コロナ禍が長引く中、日経平均株価が3万円台に乗せ、バブル崩壊後の高値を更新し続けている。しかし、空前の低金利や日銀の株式ETF(上場投資信託)買いに支えられた高値相場が崩壊するリスクも高まっている。株式市場では何が起きているのか、金融バブルがはじけたら何が起きるのか、どう行動すべきなのか。異常な金融政策が生んだ金融業界の危うさに迫る小説『Exit イグジット』の著者である相場英雄氏、『金融バブル崩壊』の著者であるさわかみ投信の澤上篤人会長と草刈貴弘最高投資責任者の3人が語り合った。鼎談の第1回では、バブル期以来の株高と金融政策、経済の現状をどう見るかについて、3人が議論する。

(司会はクロスメディア編集部長 山崎良兵)

<span class="fontBold">相場英雄(あいば・ひでお)氏</span><br />1967年新潟県生まれ。89年、時事通信社に入社。95年から日銀記者クラブで為替、金利、デリバティブなどを担当。その後兜記者クラブ(東京証券取引所)で市況や外資系金融機関を取材。2005年『デフォルト債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、翌年から執筆活動に。2012年BSE問題をテーマにした『震える牛』が大ヒット。『不発弾』『トップリーグ』『トップリーグ2』などドラマ化された作品も多数ある。(写真:北山宏一)
相場英雄(あいば・ひでお)氏
1967年新潟県生まれ。89年、時事通信社に入社。95年から日銀記者クラブで為替、金利、デリバティブなどを担当。その後兜記者クラブ(東京証券取引所)で市況や外資系金融機関を取材。2005年『デフォルト債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、翌年から執筆活動に。2012年BSE問題をテーマにした『震える牛』が大ヒット。『不発弾』『トップリーグ』『トップリーグ2』などドラマ化された作品も多数ある。(写真:北山宏一)
<span class="fontBold">澤上篤人(さわかみ・あつと)氏</span><br />さわかみ投信代表取締役会長。1947年、愛知県名古屋市生まれ。1973年、ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履習。1999年に、日本初の独立系ファンド「さわかみファンド」の運用をはじめる。純資産は約3400億円、顧客数11万6000人を超え、長期投資のパイオニアとして知られている。(写真:北山宏一)
澤上篤人(さわかみ・あつと)氏
さわかみ投信代表取締役会長。1947年、愛知県名古屋市生まれ。1973年、ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履習。1999年に、日本初の独立系ファンド「さわかみファンド」の運用をはじめる。純資産は約3400億円、顧客数11万6000人を超え、長期投資のパイオニアとして知られている。(写真:北山宏一)
<span class="fontBold">草刈貴弘(くさかり・たかひろ)氏</span><br />さわかみ投信 取締役最高投資責任者兼ファンドマネージャー。東洋大学工学部建築学科卒業。舞台役者、SBIフィナンシャルショップを経て、2008年10月さわかみ投信に入社。2013年1月より最高投資責任者兼ファンドマネージャー、2015年6月、取締役に就任。 (写真:北山宏一)
草刈貴弘(くさかり・たかひろ)氏
さわかみ投信 取締役最高投資責任者兼ファンドマネージャー。東洋大学工学部建築学科卒業。舞台役者、SBIフィナンシャルショップを経て、2008年10月さわかみ投信に入社。2013年1月より最高投資責任者兼ファンドマネージャー、2015年6月、取締役に就任。 (写真:北山宏一)

コロナ禍が長引く中、日経平均株価が3万円台に乗せ、バブル崩壊後の高値を更新し続けています。本日は、金融業界をテーマにした最新刊を執筆された3人にお集まりいただき、語り合っていただきます。まず、世界中で株価が高騰するなど過熱感も指摘される市場環境をどうご覧になっているか、率直な意見をお聞きしたいと思います。

草刈貴弘氏(以下、草刈氏):2月8日に米EV(電気自動車)メーカーのテスラが15億ドル(約1600億円)のビットコインを購入していたと報道されましたが、これは金融バブルを象徴するようなニュースだったと感じています。創業者のイーロン・マスク氏は、これまでイノベーションを推進するために資金を調達することはあっても、資産を運用して儲けるようなことは一切してこなかったと思います。

澤上篤人氏(以下、澤上氏):確かに、今回のニュースは、利益の最大化を目的にした行動のようにも思えますね。マスク氏本人の意志ではなく、社内の誰かがやっていることなのだろうとも思いますが、書籍『金融バブル崩壊』でも書いたように、やはり、バブルが進行している端的な証拠なのだろうと思います。

私自身もマスク氏を何度か個別取材して、世界を変えるようなイノベーションに強い情熱を持って取り組んでいるという印象を持っていました。それまでは調達した資金を次の技術革新のために投資してきただけに意外です。米ツイッターもビットコインの保有を検討しているというニュースが出て、株価が急騰しました。お金が余っているので、企業が本業と関係ない“財テク”に走り、投資家がそれを材料視して株価が上がるなら、日本のバブル期のような現象が起きている可能性もあります。金融業界を舞台とした作品を手掛けてこられ、当時の事情にも詳しい相場さんは現状をどうご覧になっていますか?

相場英雄氏(以下相場氏):私は、金融記者として、1990年代から2006年まで兜記者クラブ(東京証券取引所)などにいて、市況や国内や外資系の金融機関を取材していました。マーケット全般を見ていましたから、情報源として少し怪しげな人たちも取材していました。

 実は新作の『Exit イグジット』にも登場する金融コンサルタントでフィクサーの古賀遼という人物を主人公にした『不発弾』という小説を2017年に出しています。「飛ばし」「損失隠し」という問題を取り上げたのですが、この小説は、兜記者クラブで得た知識や経験を元にして書き上げました。証券会社に勤め、高リスクの商品を扱っていた古賀は架空の人物です。当時取材をしていた、怪しげなセールスマンなど複数の人物をモデルにしました。不発弾で取り上げた飛ばしや損失隠しのような取材は、大っぴらに聞ける話ではありませんので、六本木のカラオケボックスに別々に入って、個室で解説をしてもらうなどして、聞いた情報をベースにしています。

 なぜ、このお話をするのかというと、どの業界でも、あるいは会社でも、絶対に侵してはいけないことがあります。「タブー」と言い換えてもいいのかもしれませんが、翻って、今の金融業界、あるいは、金融政策のあり方をみていると、国というレベルで「この一線を越えてしまっている」ところがあるように思うからです。それが今回『Exit イグジット』で描いた点です。

基本に戻れば、明らかにおかしい現状

タブーなき世界に入っているということですね。元金融記者の目から見て、最近の状況は明らかにおかしいのでしょうか?

相場氏:そう思います。『Exit イグジット』にも書きましたが、昔は、金利が存在し、日本銀行が決める「公定歩合(中央銀行が民間の金融機関に資金を貸し出す際の基準金利)」がどう動くかを記者たちは追いかけていたものです。しかし今では公定歩合という言葉さえ耳にしなくなりました。異次元の金融緩和が常態化し、「ゼロ金利」がすっかり当たり前の世界になってしまったからです。

 私のように兜記者クラブに詰めていた証券担当の記者は、大蔵省(現・財務省)や日銀の担当に比べると地味な存在でした。地道に市況を追っかけて報道するのですが、「すっぱ抜き」「スクープ」というような派手なネタはほとんどないからです。

 それでも先輩記者たちは誇り高く、若手記者は厳しく教育されました。経済の原理原則に基づき、一見難しいロジックで変動する相場を、中学生にも理解できるように解説する、というスキルをたたき込まれました。考えてみれば、これがたいへん勉強になりました。本質を分かっていないと、読者に分かりやすく説明する記事など書けないからです。しかし当時学んだような金融や経済の原則が、通用しないおかしな世界になっている。

澤上氏:なるほど。作品を読んで、こんなに金融業界に精通した作家がいるんだ、と驚いたんです。失礼な話ですが…(笑)。金融の知識はもちろん、市場や、市場関係者の機微などまで、深く理解されている。

本質を理解した上で分かりやすく伝える。人に何かを伝え、心を動かすためには必要ですよね。それは例え話の上手さに表れます。イエス・キリストも、ブッダも、例え話が上手だったと言います(笑)。

相場氏:例え話でいうと、澤上さんが今回の本でも書かれている「金利は経済の体温だ」という話は、すごく刺さりました。

澤上氏:本質といえば格好がいいですが、至極、当たり前のことを当たり前と捉えられるかどうか、が大切なのだと思います。金利は、経済のインセンティブで、それが原動力ともなりますから、金利がないというのは、「体温がない」、いわば経済が死んでいる状態とも言えるわけです。

相場氏:今日のテーマにも関わりますが、「日銀の株式ETF(上場投資信託)買いにプロの目を入れるべきだ」というご意見には、膝を打ちました。

澤上氏:日銀によるETF購入は、今回の金融バブルを下支えするような“力技”の1つだと思いますが、日銀がETFに直接投資する形では、競争原理が働かない。しかし、さまざまな運用会社を競わせる形にして投資するようになれば、話は違うと思います。日銀の株式購入にも市場の競争原理が働くようになるし、今よりは健全な状態になるように思います。

中央銀行のあり方が変わってきている

中央銀行のあり方が変わってきています。ETF買いによる市場介入の長期化などは典型例ですが、例えば、スイスの中央銀行は個別株投資にも熱心で、GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)のようなITの大型株を大量に購入しています。もはや経済の原理原則はどこかに行ってしまい、中央銀行は教科書で学んだような独立性を果たしているとは思えません。

相場氏:昔、若い市況担当記者の作る記事を読んで、本質を端的にまとめるリード文をつくっていましたが、その時の感覚で、現在の株価高騰に関するニュース解説を見ると、疑問符が並ぶことが多いです。「いやそうじゃないだろ、カネが余っているからだろ」と。そうでないと説明がつかないことが多すぎます。

草刈氏:おっしゃる通りです。金融緩和が続いてきた中で、さらにコロナ禍がやってきて、各国政府や中央銀行がさらに金融緩和を進めています。とにかく大盤振る舞いで、これ以上やることがない、というような状況になっています。なのに、2018年、19年に比べて、取り立てて経済がよくなっているわけではない。

相場氏:最近、思い出すのは、バブルの絶頂ともいえる1989年の大納会の時の先輩記者たちの雰囲気です。日経平均は3万9000円の史上最高値で、世の中は浮かれていた状態でしたが、大蔵省や日銀担当の先輩記者たちの表情が妙に暗かったんです。後から思えば、年明けから引き締めが始まることを察知していたのだろうと思います。

澤上氏:今は、ひょっとしたら同じようなタイミングなのかもしれません。それでも、世界的なカネ余りや各国の中央銀行がETFなどで相場を支えているような状態は、今までにはなかったことです。

相場氏:元日銀総裁の白川方明さんは、当時「ETF買いは臨時の措置」とコメントしていたそうです。それが常識的な判断だと思います。ところが、それが今や日銀のETFの購入規模は10倍くらいになっています。

草刈氏:今では、中央銀行が市場の催促に応えて、買いに入っているような状態になっています。政策当局も慎重な姿勢はあったと思います。ただ、コロナ禍が一種の免罪符として作用してしまった面があります。結果的に、誰も責任を取れなくなる危険性があります。

14歳の息子に株式投資を勧められる時代

いったんタガが外れると、麻薬ではありませんが、止まらなくなる。中央銀行マンのプライドや矜持はどこかに行ってしまったといった嘆きの声さえ聞こえてきます。

相場氏:1997年に日銀法が改正されて、独立性が担保されたのですが、それが逆に悪く働いている面もあるのかもしれません。それ以前は、日銀は大蔵省の外局のような位置づけでした。ゆえにタガが外れることはなかったように思います。独立性が高まったことで、逆にバランスを崩してしまったという面もあるのではないでしょうか。

今、これまで投資に触れたことのなかったような初心者、素人の投資家が参入している状況も見受けられます。『金融バブル崩壊』に詳しく書かれていましたが、米国では手軽に株式投資ができる「ロビンフッド」のようなスマホアプリが大人気です。コロナ禍で得た失業給付金などで以前より多くの人が株式投資をするので株価が上がりやすくなっている。分かりやすい銘柄に飛びつく米国の個人投資家が、新型ゲーム機を発売したソニーや、任天堂の株高を支えているという指摘もあります。これもバブルのような過熱につながる現象なのでしょうか?

草刈氏:先日、14歳の息子に株を勧められた、これは危険な兆候だ。という英フィナンシャルタイムズのコラムニストの記事を読みましたが、まさしくその通りだと思います。

澤上氏:やはり、当然あるべき「労働の対価」といった基本が忘れられていると思います。

「自分が理解できないものに投資するな」とは、投資家のジム・ロジャーズ氏が書籍『危機の時代』で語った言葉です。何が起きているのかよく分からないが、とにかく上がっているので株を買おうといった危なっかしい投資家も生まれてきている状況のようですね。次回は、そうした状況下で生活や財産を守るために必要な考え方についてお話をお聞きしたいと思います。

株高と金融政策をテーマに鼎談した相場英雄氏(左)、澤上篤人氏(中央)、草刈貴弘氏 (写真:北山宏一)
株高と金融政策をテーマに鼎談した相場英雄氏(左)、澤上篤人氏(中央)、草刈貴弘氏 (写真:北山宏一)
日経BPから書籍「金融バブル崩壊 危機はチャンスに変わる」を発売!

 コロナ禍が長引く中、高値更新が続く株式市場。しかし、空前の低金利や日銀のETF買いを受けた株高はいつまでも続かず、崩壊するリスクが高まっている。もし、金融バブルがはじけたとしても、慌てることなく、それをチャンスに変えて稼いでいくために、どう考え、どう行動すべきなのか。 長期投資の第一人者が 、その哲学を熱く語り、 投資戦略をクールにひもときます。

 現代の金融システムや、古今東西の歴史を振り返って「バブルの仕組み」を分析し、その崩壊局面に備えて、どうすればしっかりと身の回りを固められるのか、を分かりやすく解説します。経済の本質を知り、自分の頭で考えることで、遠くない将来にやってくる可能性がある危機をチャンスに変えるための投資戦略を学べる1冊です!

「世界中に火種はあるが、一番ヤバいのは日本だ」!
日本の金融政策に切り込んだ相場英雄氏の最新作『Exitイグジット』を発売

 月刊誌「言論構想」で経済分野を担当することになった元営業マン・池内貴弘は、地方銀行に勤める元・恋人が東京に営業に来ている事情を調べるうち、地方銀行の苦境、さらにこの国が、もはや「ノー・イグジット(出口なし)」とされる未曽有の危機にあることを知る。

 金融業界の裏と表を知りつくした金融コンサルタント、古賀遼。バブル崩壊後、不良債権を抱える企業や金融機関の延命に暗躍した男は、今なお、政権の中枢から頼られる存在だった。そして池内の元・恋人もまた、特殊な事情を抱えて古賀の元を訪ねていた。

 やがて出会う古賀と池内。日本経済が抱える闇について、池内に明かす古賀。一方で、古賀が伝説のフィクサーだと知った池内は、古賀の取材に動く。そんな中、日銀内の不倫スキャンダルが報道される。その報道はやがて、金融業界はもとより政界をも巻き込んでいく。

 テレビ・新聞を見ているだけでは分からない、あまりにも深刻な日本の財政危機。エンターテインメントでありながら、日本の危機をリアルに伝える、金融業界を取材した著者の本領が存分に発揮された小説。

 果たして日本の財政に出口(イグジット)はあるのか!

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