仮想通貨とインフラ
新風シリコンバレー SOZOベンチャーズ創業者 フィル・ウィックハム氏
暗号資産(仮想通貨)の「ビットコイン」の価格上昇が止まらない。先月2万ドルを超えたばかりだが、1カ月もしないうちに4万ドルを超える過去最高値を更新した。(1月7日現在)仮想通貨の特性上、ビットコインは2100万ビットコインしか発行できない設計のため、新規発行の上限が決まっており、その価値はここからまだ倍になるという予想も出ている。
仮想通貨に関しては、未知なるものなのか、コモディティーなのか、それともアセットなのか様々な議論があるが、今の状況を見ると、アセットとして認知されつつある状況になってきていると言えるだろう。
無論、現在の価格は過熱気味なところは否めないが、経済状況や投資対象としての関心により今後も価格の上下はしていくだろうが、一定のポジションは獲得できている。その証拠に大きなアセットマネジメント会社が投資ポートフォリオにビットコインなどの仮想通貨を組み込んできていることに表れている。
アセットとして認知された仮想通貨には信頼あるインフラが必須だ。それをSOZOの投資先のコインベースを通じて見てきた。コインベースには、三菱UFJ銀行とともに2016年に投資し、5年ほどたつ。コインベースは、ユニオン・スクエア・ベンチャーズやアンドリーセン・ホロウィッツといった名だたるベンチャーキャピタル(VC)の投資を受けている。
コインベースは、12年の設立以来、仮想通貨の取引所としての確固たるポジションを確立することに多大なリソースを割いてきた。当初から主要国の政府と一緒に規制の枠組みを作り、必要な認可をとっていくという方針で時間をかけて業界としての信頼を構築しビジネスを拡大してきた。
現在は圧倒的な業界ポジションが築けているが、決して取り扱い通貨も拙速に拡大せず、しっかりと精査をして取り扱うかどうかを決めてきた。例えば、イーサリアムやリップルのような仮想通貨をコインベースがどう取り扱うかで、その通貨自体の評価に直結するため、その一挙一動がいろんな場面で注目される。
コインベースに投資をしたとき、少なくとも、何らかの仮想通貨が国際送金のSWIFT的な金融の流通インフラの位置付けはとっていくだろうとの仮説があった。地道にインフラ、リソースを投資して政府とも協調し、必要な規制対応に努めているプレーヤーが、そのインフラ企業として有力なポジションを将来に築けると考えた。一見、同種の会社は多くあったが、コインベースは、全く違う会社だとすぐにわかった。
その姿勢は今も同じだ。コインベースはインフラを作るという大きなビジョンにたゆまぬ努力をし続けている。将来、コインベースは新しい仮想通貨やその技術のバリデーションを行うような立場になり、業界スタンダードを創り、より大きなインフラになっていくだろう。今後の仮想通貨やブロックチェーンが送金、支払いの媒介としての用途以外での適用分野はますます広がると期待している。
[日経産業新聞2021年1月26日付]
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