イノベーションの一大中心地「イスラエル」から──2020年の仮想通貨業界を見る

2019年、イスラエル第2の都市・テルアビブは初めて「ブロックチェーンウィーク(Blockchain Week)」の開催地となり、仮想通貨業界がイノベーションの中心地としてテルアビブを認識し始めていることを知らしめた。

イスラエルで長く起業家として活躍するオウリエル・オハヨン(Ouriel Ohayon)氏に話を聞くと、何が起きているかがより深く理解できるだろう。テルアビブの仮想通貨市場は過渡期にある。テルアビブで生まれた仮想通貨スタートアップの第一世代の多くは、徐々に停滞しつつある。それでもテルアビブは将来、多くの企業を生み出す研究の中心地に成長している。

そのストーリーは街の風景に焼き付けられている。テルアビブの古い通りは今、急速な拡大と近代化の波の中にある。

フランスから移住してきたオハヨン氏はここ15年、パリとテルアビブを往復する生活を送っており、時にはシリコンバレーにも滞在する。彼はそのキャリアのすべてをスタートアップとベンチャーキャピタルで過ごし、テッククランチ(TechCrunch)にも寄稿している。オハヨン氏の会社、KZen Networksは、1980年代に開発された暗号化技術マルチ・パーティー・コンピューテーション(MPC)を使った消費者向けウォレットを開発している。オハヨン氏に話を聞いた。


──2019年の主な動きは何だったと考えますか?

2019年の2つの大きなハイライトは、主要なブロックチェーンであるビットコイン、イーサリアムとは無関係という興味深い事態となった。最も重要なニュースはリブラ(Libra)の発表、その理由はリブラが引き起こした反応を見れば明らかだ。つまり、通貨をどのように取り扱うか、仮想通貨において政府はどのような役割を担うべきか、政策はどのように機能し、どのように改善できるかに関する国境を超えた議論を引き起こした。当初、私はリブラは仮想通貨業界を加速させると考えていたが、そうはならなかった。しかし、お金とお金を進化させる方法にまつわる議論を加速させた。

2番目に大きなニュースもリブラと関連している。つまり、デジタル通貨をAI(人工知能)や5Gと同じレベルの国家の優先事項として宣言した中国政府の動きだ。それ以外のことは、この2つに比べれば大したことではないだろう。どれも同じようなものだ。資金調達、仮想通貨価格の上下、そしてもう1つあげるとすれば、米証券取引委員会(SEC)は投資家にとって有害と見なしたプロジェクトを追及したり、意見を表明した。SECによる組織的な力の誇示が見られたが、これまでは一貫した形で行われていなかった。ルールは明確に定められているが、規制上の明確さはまだ不足しているため、これは重要なことだ。姿勢を示すことになる。しかし、キック(kik)をはじめとする多くのプロジェクトにとっては痛手となった。

──テルアビブの仮想通貨業界はどのような状況ですか?

2019年、イスラエルではポジティブな進展はあまり多くなかった。仮想通貨業界にとって非常に見込みがあると思われていた分野が停滞した。資金調達の額やその野望によってニュースの一面を飾った派手なプロジェクトの多くは、目標を果たせていない。よく知られたところでは、シリン・ラボ(Sirin Lab)のブロックチェーンスマートフォンは多くの資金を集めたが実現していない。キックとその独自仮想通貨キン(kin)は開発・構築作業の多くが行われていたテルアビブの拠点を閉鎖し、これによっておそらく100名ほどの従業員が影響を受けた。しかし研究レベル──プロジェクトやサービスではなく、純粋に研究の分野──では、ゼロ知識証明、セキュリティ、カストディ、MPCなどの仮想通貨関連分野でイスラエルは前進を遂げている。最近結成されたMPCアライアンス(MPC Alliance)のパートナー企業の約半数はイスラエル企業だ。

──イスラエルにはリブラ関連のプロジェクトに取り組むスタートアップが数多く存在した。例えば、ゼンゴー(ZenGo)はカリブラではないウォレットを開発した。その取組みはまだ続いているのですか?

正直に言って、すべては最近、完全に沈静化した。当初、誰もがリブラがもたらすチャンスに興奮したが、今は期待したよりも時間がかかることを理解している。ゼンゴーは今もリブラに関わっているが、リブラに取り組むと表明した他のプロジェクトについてはよくわからない。良いチャンスだった。フェイスブック(Facebook)はテルアビブに大きな拠点を構えている。私のオフィスのすぐそばだ。カスタマーサービス、自動化、カストディなどリブラに取り組むスタッフが、正確な数字はわからないが数百人いる。テルアビブで多くのものが開発、設計されるだろう。

──スタートアップ企業は停滞したが、研究は盛り上がっているというのは矛盾しているように思える。2020年はどうなるでしょう?

これはイスラエルに限った話ではない。テック業界で十分に長いタイムラインで見れば、研究と開発の間にはギャップがあり、3つの段階がある。つまり、研究が開発につながり、さらに実際の製品やサービスにつながる。それぞれは順番に起こり、その間には時間の遅れが存在する。コードができあがり、サービスが展開される前に、基礎となるものが必要だ。

仮想通貨では、ビットコインの機能、セキュリティー、トランザクションスピードを改善するためにコアレベルで数多くの研究が行われている。それらのすべてがオープンソースのコードに組み込まれ、商業プロジェクトに使われていく。業界は製品やサービスの提供という点では停滞し、縮小しているが、研究はかつてない範囲まで広がり、必ずより良いものの登場につながる。だから2020年、私は多くの製品が登場する1年になると期待している。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
原文:The View From Tel Aviv: Ouriel Ohayon