全3253文字

 「STO(セキュリティー・トークン・オファリング)」の本格導入に挑む日本企業が増えつつある。STOはブロックチェーンを応用し、デジタル証券(セキュリティートークン、ST)を発行して資金を調達する手法を指す。

 STOの実現には、ブロックチェーンを活用したST取引プラットフォームをはじめ新たな仕組みが必要になる。一から作ると時間やコストがかかるので、これらの仕組みを提供する新たなプレーヤーと提携するケースが多い。Securitize Japan(セキュリタイズジャパン、東京・中央)、BOOSTRY(ブーストリー、同・千代田)、LayerX(レイヤーX、同・中央)の戦略を見ていく。

STの発行準備から償還まで一連のプロセスを支援

 セキュリタイズジャパンは、STの取引に必要な一連の機能を提供するプラットフォーム「Securitize Platform」を提供する米Securitize(セキュリタイズ)の日本法人。セキュリタイズは2020年10月時点で世界に約130社の顧客を抱える。日本のブロックチェーン関連スタートアップ企業のBUIDL(ビドル)を19年12月に買収し、日本での活動を本格化させた。

 Securitize PlatformはSTの発行準備から募集、販売、期中管理、償還まで、ST取引に関わる一連のプロセスを支援する。

Securitize Platformがカバーする機能
Securitize Platformがカバーする機能
(出所:セキュリタイズジャパン)
[画像のクリックで拡大表示]

 発行体(STで資金を調達する企業)、投資家、証券会社、証券代行業者などSTの売買に関わる関係者に向けて、それぞれの役割に応じた機能を提供する。投資家向けにはKYC(本人確認)やAML(アンチ・マネー・ロンダリング)確認、売買用ウォレットの作成などの機能を担うダッシュボードを、発行体や証券会社に向けてはSTの発行や不適格な投資家への移転制限を可能にするスマートコントラクト(自動契約)作成機能などを用意している。

 Securitize Platformはパブリックブロックチェーンを採用したSTOプラットフォームとして、オープンに多くの投資家が参加することを想定している。セキュリタイズジャパンの森田悟史テックコンサルタントは、この点がSecuritize Platformの強みだとしている。「日本のSTOプラットフォームの多くはプライベートまたはコンソーシアムブロックチェーン向けに利用者を限定して展開している。Securitize Platformはパブリックでの利用実績が多く、(多数の利用者が使っている分)完成度は高い」と話す。

 セキュリタイズの顧客層は広く、不動産企業、投資ファンド、ブロックチェーン企業、その他の4種類。セキュリタイズジャパンの小林英至カントリーヘッド,ジャパンは「当初はブロックチェーンを積極的に活用するイノベーターが多く利用していたが、現在はより幅広い業種に広がっている」と説明する。

 第1回で紹介した不動産情報サービス大手のLIFULLは、STOの取り組みのパートナーとしてセキュリタイズジャパンを選んだ。今回の取り組みの前から進めてきた実証実験で付き合いがあり、「ビドルがセキュリタイズに買収されてSecuritize Platformを使えるようになったこともあり、協業の継続を決めた」と、LIFULLの松坂維大 不動産ファンド推進事業部ブロックチェーン推進グループ長は振り返る。