「ブロックチェーンを国家戦略に」「日本でもCBDC発行を」──bitFlyer創業者・加納裕三氏

ビットフライヤー創業者の加納裕三氏は、クリプト・ブロックチェーン業界の識者の国際ランキングで日本一にもなったインフルエンサー。業界の1年を振り返り、海外子会社とともに代表を務めるbitFlyer Blockchainでの今後の取り組みなどについて聴いた。

2019年はまさに「ブロックチェーン元年」だった

──2019年を振り返ってどんな1年でしたか?

まさに「ブロックチェーン元年」になったなと、手前味噌ですが感じています。もともと「仮想通貨元年」というフレーズも当社が2017年に新聞広告を打って広がった経緯があります。令和元年になったとき、「ブロックチェーン元年」を思いついて、周囲に宣伝してと呼び掛けたのがきっかけです。小学館『DIME』トレンド大賞でブロックチェーンがIT部門賞を受賞しましたし、結果は出せたなと思います。

クリプトに関して言うと、年始は40万円前後だったBTCが一時は150万円まで上がり、12月中旬時点で70〜80万円くらいで落ち着くなど、変動も大きい年でした。

あと今年は“リブラの年”だったとも言えますね。リブラの登場によってCBDC(中央銀行デジタル通貨)が注目され、いわゆるパブリック型のチェーンから、コンソーシアム型とも呼ばれるプライベート型の──僕はパブリックとプライベートしかないと思っているんですが──ブロックチェーンが再認識された年だった。

──ただリブラはかなりの反対にあっています。

それもあって最近、リブラアソシエーションはホワイトペーパーで仕様を変えましたね。配当を出さなくしたし、協会加盟企業に発行する予定だったインベストメントトークンもやめることにしたようです。これまで指摘されていた証券性の問題に対応しようという動きです。アソシエーションは各種の金融規制に対応するため、しっかりアジャストを図っています。

バッシングも相当受けていますし、ザッカーバーグが議会にも呼び出されて大変ではありました。 しかし、いいニュースもあって、財務長官のムニューシンがポジティブな姿勢を示したのは追い風でした。ラグビーでいえばゴールキックで3点入れたくらいの価値があると思いますね(笑)。

リブラ関連でいうと、ウオレット開発をしているカリブラのディレクター(キャサリン・ポーター氏)が来日した10月の「b.tokyo」は、国内のブロックチェーンのイベントで一番盛り上がったと思います。まさに日本最大のイベントで、キャサリンのセッションも含めて内容がよかったし、イベント系で一番盛り上がった。

──リブラの登場後、CBDCへの注目も集まっています。

その点では、中国の存在が急速に高まったことは見逃せません。僕は数年前、中国共産党の幹部とお話する機会があったのですが、彼はブロックチェーンに強い関心を持っていて研究していました。当時から続けていた研究・開発が実ってきているようですね。

2019年はほかにも、大阪のG20で本格的にクリプトの規制について議論されたことの意義が大きかった。私は同日開催されたV20(Virtual Asset Service Providerが主体となるサミット) に出ましたが、FATFの書記官であるトム・ネイランと本格的に議論できたのも収穫でした。

あと今年は、この業界でも若い人が台頭してきたなという印象です。LCNEMの木村優さん、極度妄想さん、LayerXの福島さん……。クリプトキティやマイクリ、FiNANCiEといった若手向けのサービスも広がりを見せています。

私個人としては、JVCEA(日本仮想通貨交換業協会)の理事を6月までやって、その後はバトンタッチしましたが、自主規制団体が本格的に立ち上がった年だったと思います。またクリプトウイークリーのインフルエンサーランキングでグローバルの23位になったこともトピックですね。1位はバイナンスのCZでした。

2020年、セキュリティトークンの課題

──2020年の注目トピックはいくつもありますが、その一つは「セキュリティトークン」だと思います。どのように見ておられますか?

改正金商法は6月までに施行されるものの、実際にやるとなるとどうなるか……議論がまだ煮詰まっておらずこれからなので、時間はかかるでしょう。

そもそも原資産として何が引受対象なのかも分からない。たとえば不動産をセキュリティトークンにして区分所有を買う時、どうやって区分所有の権利を行使するのか。売却権限は誰が持つのか、売買する者の間に資産管理会社をはさむのか。

また、一つの権利に対してトークンは一つなのか。技術的にはバラバラにできますからね。株式はどうか、合同会社の社員権や組合契約などの出資者の権利はどうか。セキュリティトークンの仲介には一種金(第一種金融商品取引業)が必要で、その原資産は2項有価証券だと。ではそのセキュリティトークンをやるのは取引所開設行為にならないのか。発行だけはいいのか、流通もさせていいのかとか、板禁止議論もでてくるでしょうし、考えることは多いですよ。

それに、注意しておかなければいけないのは、海外でいうSecurites Tokenと日本のセキュリティトークンって違うということです。たとえばアメリカだと「Howeyテスト」にある4項目を満たすとSecurites(有価証券)と認められるんですが、そこには株式も含まれます。でも日本のセキュリティトークンは二項有価証券と決まっていて、ここには株式は含まれません。

セキュリティトークンではない部分はユーティリティトークンなのか、1項有価証券なのか。ではXRPはどうなのか?日本では暗号資産・仮想通貨ですが、アメリカでは概念が違います。ステーブルコインはどこ?リブラはどうなの……と疑問は尽きません。

──そもそも「なぜブロックチェーンでやるのか」という話もありますね。

それはまさに最近、「ワイブロックチェーン」(WHY BLOCKCHAIN)、略して「ワイブロ」がバズワードになっていますよね。これには当社の小宮山、LayerXの福島さんらがブログなどで回答しています。

ブロックチェーンを導入すべき理由を端的に言うと、インフラコストが下がるから。ではなぜ下がるかというと、ブロックチェーン以前の古典的インフラって、必ずファイアウォールやハードウェア、セキュリティ対策どうするかを決めて、その安全な中をSSL、TSLやHTTPで情報が飛んでいたわけです。

その点、ブロックチェーンはそのままインターネットにさらされても問題ない。あるアドレスからアドレスへ何BTC送られたなど、生データは見えていますが、データ自体がプライベートキーで守られているから安全なわけです。オープンなネットワークでありながら高可用性があって落ちない、何かあっても動かし続けられる耐障害性もある。そういうものが求められるところでブロックチェーンが使われる。それによって安くいろいろできる。

コンプラコスト増、レバレッジ規制……取引所はどうなるか

──仮想通貨取引所のレバレッジを2倍に制限するという案が浮上していますが、取引所の見通しはいかがですか?

ガバナンスコスト、コンプライアンスコストが果てしなく上がっていますね。おそらく皆さんが思っている10倍以上かかっていますよ。それくらいしっかりチェックしている。 一線、二線、三線という考え方があって(編注)、これに膨大なコストがかかるんですね。

(編注:内部監査態勢における3つのディフェンスラインのことで、一般に第一線が「業務執行部門がオーナーとしてリスクコントロールすること」、第二線が「リスク管理・コンプラ部門が行うリスク管理」、第三線が「内部監査部門による合理的な保証の提供」を指す)

費用の増大に収益が追いつかず、さらにレバレッジが落ちるとなると、 必要なコンプラ、セキュリティ体制が維持できなくなるところも出てくるでしょう。そういった意味では誰も得しない。

すると資金が海外に移転しやすくなる。もともとブロックチェーンとかクリプトってそういうものな訳ですよ。簡単に国境は越えられます。

でも海外の業者にはセキュリティレベル高くないところもある。本人確認が甘かったりして資金が凍結されることもある。最近、DEXなのに資金凍結されたところもありましたからね。分散型取引所なのに当局に怒られるって、これはなんの笑い話かという(苦笑)。そんなところにお金を預けたら戻ってこなくなっちゃうわけです。信頼のない業者を使うことは大きなリスクになる。

手数料をあげたら海外の取引所に資金は行っちゃうんですよ。いくら国内の取引所が莫大な投資をしてセキュリティレベルを高く保ってお客さんの資産を守っていても、そうじゃない取引所との違いは気づかれないんですよ。手数料の額だけ見られてしまう。取引所はしっかりアピールしないといけない。

──日本でもハッキング事件はあり、誤解されている人も多いかもしれませんが、実は日本の取引所のセキュリティレベルは高いですよね。

はい。日本のセキュリティ基準を世界に広めたいとも思っています。実はCGTF(クリプトアセッツガバナンスタスクフォース)という研究会を立ち上げたのですが、ビットフライヤーから、セキュリティのノウハウや取引所の仕組みをかなり公開しました。それで世界のセキュリティレベル上がればいいなと思っています。この分野でも日本は世界をリードできると思っています。

中国に対抗するためにもブロックチェーンを国家戦略にせよ

──冒頭でも触れられましたが、CBDCや中国の今後への注目度は極めて高いように思います。

中国はもうブロックチェーン先進国ですね。特許の数がすごい。たとえば当社グループも日本ではトップクラスで特許を10超くらい持っていますが、中国は何千と取っている。多くは類似特許で、ブロックチェーン以外のデータベースの特許をブロックチェーンに適用させたものなのですが、それにしても数千はすごい。まさに中国の世界戦略ですよね。

日本もブロックチェーンを国家戦略にすべきだと思います。私も内閣官房の委員でもあるので、声を大にして言いたい。真剣に考えないと中国に取り込まれると思います。

──中国がこの分野で躍進すると、たとえばどう困るようになるのでしょうか?

たとえばペイメントの世界、アリペイとかWeChatPayの存在が今以上に大きくなります。今は日本では中国から来られた方しか使えませんが、もっと使えるようになると、ペイメントにおけるシェアがほとんど取られてしまう。日本企業は勝てなくなるし、そもそもその決済で取られた情報の管理だって日本政府の手の及ばないところで行われる可能性もある。

──国家戦略にすると具体的にどうなのでしょうか?

まず国として、しかるべき会議に図って国家の戦略としてブロックチェーンに注力するという方針を示して欲しい。たとえば関連の法制も規制法ではなく促進法振興法をつくってほしい。サンドボックスをつくるのも一案です。

イギリス・ロンドンにはレベル39というFinTechのアクセラレーター・インキュベーション施設がありますが、そのような場を日本にもつくって、関係者が一同に介して議論するというのがいいと思います。

実証実験を経てからでしょうが、行政のシステムにも導入を図るといいと思います。国でやるのか地方自治体なのか分かりませんが、まずは使って様子をみる。ブロックチェーンのデータが消えないという特性は、とても有用です。たとえば「消えた年金」のような問題は起きなくなる。マイナンバーカードの住所を変えれば、これまで個別に住所変更の申請が必要だった保険証も免許も、すべてシンクして自動更新される。「ワンストップ」「ワンスオンリー」が実現できるとコスト削減につながるし、利便性はかなり向上するはずです。

──CDBCについてはいかがですか?

日銀はデジタルマネーを出すべきだと思いますね。たしかに金融政策への影響、マネーがどう動くか分からないという意見もありますが、たとえば期限付きでやればいいと思うんです。1年の期限付きということもブロックチェーンならできます。

期限がきれたら流通できなくなりますが、残高は分かるので、1年で使わなかったデジタルマネーは現金に戻せるようにしておけばいい。それで1年を振り返って便利だったか、どんな問題があったか、マネーがどう動いたのかを振り返ればいい。個人情報は守られたか、税の動き、支払いがどれだけ簡単になったか、銀行での手続きはどうだったか。日銀法の改正など要るのかもしれませんが、議論する価値はあると思います。

日銀にその気がなくても可能性はあります。なぜなら通貨を発行しているところがもう一つあるからです。どこだと思いますか?

──日銀は日銀券を発行しているので……財務省ですか。

そうです。日銀にその気がないなら財務省が「MOFコイン」を出すというのはどうでしょうか。たとえば500円玉のデジタル版のようなものです。コインの発行はそのままシニョリッジになるので財務省にとっては悪い話ではないし、金額も1万円券のような額面ではないですので、総額も大きくありません。

ビットフライヤーグループの戦略

──それは面白い構想ですね。ここまで業界のリーダーとしてのご意見をうかがってきましたが、最後にbitFlyerグループとして、経営者としてのお話を聞かせてください。

いま自分は、米国、ヨーロッパの子会社、ビットフライヤー・ブロックチェーンの計3社の社長を務めています。海外については日本ほどまだ知名度高くないですが、ノウハウを展開していきたいと思います。日本が規制が厳しい分、米国と欧州は厳しさを感じていませんし、攻め方はあると思っています。上場を増やすなどして、プレゼンスを高めたいですね。日本のbitFlyerは1月9日で設立から7年目を迎えます。感慨深いものがあります。

ブロックチェーン社のほうは、発表している4つのドメインへの注力を続けたいと思います。まず「BaaS」 (Blockchain as a Service) 。これはブロックチェーンを利用したクラウドサービスの提供 です。次に「Blockchain Joint Business」。ブロックチェーンを利用した共同事業のプロデュースです。3つ目は「Blockchain Core R&D」で、独自ブロックチェーン「miyabi」を中心とした研究開発 。最後の「Non-Regulated Service」は非規制領域におけるサービスの提供です。

2020年は攻めて事業を拡大していきたい。現在の人員が20人弱くらいですが、倍くらいにはしたいと思っています。特にエンジニア、テスター。あとはSIerにいたようなコンサル経験者を迎えたい。あと暗号学者でPh.Dを持っているような人材が欲しいですね。以前は当社にも居たのですが、今いないので。

──ほかにも個人的にやりたいことはありますか?

デリバティブをやりたいです。もともとゴールドマンでオプショントレーダーをやっていたこともあって、オプションはやりたい世界です。当局との相談が必要ですが、これが実現するとリスクヘッジのパターンが広がります。ただ、なかなかクリプトのデリバティブのシステムをつくれる人はいないでしょうね。もし外資系の金融機関などでデリバティブをやっていた人、リスクマネジメントしたことがあるいい人材がいたら欲しいですね。

加納裕三氏
加納裕三/bitFlyer 共同創業者、bitFlyer Blockchain代表取締役。東京大学大学院工学系研究科修了。ゴールドマン・サックス証券会社などを経て、2014年1月に株式会社bitFlyerを共同創業。日本ブロックチェーン協会代表理事、ISO / TC307国内審議委員会委員、官民データ活用推進基本計画実行委員会委員(撮影:多田圭佑)

インタビュー・構成:濱田 優
撮影:多田圭佑

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