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ビットコイン採掘(マイニング)用ASICで彗星のごとく現れた中国Bitmain。同社はいかにして覇者となり、これからどこに向かおうとしているのか。成功の理由はASICの開発だけではなく、先行していた競合にはない販売手法を実践したこと。蓄積した収益は、300人を投じたAIチップ開発へ注ぐ。“監視社会”中国ならではの画像認識の需要を見込む。

 「他を圧倒している」というほかない。株式未公開企業の中国Bitmain(比特大陸)は、2017年にASICを用いたビットコイン採掘機市場において台数ベースで67%、演算能力ベースで60%のシェアを獲得した。これら数値はBitmainのライバルである中国Canaan(嘉楠耘智)が、米Frost & Sullivanの調査結果としてIPO(新規株式公開)申請書で示した(図11)

図1 ASICベースのビットコイン採掘機の市場シェア(2017年)
図1 ASICベースのビットコイン採掘機の市場シェア(2017年)
Bitmainは2017年に94万台、合計649万3694TH/秒のビットコイン採掘機を販売したと、Frost & Sullivanはみる。図中の社名を伏せた企業やその他に該当する企業は、Bitfury Group、Whatsminer、Zhejiang Ebang Communication(億邦通信)などとみられる。(出所:Frost & Sullivan)
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 これよりも世間を驚かせた数値がある。Bitmainは米NVIDIAよりも稼いだと、ある米メディアが2018年2月に報じた。「2017年におけるBitmainの営業利益は、米国証券会社Sanford C. Bernsteinによれば30億~40億米ドル、営業利益率は65%」という2)。売上高は46億~62億米ドルになる。中国メディアも「2017年前半の純利益は10億人民元(1億5000万米ドル)超」と報じた3)。Bitmainの設立は2013年。それから4年ほどで常識外の成長を遂げて高収益を得たというわけだ。

ASIC販売高は4億~15億米ドルか

 もっともBitmainの収益に関する推測は、ASIC内蔵採掘機の売上高以外も含んでいそうだ。同社はビットコインを自ら採掘するとともに、自社の採掘機による巨大マイニングプールを複数運営している注1~2)。後者は採掘機保有者がグループを組み計算資源シェアを高めて報酬を得やすくするもので、同社は報酬配分の手数料(例えば1%)を得る。

注1)Bitmain自身による採掘は現在、以前ほど大きな収益を生んでいない可能性が高い。ビットコイン相場が2018年に入って低迷したことによる。また、中国の中央政府が2018年1月に地方政府に対してビットコイン採掘の停止を監督するよう通達したことも影響している。Bitmainの採掘場は中国内モンゴル自治区などにある。同社はカナダなどに新たな採掘場を設けることを検討している。

注2)「新開発の高性能ASICを搭載した採掘機を、自社で数カ月実地運用してたっぷり儲けた後に、その採掘機を市販する」というBitmainに対する疑念を、同社は否定した4)

 Bitmain董事長のMicree Zhan(詹克団)氏は「当社は中国第2位のIC設計会社。2017年の売上高は25億米ドル」と台湾メディアに語った5)。「25億米ドル」は、採掘機の売上高かもしれない。採掘機販売だけを手掛けるCanaanの売上高やFrost & Sullivanによる調査結果などから見て過大だからだ。Canaanと演算能力単価および採掘機単価が同じとした場合、Bitmainの採掘機の売上高は6億3000万米ドルとなる。このうちASIC売上高(調達費用)は4億米ドルほどだろう。BitmainのASIC製造を独占する台湾TSMC(台積電)関係者などの話を基にし、かなり高めに見積もってもASIC売上高(調達費用)は15億米ドルほどにとどまったようだ(表1)。

表1 採掘用ASICで潤ったサプライヤーの例
ASICではなくGPUによる採掘にはGigabyte(技嘉)、MSI(微星)、TUL(撼訊)などの描画基板が使われている。
表1 採掘用ASICで潤ったサプライヤーの例
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