね。

ー 御社は完全リモートワークでの勤務なのですよね?

そうです。各々家やシェアオフィスなどから勤務をしています。オフィス代や交通費などをカットし、社員の給与水準を上げ、優秀な人材を確保するためです。リモートであることで、コミュニケーションの難しさはあります。

しかし、ロケーションを決めてしまうと採用範囲が日本に限定されてしまい、採用がますます難しくなってしまうので、グローバルで戦える組織を作る上で必要不可欠な戦略と言えますね。

圧倒的な正しさを実現するブロックチェーン

ー ブロックチェーンの面白さとはなんでしょうか?

例えば理論物理学におけるノーベル賞ものの発見などは、それまでの世界観を否定して、全人類に「存在論的なぐらつき」を与えるような知見が出てくることがありますよね?

ブロックチェーンも同じように人間が無視してきた社会の本質への問題提起が可能な技術です。

人文学的な社会実験のサイクルが高速化することによって、未だ発見されていなかった人間社会の新たな常識が次々発見されるのが、今後数十年でしょう。今まで難しかったシステムをオープンソースにあるものを使って実現できる。しかも実現までのコストが低いので、豊かな国・貧しい国関係なく試せます。

ブロックチェーンというのは、正しさが素直に勝つ世界で、頭のよくて理想主義的な人種たちが足止めを食らわずに最高スピードで動けます。この危険で強力なムーブメントを、いかに正しい方向に導くかというのが、最大の面白さですね。

ビジネスでは、現実はこうだから妥協しようという場面が多々あります。しかしブロックチェーンの世界では、妥協せずに理論的に正しいことができる。大量のノードが動いていて誰にも止めることができないというBitcoinから続くパブリックなブロックチェーンの特性が、正しさを押し通すことを可能にしているわけです。

しかし同時に問題もあります。正しすぎるので軋轢を生むんです。そうなれば国につぶされるのが今までの流れですが、潰すことができないので軋轢がそのまま大きくなっていきます。

経済学や法学の知識も踏まえた上で、世の中とブロックチェーンの考え方がきれいになじむにはどうすればいいか、皆に伝わる形で論理だてていかなければならない。無秩序な集合体のベクトルを正しい方向にそろえることが必要なんです。これが非常に難しい部分で、やりがいのあるところです。


ー 今までに影響を受けた人物はいますか?

イーサリアムの生みの親であるビタリック・ブテリン。彼は天才に考えさせる天才ですね。他の天才をやる気にさせるネタの出し方が非常にうまいと思うんです。人に合わせてネタを準備する秀逸さも素晴らしい。

物理学者のリチャード・P・ファインマン先生からは、自然科学を純粋に楽しむという観念を教えてもらいました。

心から楽しむというのは一番パワフルでかつコストがゼロであり、自分のエネルギーが消費されるのではなくむしろ回復するようなところがありますよね。


ー 好きな映画や本を教えてください。

映画はリュック・ベッソン監督の「グラン・ブルー」が好きです。イルカに魅せられた実在の天才ダイバー、ジャック・マイヨールをモデルにした映画で、求道者が行き着く境地を描いたラストシーンがとても印象的で気に入っています。

本は、芥川賞作家の上田岳弘さんの「キュー」が好きですね。科学技術が進みすぎた結果、人間は個々人の差すら関係なくなり、最後には海のような一つの集合体になってしまう。そんな内容をファンタジックな側面からではなく、緻密に根拠だったリアリティで描いています。どうあがいても全ては「海」に行き着いてしまう我々の世界に、どう反旗を翻すのか?という、忙しい日々にかまけて忘れてしまいがちなテーマを思い出させてくれます。

「グラン・ブルー」と「キュー」は、純粋化に惚れ込む心と、純粋化に争う心をそれぞれ描いた、相反するテーマを持つ作品です。しかしこの2つが、私自身の研究者として突き詰めたい気持ちと、現実主義者としてそれをどう社会に受け入れられる形にするかという相反する思いに重なるところがあると感じています。

これからはもう、本質を諦めなくていい

落合氏インタビュー写真2

ー これからどんな未来になっていくと思いますか?

今、国家や徴税のほころびが少しずつ出てきています。節税スキームを駆使して税金を払っていないグローバル企業などを見てもそうですよね。それに加えて匿名通貨(送金元・送金先・送金額などが特定できないタイプの仮想通貨)というものが出てきている。

もし仮に、企業同士が裏で匿名通貨を使ってやり取りを行なっていたとしたら、税務署がそれを追いかけることは不可能です。つまり、国が税金をとる難易度がものすごく上がるということですよね。

私の持論では、土地を全て国有地化して、土地のレンタル代として税金を国に払う。通貨はエリアごとに地域通貨を発行し、発行量は理論に基づきコントロールを行う。そういった仕組みにしていくことで、税金もうまく集まり経済もよくまわるようになるのではと考えています。

同時に、MTPL(Monetary Theory of Price Level)と呼ばれる通貨発行の数理モデル仮説が提唱され、今後OCA(Optimum Currency Area)論とすり合わされることで、小国でもゆるやかな物価上昇を伴った健全な経済圏を作ることができる可能性が示唆されています。

もちろん、欧州や日本は目下「流動性の罠」に苦しんでおり、本当に実践するまでにどれだけの折衝が必要か計り知れませんが、多くの種類の通貨が流通しても我々が開発するOVMを用いれば利便性を損なわずに流通できますし、通貨発行機構もスマートコントラクトで透明性と暗号学的なガバナンスでもって管理できます。技術的には可能なことばかりなのです。

これからは、こういった第一原理的に正しさを追った議論が基軸であり、現実はそうじゃないという話は二の次くらいのスピード感で世界が進んでいきます。そして、スピードの早い遅いで国が別れることもあるでしょうし、スピードの早い国が遅い国をじわじわと飲み込む力学もあるでしょう。残酷な世界ですが、ゲームルールをしっかり理解して、家族と国を守りたいですね。


ー これからどんな人にチームに入ってきてほしいですか?

法律や経済学の知識を持った人文学のバケモノを求めます。技術者も当然必要ではあるのですが、前述の通り技術のアダプションの部分が非常に難しいので、ここを一緒にやってくれる方にぜひ来ていただきたいですね。

提案の質が大変重要になるので、国家にブロックチェーンを売るくらいの度胸と、スケールの大きな話を勢いではなく地に足をつけて論理だてて語れるくらいの冷静さのある方が理想です。

ー 最後に、これから業界を目指す方々へメッセージをお願いします!

もう本質を諦めなくていい時代なので、存分に本質を追求してください!と言いたいです。大人の事情で何かを諦めたり捨てたりしなくていい、とてもいい時代だと思うんです。なので、それぞれの得意分野や興味のある分野の中で思う存分力を発揮していただきたいですね。

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