大企業が行うブロックチェーンの実証実験にいったいなんの意味があるのか

安廣 哲秀

ブロックチェーンがようやくハイプサイクルのピーク期を超えようとしている。それは例えば、ビットコインの価格推移や検索クエリの減少、スタートアップの撤退などのネガティブな要素に根拠を見出しがちだが、ポジティブなものももちろんある。中でも特に顕著なのが「企業が取り組む実証実験の数」である。2019年に開始されたブロックチェーン関係の国内実証実験数は、9月の時点で約40にのぼり、2018年の30をすでに上回っている。

2016年から行われているブロックチェーンの実証実験

ブロックチェーンに関わるビジネスマンの間では、2018年によく聞いた、「ブロックチェーンを使って何かやってみたい」といった会話や、バズワードとしてのブロックチェーンとユースケースの数のかい離にのみ注目し、「ブロックチェーンて何がすごいの」などと否定的な意見を述べることはすでにナンセンスである、とのコンセンサスがとられている。

その理由の一つが、企業がこれまでに行ってきた実証実験の成果だ。例えば、ブロックチェーンに関する実証実験の古参として株式会社NTTデータや日本アイ・ビー・エム株式会社が挙げられる。

株式会社NTTデータは2016年12月に「保険証券へのブロックチェーン技術適用に向けた実証実験」に着手。その後、2019年2月までに計6個の実証実験を行っており、保険などの金融業のインフラのみならず、トークンを利用した地域通貨の実証実験や、ブロックチェーン上での商品券の管理など、その幅は多岐にわたっている。

日本アイ・ビー・エム株式会社については、2016年から都市銀行や大手証券会社と連携し、Hyperledger Fabricを基盤とした金融インフラの実証実験を行っている。これらの実証実験は、何も成果が出ずにただ回数を重ねているわけではない。各実証実験後には重厚なワーキングペーパーが作成され、成果と課題を明確にし、実用へのステップを確実に踏んでいるのだ。

実証実験のワーキングペーパーから読み取れること


一般に公表されているもので最もわかりやすいのは、2018年10月から2019年3月にかけて一般社団法人全国銀行資金決済ネットワークが実施した『ブロックチェーンを活用した新銀行間決済プラットフォームの検証』のワーキングペーパーである。その中では、同実証実験を機能面(業務機能)と非機能面(可用性、性能、セキュリティなど)の両面から、システムごとやサーバーごとに詳細に評価されている。

そして、その評価結果については、簡単に言ってしまうと、「“機能面”において、動作確認における予定した項目は全て消化し問題は検出されなかった」とのことである。

たしかに、部分的には机上の空論的な部分もあるわけではあるが、機能面においては実際に既存のシステムよりも優位なものが構築されているのだ。つまり、課題は機能面でなく非機能面、すなわち、直接的な業務機能に関する要求以外に集中している、と言えるだろう。もちろん、非機能面に関しても重要な項目はたくさんあり、そこをクリアしない限り実装が進まないというのもこれまた事実である。

しかしながら、驚くべきことに、このような実証実験の結果は、他の企業が実施している実証実験においても概ね同様なのだ。

「インターネット」よりも、技術インフラとしてのアナロジー


ブロックチェーンはインターネットのアナロジーで説明されることが多い。見方によっては別に悪いことではないが、それはより長期的な未来を見据えたときの方が有効だ。逆に、現状の実証実験の結果を踏まえ、5-10年ぐらいの中期でブロックチェーンをとらえるためには、インターネットよりもAIや5Gと並列させ、技術インフラとして考えたほうがわかりやすいだろう。

つまり、ブロックチェーンは、機械学習のさらなる発展や5Gの通信インフラと同様、ほぼ間違いなく利用される、今までにないテクノロジーだということだ。

しかし、繰り返しになるが、ブロックチェーン上にどのようなコンテンツが乗り、どれほどの付加価値が生まれるかは未知数である、という点には気をつけなければならない。

インフラと違って長期的にコンテンツを予測するのは困難極まりないのだ。三十年前にモバイルコンピューターの普及は予測できたとしても、誰がLINEやメルカリを具体的に予測できただろうか。

もちろん、今いたるところで議論されている中に、もしかしたら当たっているものがあるかもしれないが。

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