連載第2回は、LINEが近ごろ発表したブロックチェーンサービス開発ツールとデジタル資産管理ウォレットについて。
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今回取り上げるのは、LINEの暗号資産事業およびブロックチェーン関連事業を展開するLVCが、最近提供を開始した「LINE Blockchain Developers」(ブロックチェーン・デベロッパーズ)と「BITMAX Wallet」(ビットマックス・ウォレット)です。
前者はブロックチェーンサービス開発者向けのプラットフォーム、後者はデジタル資産の管理ウォレットです。これらを同時に公開するのが、いかにもLINEらしいと筆者は感じました。
LINE Blockchain Developersを使えば、専門のブロックチェーンエンジニアでなくても、管理画面から簡単に自社のトークンやデジタルアセットを作成することができます。
一方、BITMAX WalletはLINE IDがあればすぐに作成可能なウォレットです。
LINEはご存じの通り、メッセンジャーアプリとして国内で大きなシェアを持っています。
前回記事では、ブロックチェーンを活用すれば、法律に反しない限り、新たな「財産的価値」を自由に設計できることを解説しました。
顧客基盤やソフトウェアなど、LINEが誇る多様なリソースをブロックチェーンと組み合わせることで、何か新しい財産的価値が生まれたら面白いと思っています。
将棋の新たなエコシステムをつくってみる
将棋人口は世界にも広がりつつある。2018年には米ロサンゼルスで初の国際大会が開かれた。
出典:ANNNewsCH YouTube公式アカウント
ところで、私は「日本クリプト棋士連盟」という組織に所属しています。表向きはブロックチェーン業界の将棋・囲碁好きな人の仲良しグループですが、その裏では、業界の重要人物が集まって業界発展のために暗躍しているとかいないとか。
ここからは、リリースされたばかりのLINE Blockchain Developersを使って、将棋エコシステムをディスラプト(創造的破壊)する方法を考えてみたいと思います。
まず、管理画面から簡単にポイントをトークンとして発行することができるので、将棋コイン「SHO」を作ります。
基本設定として、将棋を指すことで、1日3局まで無料でSHOをもらえるようにします。こうすると、SHOは法的には「無償ポイント」の扱いになるので、資金決済法の規制の対象にならず、届出や登録をすることなく誰でも発行できるのです。
BITMAX Walletを使うと、LINE IDを持っている人なら誰にでもSHOを送ることができるため、日本の人口の7割ほどにあたる8400万人(2020年3月末時点の月間アクティブユーザー数)という、LINEの顧客基盤がここで活きてきます。
将棋ファンが全国に1000万人ほどいる(日本将棋連盟調べ)ことを考えれば、単純計算で、LINE IDを持っている人も700万人ぐらいはいるでしょう。そのすべての人に将棋コインSHOを送れるわけです。
将棋コインを日本円に変える仕組み
日本だけで1000万人超と言われる将棋人口のうち、理論上700万人ほどがLINE IDを持っていることになる。そこに直接アプローチできるのは大きな魅力だ。
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次に、SHOの使い道を作ります。
基本設定どおり、普通に将棋を指すだけならSHOをもらえるのですが、SHOを払って将棋を指すケースでは、対戦に勝つとSHOが増えるようにしましょうか。
また、大量のSHOを消費して、独自にリーグ戦やタイトル戦をつくれるようにします。
1億円分のSHOを支払って「クリプト(暗号資産)名人戦」を主催した企業には、消費税(10%)相当額の1000万円が国から日本円で還付されることになります。
SHOを大量保有することで自社サービスの宣伝を効果的にできると考えた企業は、対戦に勝ってSHOを稼いでくれる「お抱え棋士」を用意するかもしれません。
そうなると将棋が強い人は、会社の宣伝を請け負っ(て対局してSHOを増やし)たり、自らの保有するSHOを支払ってタイトル戦をつくったりして、その報酬や費用をまとめて日本円で業務委託費として受け取るようになるかもしれません。
おめでとうございます!ついにゼロから立ち上げた将棋コインSHOが日本円という法定通貨に変わりました。
ほかにも、対戦のここぞという局面で日本円を払うと、強力な将棋AIが「神の一手」を教えてくれるサービスが人気を博すかもしれません。
人間は名誉のためなら時間もお金もかけるものです。
LINEの狙い
将棋コインをビジネスとして展開しようと思ったら、ここまでご説明したように、法規制の対象とならない無償ポイントを付与してユーザーを満足させ、周辺サービスで日本円を稼ぎ、納税することになります。
世間で使われている多くの無償ポイントとの違いは、LINEを通じて簡単に他の人に送れることです。これにより、ネットワーク効果で新しい財産的価値が生まれる可能性が出てきます。
例えば、多くの人がSHOを拠出してタイトル戦をつくって盛り上げたら、対局中に使われた将棋AI「神の一手」の利用料の一部が、SHOの拠出比率に応じて日本円で分配されるといった仕組みも考えられます。
そうやってさまざまなサービスや仕組みが生まれてSHOの経済圏が大きくなっていくと、(SHOと交換可能な)日本円の経済圏も大きくなります。
とりわけ、LINEのブロックチェーンエコシステムは母集団(LINEの顧客基盤)が大きいので、インパクトを計算しやすいことが大きな価値と言えます。
さらに、今回は将棋コインを例にとりましたが、マラソンでも何でも、別の価値観に置き換えれば別のエコシステムができるでしょう。
LINEはこのようなエコシステムを囲い込んで複数成長させることで、プラットフォームの拡大を狙っているのではないでしょうか?
皆さんもぜひブロックチェーンを活用した新しいビジネスを考えてみてください。
岡部典孝(おかべ・のりたか):2001年、一橋大学在学中に有限会社(現株式会社)リアルアンリアルを創業し、代表取締役、取締役CTO等を務める。2017年、リアルワールドゲームス株式会社を共同創業。取締役CTO/CFOを経て、取締役ARUK(暗号資産)担当。2019年日本暗号資産市場を創業し、代表取締役。