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2021年4月2日、暗号資産やブロックチェーン分野のサービス開発・企画を担う新会社メルコインを設立すると発表したメルカリ。本格参入の狙いは何か。メルコインの代表に就任予定のメルペイ代表取締役CEO(最高経営責任者)の青柳直樹氏は「ウォレットやペイメントのなかに暗号資産が組み込まれていく流れが米国で始まった」と語り、この分野が新しいフェーズに入ったとみている。

(聞き手=岡部 一詩)

メルペイ代表取締役CEO(最高経営責任者)の青柳直樹氏
メルペイ代表取締役CEO(最高経営責任者)の青柳直樹氏
撮影:陶山 勉
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このタイミングで、暗号資産やブロックチェーン領域に本格参入することに決めたのはなぜか。

 ブロックチェーン技術は、長らく検討を重ねてきた分野だ。2017年にはメルカリの研究開発組織「mercari R4D」のなかで、ブロックチェーンを活用した実験的なマーケットプレース「mercariX」の社内運用を始めるなどしてきた。「メルコイン」という商標も4年前に取得している。ずっと参入のタイミングをうかがっていたと言える。

 本格参入に当たり、きっかけとして大きかったのがブロックチェーン技術と決済の距離が近づいてきたこと。「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」の議論が日本を含めて、さまざまな国で進み始めているのが好例だ。我々の事業に一番近いところとして、米Square(スクエア)や米PayPal(ペイパル)の動きにも注目していた。

 メルペイを始めたとき、中国のスーパーアプリを引き合いに出されることが多かった。ただし私が思い描いていたのは、いくつかのシンプルに強い機能群が連携したサービス。その意味で、特にSquareの「Cash App」はベンチマークになる。

 決済・送金サービスであるCash Appは、カードや与信といった機能を備えている。ビットコイン売買も可能だ。2018年ごろから実装し始めていたが、一気に使われるようになったのは去年のこと。ウォレットやペイメントのなかに暗号資産が組み込まれていく流れが米国で始まったと感じた。

 ZホールディングスとLINEの経営統合もあり、スーパーアプリのパワープレーに対して、我々はどのように差異化を図れるのか。これは日々考えてきたテーマだ。2020年6月に「キャッシュレス・ポイント還元事業」が終了し、次の成長ドライバーに位置付けたのが信用サービス。決済に加えて、「メルペイスマート払い」の拡張に力を入れた。さらに次は何をすべきかを考えたとき、ブロックチェーンの活用や、暗号資産とウォレットの融合だろうという結論に至ったわけだ。

 具体的な検討を始めたのは2020年半ばのこと。中期的な投資が必要になるので、メルカリの取締役会で何度も議論してきた。ここのところ、暗号資産の市況やNFT(非代替性トークン)が盛り上がりをみせているが、我々にとっては偶然。もっと静かな状況だったとしても参入していただろう。

メルペイ代表取締役CEO(最高経営責任者)の青柳直樹氏
メルペイ代表取締役CEO(最高経営責任者)の青柳直樹氏
撮影:陶山 勉
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3年前に参入しようとしても難しかった

 資金移動業者と金融機関でセキュリティー問題が発生したこともあり、2020年の秋口から年末にかけては、オンラインでの本人確認強化を優先的に進める判断をした。これは、暗号資産領域への参入を視野に入れていたこともある。暗号資産に関するサービスには本人確認が欠かせない。ユーザーに負担をかけることなく新たなサービスを使ってもらうには、いずれにせよ必要な取り組み。今では、本人確認済みのメルペイユーザーが800万を超えている。

 当社としては本人確認を巡る投資をやり切ったうえで、新しい事業に進出した格好だ。

 業界全体が成熟してきたという背景もある。これは資金移動業も暗号資産交換業も同じ。3年前に参入しようとしても難しかっただろう。今なら、社会にも当局にも理解してもらえる形で暗号資産やブロックチェーン領域に進出できるとみている。