ブロックチェーンによるエネルギーの大量消費を解消できるか:動き出したイーサリアムと「PoS」の潜在力

分散型であることの利点が注目されてきたブロックチェーンの技術には、大量のコンピューターが稼働することで消費電力が莫大なものになるという課題が指摘されてきた。こうした課題の解決につながる技術の導入に動いたのが、世界第2位の取引量を誇るEthereum(イーサリアム)。エネルギー消費を抑えながら安全性を確保する「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」と呼ばれるシステムへの移行に向け、いま大改修を進めている。
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ANDREY RUDAKOV/BLOOMBERG/GETTY IMAGES

Twitterのフィードをひたすら流し読みし続けているだけで、ここしばらくは仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)の世界が波乱を迎えていたことがわかるだろう。

まず、デジタル資産のノンファンジブル・トークン(NFT)の人気に火が付いている。NFTとは、デジタルアート作品からゲーム内の武器、ツイート、オナラの音に至るまで、デジタルオブジェクトの“幻影”のような役割を果たすとされる認証コードのようなものだ(とりわけモンティ・パイソンのジョン・クリーズによるNFTのオークション販売や、オークション大手のクリスティーズによるBeepleというアーティストのデジタル作品のオークションは注目された)。

ところが、こうした流行に便乗して大儲けしているデジタルアーティストたちは、忍び寄る罪の意識と戦っているという。アーティストたちの作品をお金に変える新しい方法がエネルギーの浪費につながり、気候に悪影響が及んでいるというのだ。

大量のエネルギーを消費するブロックチェーン

仮想通貨の仕組みをよく知る人なら、こうした事実を聞いてもあまり驚かないだろう。仮想通貨の元祖にして最も人気のあるビットコインは、ユーザー間の決済を認証する際に銀行や金融機関といった“調停役”に依存しないピアツーピアの決済システムとして設計されている。

その仕組みを支えているのは、決済履歴のログを共同で保有する分散型の大量のコンピューター(ビットコインのブロックチェーン)である。そしてブロックチェーンは、新たな取引(トランザクション)を承認する投票に似たプロセスを通じて、定期的に更新されている。

このモデルの潜在的な落とし穴のひとつとして、「51%攻撃」というシナリオがある。51%攻撃とは、悪意ある攻撃者が大規模な「なりすまし行為」でブロックチェーンのネットワークの大部分を乗っ取り、本来は承認すべきでないトランザクションを通過させようとする行為だ。「ビットコインを使いたいのに自分の手元にない」というユーザーが、そうした攻撃を仕掛けることがある。

そうしたリスクを回避するためビットコインには、ネットワークに参加するコストが高くなるような設計が施されている。台帳を保有するコンピューター群(「マイニングノード」とも呼ばれる)は、複雑な数学的パズルを常時解くよう求められ、その報酬としてビットコインを受け取る仕組みになっているのだ。

そしてこうした問題を解く際に、これらの(かなり高価な)コンピューターが大量のエネルギーを消費する。ビットコインの台帳を改ざんしようとする意欲をくじき、代わりに協力を促すことを意図したシステムと言っていい。

動き出したイーサリアム

だが、ケンブリッジ大学オルタナティヴ・ファイナンス・センター(CCAF)によると、電力に基づくこうした「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」と呼ばれる奨励システムが原因で、ビットコインのマイニング(採掘)は年間133.65テラワット時を消費しているという

これはスウェーデンやウクライナといった国の年間消費電力よりも多い数字だ。ケンブリッジ大学が2020年に発表した報告書では、そのうち再生可能エネルギーが占める割合は39%にとどまっている。CCAFの研究員であるマイケル・ラウクスによると、ビットコインの成功によってPoWが仮想通貨の「業界標準」として定着したという。

NFTの大部分が生み出され、また取引されているプラットフォームは、世界第2位の取引量を誇るEthereum(イーサリアム)である。イーサリアムも15年の立ち上げ時にPoWを採用しているが、仮想通貨界のアーティストの良心の呵責はここに起因している。

ある試算によると、イーサリアムでNFTが1回販売されるたびに、8.7メガワット時という大量の電力が消費される。これは英国の平均的な家庭の年間消費電力の2倍以上である。

だが、そうした状況も変わっていくかもしれない。イーサリアムは目下、エネルギー消費を抑えながらPoWの安全性を確保するシステムへと置き換えるべく、大改修を進めている。PoWからの移行の動きは各所で見られるが、イーサリアムの改修がうまくいけば、そうした動きに拍車がかかり、仮想通貨のカーボンフットプリントや浪費を減らせる可能性がある。

この仕組みは「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」と呼ばれる。PoWは現実世界のハードウェアやエネルギー消費に支えられているが、これに対してPoSの有効性の根拠となるものは仮想通貨の知覚価値(この場合はイーサリアムのイーサ)であり、ゲーム理論におけるトレードオフである。


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マイニングノードは、ヴァリデーター(承認者)に置き換えられる。ヴァリデーターは、ネットワークに参加するための保証金としてかなりの額(現在は32イーサ=38,000ユーロ以上、約491万円に相当)を支払わなくてはならない。この保証金(すなわち「ステーク」)には時間とともに利子がつくので、ヴァリデーターにとってのインセンティヴになる。

また、数学的な問題を解く競争に代わるものとして、トランザクションを検証するヴァリデーターをランダムに割り当てるアルゴリズムが存在する。この仕組みではネットワーク参加者の3分の2が承認すれば、トランザクションが確定される。正規ではないトランザクションを承認しようとしたり、不正を働いたりするヴァリデーターには罰金が課される(罰金はステークから支払われる)。最も深刻な場合にはステークが全額没収され、ネットワークから遮断される。

PoSをはじめとする大改修を予定しているイーサリアムの「Eth.2.0アップグレード」プロジェクトに参加しているソフトウェア開発会社ConsenSysのベン・エジントンによると、51%攻撃はPoSでも起こりうるが、実施するにはネットワークの残りの部分すべてを合わせた分の2倍のイーサが必要になると指摘する。「つまり、ブロックチェーンの安全性を担保しているステークが100億ドル(約11兆円)相当だった場合には、チェーンに有効な攻撃を仕掛けるには200億ドル(約22兆円)が必要になります」

さらなる前提として、攻撃が報告された場合にはイーサの価格が急落することになるので、攻撃者のステークの価値も粉々になる。PoWと同じように、不正行為を防ぐようなインセンティヴが設定されているわけだ。しかしPoSの場合は、カリカリと音をさせながら電力を大量に消費するマイニングコンピューターは必要ない。理論上は、ノートPCでもヴァリデーターを運用できる。

PoSの有効性と難点

一方で、PoSは新しく複雑な仕組みであることが大きな難点であると、イーサリアム財団の研究者ダニー・ライアンは言う。「PoWはもっと単純です。PoWの複雑性は物理ハードウェアに押し付けることができますし、実際のソフトウェア設計もかなり単純です。PoSの最大の欠点を挙げるとすれば、仕組みがかなり複雑である点でしょうね」

つまり問題は、ネットワーク設計の健全性について人々に納得してもらうことが難しかったり、マイニングのような仕組みを手ごろに説明できる手段がないというだけではない。PoSはPoWに比べて検証が進んでおらず、PoSシステムを機能不全に陥らせる未知の方法が存在するということなのだ。

「PoWは12年ほど使用されており、有効であることがわかっています」と、テック系コンサルタント企業DecentraNetの創業者であるマット・マッキビンは言う。マッキビンはPoWを廃止する代わりに、そのマイニングのエネルギー源をよりクリーンにすることを提唱している。

実際のところ、PoSをきちんと実装することの難しさは、すでに示されている。15年にイーサリアムが産声を上げた際、開発チームはシステムをマイニングから「ステーキング」へと移行することをかなり早い段階で約束していた。当時は新しい仮想通貨が雨後の竹の子のごとく登場していたが、イーサリアムの開発チームの展望は、そうした新プロジェクトがPoSの仕組みを選択する上で一定の役割を果たした可能性があるのだと、ラウクスは指摘する。

EOSやカルダノといったいくつかの有名なブロックチェーンでは、さまざまなPoSの要素が使用されている。「将来的にPoSへ移行するというイーサリアムの暗黙の前提は、(PoWとは)別の視点を前に進める上で大きな役割を果たしました。独自のブロックチェーンを構築していた新規の開発者や企業が次々と、初期の設計案から即座にPoWを排除し始めたのです」と、ラウクスは言う。

移行にようやく現実味

ところが、イーサリアムがPoSに移行する予定日は延期に延期を重ねている。ライアンによるとその理由は、安全性と分散化(仮想通貨の根幹をなす2大原則)を確保しながらPoSのブロックチェーンを構築することが大変な作業だったからだ。

「イーサリアムが立ち上がった当初、安全なPoSは存在しませんでした。PoSのアルゴリズムはありましたが、既知の重要な理論的問題や攻撃ヴェクトルも存在していたと思います」と、ライアンは語る。イーサリアムが急速に世界第2位のブロックチェーンに成長したことを考えると、開発者たちは注意深く作業を進める必要があったのだとも、ライアンは指摘する。

こうしたなか、いまPoSへの移行が現実のものになろうとしているようだ。イーサリアムは昨年12月、PoSで稼働するブロックチェーンを立ち上げたのである。

PoWが段階的に廃止されていく一方で、そのブロックチェーンがやがてネットワーク全体を支える屋台骨となっていくだろう。イーサリアムのエコシステム全体が新しいシステムに移行するまでにどのくらいかかるのかは不明だが、「数年ではなく数カ月単位の話になる」と、ConsenSysのエジントンはみている。

「基本的に9割の作業が完了しています。既存のブロックチェーンをPoSに移動させれば、すべてが完了します」と、エジントンは言う。だが、ケンブリッジ大学の研究員であるラウクスは、「作業に伴う複雑性を考えると、そうした見通しは楽観的なもの」にすぎないと指摘する。

ビットコインはPoSに移行できるのか

イーサリアムのPoSへの移行が、カーボンフットプリントに直接もたらす影響は相当なものになるだろう。それでも、それは仮想通貨によるエネルギー消費問題の核心には触れていない。問題の責任の大部分は、依然としてビットコインにあるからだ。

ラウクスによると、昨年時点でのイーサリアムの年間電力消費量は20~25テラワット時と推定されるが、これはビットコインのおよそ6分の1にすぎない。

「ビットコインの2カ月分ということになります。したがって、CO2排出量の大幅な削減という観点からは、それほど大きな意味はないでしょうね。ビットコインが圧倒的な部分を占めているのですから。しかし象徴としての観点から見れば、将来的にPoWから脱却する上で間違いなく役立つと思います」と、ラウクスは言う。PoSへの移行が実現すれば、仮想通貨全体へと波紋が広がり、PoWはどんどん少数派になっていくかもしれない。

当然ながら、「ビットコイン自体がPoSへの大幅な移行を果たすことはあるのか」という大きな疑問が浮かんでくる。PoWや、その直感的でハードウェアに裏打ちされた構造がビットコインコミュニティ全体に占める位置を考えると、その可能性は相当に低いように思える。

だが、機関投資家やイーロン・マスクをはじめとするテック界の億万長者たちの間でビットコインが新たな資産として定着しつつあるなか、何らかの譲歩が起こる可能性はゼロではない。ラウクスはこう問いかける。「例えば、ビットコインを社会的責任投資とみなすことはできないでしょうか。あるいは、ビットコインをいわゆるESG(環境・社会・ガバナンス)基準に抵触させることはできないでしょうか」

より安価でクリーンなエネルギーを求めて

グリーンな仮想通貨マイニングを提唱しているDecentraNetのマッキビンは、ビットコインのカーボンフットプリントを最小化するようなシステムへの移行は、不可避だと考えている。事実、そうした議論は前からあった。

ビットコインの膨大なエネルギー消費は、最終的に再生可能エネルギーへの切り替えを加速させるだろうと、マッキビンは主張する。

彼は18年に、「サトシからの第2の贈り物:再生可能エネルギーの奨励プログラム」と題する記事を「Medium」に投稿している。ビットコインを考案した自称「サトシ・ナカモト」が、偶然にせよ意図的にせよクリーンなエネルギー生産を奨励しているとして、マッキビンは自説を展開しているのだ。彼の見方では、ビットコインの報酬が、よりクリーンな(そして概して安い)太陽光や水力といった再生可能エネルギー源の利用を促す要因として機能しているという。

「ビットコインが世界で最もクリーンな類のエネルギーのための『奨励プログラム』となる時期が来るでしょう」とマッキビンは言う。「なぜなら、そうしたエネルギーシステムを最大限に活用する方法を見出すことが、経済的に採算のとれる道だからです。なにしろ化石燃料よりも安いのですから」

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TEXT BY GIAN VOLPICELLI