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 金融×ITの専門誌「日経FinTech」2019年8月号に掲載した「Libraからの挑戦」を再掲する。その後、一部の決済事業者がLibra構想への参加を見送ったが、各国の中央銀行がデジタル通貨構想を相次ぎ打ち出すなど、Libraの余波は今も続いている。

 「Libraはパンドラの箱を開けた」。暗号資産(仮想通貨)交換業bitFlyerの創業者で子会社bitFlyerBlockchainの代表取締役を務める加納裕三氏はこう語る。

 米Facebookがデジタル通貨構想「Libra」を明らかにしてから2カ月。衝撃の余波はいまだ収まらず、仮想通貨ひいては金融の世界に不可逆の変化をもたらそうとしている。

各国政府から集中砲火

 Libra構想を巡り、2019年6月から7月にかけて各国政府や中央銀行が相次ぎ懸念の声明を表明した。米上下両院は7月16日から2日にわたり、Libraの公聴会を実施。同じ頃にフランスで開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議でも参加国がLibraへの懸念を示した。

 Facebookにとって、この展開は想定内だったとみられる。Libraの責任者を務める同社のデビッド・マーカス氏は、公聴会で集中砲火とも言える厳しい質問に対して冷静に答えてみせた。

●米下院公聴会で「Libra 」について説明する米Facebookのデビッド・マーカス氏
●米下院公聴会で「Libra 」について説明する米Facebookのデビッド・マーカス氏
(写真:ロイター/アフロ)
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 Libraは仮想通貨に関わる国際的な法規制の在り方を一変させる可能性を秘める。各国の規制当局はこれまで、価値が法定通貨と連動するステーブルコインの扱いやAML(アンチ・マネーロンダリング)/CFT(テロ資金供与対策)の規定など法律上の規制や解釈を曖昧にしたまま、仮想通貨の流通を認めてきた。この「パンドラの箱」をLibraがこじ開けようとしているのだ。

 マーカス氏は米議会の公聴会で「ここ(米国)や世界中の規制当局と、時間をかけて調整していく。完全な承認を得られるまでLibraは提供しない」と宣言した。議論を重ね、法規制の在り方を明確化してほしい―。Libraは規制当局に対するFacebookからの挑戦状とも受け取れる。

Libraへの賛意と危機感

 この「挑戦」に対する仮想通貨業界の反応は様々だ。

 Libraを巡る規制当局の反応に危機感を示したのが、デジタル通貨を利用した為替取引仲介サービスを提供する米Ripple CEO(最高経営責任者)のブラッド・ガーリングハウス氏。米Fortuneが2019年7月25日に掲載した記事で「私にとって重要なのは、規制当局が質問をし始めたとき、(Libraと)同じ1つの大きなバケツに入れられないようにすることだ」とコメントした。

 一方、仮想通貨交換所の多くはLibra構想に好意的だ。大手交換所の1社であるBinanceは、Libraの取り扱いを始める「上場」の手続きについてFacebookと議論を始めているという。同社の幹部が専門サイトのFinance Magnatesに明かした。

 国内の仮想通貨交換業者はLibraを新たなビジネスチャンスとみており、「Libraを取り扱いたい」「日本でも仮想通貨として認めて欲しい」との意見が大勢だ。インターネットイニシアティブ(IIJ)などが出資するディーカレットの時田一広社長は「規制当局がLibraに対してネガティブな考えを持っているのは残念だが、(あるべき法制度について)真剣に考え始めた点はポジティブに捉えている」と語る。