2020.01.08 [水]

金融“機関”は、金融“機能”になる「国の存亡を賭けて」挑む、ブロックチェーンの社会実装

Gunosy創業者である福島良典氏が率い、ブロックチェーンを用いたビジネス開発やコンサルティングを手がけるLayerX。2019年11月7日には、金融取引サービス提供に向け、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)との協業を発表し、大きな話題を呼んだ。

ブロックチェーンの普及状況について、福島氏は「今後10年の間に変われなければ、日本は滅ぶ」と危機感を募らせる。同氏はブロックチェーンで社会を変えるための糸口を、「重い産業」の生産性を上げることに見出し、将来的には金融機関の役割は、金融“機能”をソフトウェア的に提供することに変わると予測。福島氏が見据える「確定的な未来」とは? 

現在はブロックチェーン黎明期。「どう使うか」ではなく、社会実装のフェーズ

──まずは、「そもそもブロックチェーンとは何か?」という問いからはじめさせてください。福島さんは、ブロックチェーンの技術的なコアをどう捉えていますか?

株式会社LayerX 代表取締役CEO・福島良典氏

福島:「信用を担保すること」です。ブロックチェーンとは、複数のトランザクションの集積である「ブロック」をつなげ、その「順序」を管理する技術。中央集権的に特定の一者が管理するのではなく、複数の検証者同士のコンセンサスによって、データの真正性や取引の順序が管理されます。

ブロックチェーンを利用したサービスの代表例が、ビットコインをはじめとした仮想通貨です。「あるユーザーが、この量のビットコインを持っている」という状態について、検証者(ビットコインではマイナーと呼ばれる)間で合意することで、通貨に似た仕組みを作っているんです。紙幣は使うと人の手元から物理的になくなりますよね。複数で監視、合意することで、取引の信用を担保し、こうした「価値の移動」をシステム上で実現しているのがブロックチェーンです。

──いわゆる「ビットコインバブル」がはじけたことで、ブロックチェーンへの社会的な見方は厳しいものになった感覚もあります。福島さんから見た、ブロックチェーンの現在地を教えていただけますか?

福島:いまは黎明期だと考えています。インターネットが登場した際も、はじめは多くの人が懐疑的に捉えていました。具体的な実装イメージが湧いていた人は、最先端にいるほんの一部の人たちだけだった。

ブロックチェーンは、現在まさにそうした状況に置かれていると感じています。最先端にいる人たちは、ブロックチェーンが社会を変えることは「確定的な未来」だと確信しています。2019年に入り、Facebookの暗号通貨『Libra』や中国人民銀行(PBOC)が発行するデジタル通貨『DCEP』の発表、それに連なって中国でのブロックチェーン活用事例も多く出てくるなど、既に実用化が進んでいることが明らかになってきました。取り扱われてる価値の金額も、想像以上に大きかった。「どう利用すればよいか」思案するフェーズは終わり、社会実装を進めなくてはならない段階に来ているのです。

──「社会実装」とは、具体的にどのような状態をイメージされているのでしょうか?

福島:エンドユーザーに知覚されず、産業やサービスを飛躍的に効率化していくことになるでしょう。例えば、ブロックチェーンを活用し、証券決済システムを効率化するとしましょう。社会実装が進むと、「社会全体の決済リスクが減る」、「ファイナリティのある決済(期待どおりの金額が確実に手に入るような決済)にかかる時間が減る」といったことが起こると思います。結果的に、今のコスト構造では取り扱えなかった投資商品が増える、顧客に転嫁されていたコストが減り手数料が減ることなどが想定されますが、おそらくエンドユーザーからは、特にブロックチェーンの存在は知覚されないはずです。

ブロックチェーンで起こることは、インフラの改革です。例えば、水道から水が供給される仕組みを知らなくてもユーザーは利用できますし、そもそも知る必要はないでしょう。しかし、「水道のインフラをどう作るか?」を考えることで、その水の安全性、綺麗さ、快適さ、社会全体で負担するコストは大きく変わります。ブロックチェーンというものはある種、「金融インフラをどう作っていくと、より滑らかに、お金や価値が流れるか」という挑戦なのです。

実際に、複数の事業者間で契約や作業を共有する領域では、すでに社会実装が進んでいます。例えば、貿易領域。貿易における契約や積荷の受け渡し証明は、これまで紙で行なわれていました。しかし、2018年4月にサービス提供をスタートした『TradeLens(トレードレンズ)』は、ブロックチェーンをベースとしたサービスで、貿易のサプライチェーンを可視化しています。また中国の人民銀行は、既にブロックチェーン貿易金融プラットフォーム上での取引額が1兆円を超えたことを発表しています。韓国でも2021年までに貿易金融をブロックチェーンに移行することが発表されたり、スイスの金融最大手UBSは貿易金融プラットフォームである『We.Tradeをローンチしています。使われていない」「実用化されているものがない」「応用先が見つかってないといった一般認識と、先端での実態はずいぶん違っているとます。

将来、金融は“機能”になる。「重たい産業」を変えるブロックチェーン

──福島さんは、なぜブロックチェーンビジネスに取り組もうと思われたのですか?

福島:ブロックチェーンを活用すれば、「重たい産業」――金融や不動産、保険業界、貿易業界など、ソフトウェアによる抜本的な効率化が進んでいない、大きな産業――を変え、日本の未来に大きな影響を与えられると思ったからです。

例えば、金融機関では今でも多くの作業が人の手で行なわれています。最も信頼できる作業者が人だからです。しかし、「信用を担保する技術」であるブロックチェーンを活用すれば、信頼性を毀損せずに作業を自動化できます。

──先日、MUFGとの協業を発表されていましたね。

福島:社会実装を加速させるためです。僕らのようにブロックチェーンを構築するプレイヤーは、既存産業を支えるシステムについての理解が乏しい。一方で、産業サイドの方々はブロックチェーンの知識がない。パートナーシップを組むことで、ブロックチェーン業界と金融業界を架橋したいんです。

──協業することで、ブロックチェーンによる金融機関の生産性アップを加速させていくわけですね。

福島:もっと言えば、将来的にはあらゆる会社が金融“機能”を持つようになると考えています。例えば、中国では自動車会社がブロックチェーンを活用することで、部品のサプライヤーに貸付やファクタリング、請求書ファイナンス、在庫担保ファイナンスなどを行なっている事例もあります。

ブロックチェーンを活用することで、サプライチェーンが可視化されたり、Invoiceの信頼性が上がったりします。サプライヤーがものを作るためには先行投資が必要ですが、売上が発生するのは納品時のみなので、資金繰りが苦しい。借り入れをするにしても、売上が出るか不透明であれば、銀行も貸付を行ないにくい。

このジレンマを解消するため、部品を買う側である自動車会社がブロックチェーンを利用してサプライヤーの製造工程やinvoice管理を可視化。請求書の確かさやその会社の信頼性、究極的には製造工程の初期段階を見るだけで、売上を予想できるようになり、貸付判断も行なえるようになっていくでしょう。

今後10年が勝負──日本の存亡を賭け、「デジタル国家」化を目指す

 ──「重たい産業」のなかでも、金融領域に着目されたのはなぜですか?

福島:「産業の中心である金融を変えないと、国が滅んでしまう」という危機感を覚えているからです。アリババ創業者のジャック・マーは、「すべての国家は、はデジタル国家と非デジタル国家のどちらかに分けられるようになる」と言っています。またその中で、ブロックチェーン技術が非常に重要になるという考えを示しています。デジタル国家は今後100年の成長を享受し、非デジタル国家は全く成長しないと予想されているのですが、もし日本が後者になってしまったら国が滅んでしまう。

今後10年で産業の中心である金融に変化を起こさなければ、日本は手遅れになってしまうと危惧しているんです。日本をデジタル国家にするために、金融機関を変革し、金融“機能”を根付かせることが必要だと考えています。

──金融を変えていくために、目下取り組んでいる課題は何でしょう?

福島:金融の根幹たるシステムを本当にブロックチェーンに委ねられるか、ということに取り組んでいます。インターネット企業のサーバーが落ちても、その会社がダメージ受けるくらいで済みます。しかし、金融においては、1つのトランザクションの失敗が大手機関の連鎖倒産を招く。リーマンショックが典型例です。1つの決済ミスでも連鎖的な影響を生み、社会が機能不全に陥ってしまう。だからこそ、金融機関のシステムは安全性の担保と証明が徹底して求められるんです。

──安全性の担保と証明に向けた、戦略はありますか?

福島:小さいところから始めて、一つひとつ信用を得ていくしかありません。金融機関のシステムには守らなくてはならないルールが数多くあり、プログラムで完全に表現するのはかなり難しい。関係する利害関係者も多く、それぞれの業務とデータが複雑に絡み合っている。だからこそ、ブロックチェーンが必要なんです。

福島良典
東京大学大学院工学系研究科卒。大学時代の専攻はコンピュータサイエンス、機械学習。 2012年大学院在学中にGunosyを創業、代表取締役に就任し、創業よりおよそ2年半で東証マザーズに上場。後に東証一部に市場変更。 2018年にLayerXの代表取締役社長に就任。 2012年度IPA未踏スーパークリエータ認定。2016年Forbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出。2017年言語処理学会で論文賞受賞(共著)。2019年6月、日本ブロックチェーン協会(JBA)理事に就任。

取材・文/鷲尾諒太郎(モメンタム・ホース) 編集/小池真幸(同) 撮影/干川 修

この記事をシェア