今からでも遅くない!仮想通貨ブームの“基礎知識”…バブル渦巻く「NFT市場」はトラブルに誤解も

ビットコイン

NFT(非代替性トークン)の取引量は3月中旬にピークを迎えた。今後の市況は?

画像:今村拓馬

「NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)」をはじめとして、2021年明けから急速な盛り上がりを見せている仮想通貨(暗号資産)業界。しかしそのブームには誤解も多く、また日本でのビジネスには大きな障壁も横たわっているという。

今からでも知っておくべき、仮想通貨ブームの“基礎知識”とは?

NFTの週間取引量はピークで約200億円

NBA Top Shot

試合の公式ハイライト映像をトレーディングカードとして売買できる「NBA Top Shot」。

画像:NBA Top Shot公式サイト

2021年明けからネット上を騒がせている「NFT」というバズワード。NFTとは、ブロックチェーン技術を使ったデジタル資産の一種だ。

貨幣として使うことのできるビットコインなどの仮想通貨とは異なり、発行されたデータはそれぞれが「唯一無二」のものであり、分割したり決まった価値で交換することができない

あるデジタルデータを「NFT化」すれば、その情報は唯一無二・複製不可能なものとしてブロックチェーン上に記載できる「証明書」としても使える。こうした特性がデジタルアートやゲームの世界で活用できるとして、大きな脚光を浴びた。

2020年10月、アメリカのプロバスケットボールリーグ、NBAが、試合のハイライト映像を公式に購入し、トレーディングカードとして売買できるNFTプラットフォーム「NBA Top Shot」を開設したことで人気は高騰。

今年3月には、Beeple(ビープル)というアーティストのデジタルアート作品が6930万ドル(約75億円)で落札され、その注目はピークに達した。

仮想通貨メディア「The Block」によると、NFTの週間取引量は、2月21日のピーク時には約1億9640万ドル(約200億円)を突破した。その多くを占めていたのが、先述の「NBA Top Shot」での取引だ。

NFTバブルは崩壊したのか?

その一方で、一時みられた急速な盛り上がりは、すでに峠を越えたとの声も聞かれる。実際、先述の「The Block」によるデータを見ると、NFTの週間取引量は、3月中旬頃から急降下している。

CNN BUSINESSは、NFTのバブルは「1600年代のチューリップバブル、2000年のドットコムバブル、2008年の(のちに世界金融危機を引き起こした)住宅バブルを思い起こさせる」として警戒を呼びかけている。

現代美術家の村上隆氏は4月11日、一度NFTの大手プラットフォーム「OpenSea」 に出品した自身のアート作品を取り下げると発表した。その理由として「専門家からの認識を深め(中略)より最適な形式でNFTを提供するのが良いと考えた」としている。

NFTには課題も多い。NFTはその音楽やアートの「偽造不可能な鑑定書」としては使えるが、音源やアートそのもののコピーを直接防げるわけではない。

また、そうした「鑑定書」だけが残っても、データ自体が使えなくなってしまう可能性もある。例えば、あるカードゲームのアイテムをNFTとして購入しても、ゲームそのものがサービスを停止してしまえば、アイテムは使えなくなってしまう。

コレクターズアイテムとしての特性があるNFTだが、デジタルならではの欠陥も理解する必要がある。

スクエニも参入「日本版NFT」の強み

ミリオンアーサー

スクウェア・エニックスがNFTデジタルシールを発売すると発表したカードゲームRPG「ミリオンアーサー」シリーズ。

撮影:西山里緒

こうした懸念はあるものの、日本におけるNFTの可能性への期待は高い。

特に目立つのは、国内ネット企業のNFTマーケットプレイス(NFTを売り買いできるプラットフォーム)への参入だ。3月には仮想通貨取引所のコインチェックがNFTマーケットプレイス「Coincheck NFT(β版)」を開始。

それを皮切りに、4月2日にはメルカリがブロックチェーンに関するサービスの展開を目指す子会社「メルコイン」の設立を発表、さらに7日にはGMOもNFT事業への参入を発表した。

また、国内ゲーム大手、スクウェア・エニックスは3月17日、他社に先駆けてNFT市場への参入を発表。夏には、第1弾プロジェクトとして、2012年にリリースされたカードゲームRPG「ミリオンアーサー」のNFTデジタルシールの発売を予定しているという。

同ゲームはシナリオにライトノベル『とある魔術の禁書目録』で知られる鎌池和馬氏、音楽にはヒャダインこと前山田健一氏が参画しており、海外ファンへの訴求を目指していることが伺える。

同社のIP(知的財産)のNFT化プロジェクトを協業するブロックチェーンアプリ企業、double jump.tokyo 社長の上野広伸氏は、他にも多くのゲーム大手がNFTに関心を示していることを明かした。

「海外でも人気の高いゲームやアニメ、マンガを多く有する日本は、世界でもNFT市場の中心となる可能性を秘めています」(上野氏)

コインチェック“以後”の日本の市況は

コインチェック

仮想通貨取引所・コインチェックの大量流出事件は市場に衝撃を与えた。(写真は事件の当日、コインチェック本社前にて撮影)

撮影:西山里緒

日本は世界でも人気の高いエンタメコンテンツを多く有するからこそ、NFTの高まりは日本のビジネスにとって大きなチャンスがある ── 。今回取材した関係者はそう口を揃える。

一方で、日本がNFTをはじめとする仮想通貨ビジネスを展開する上で障壁になり得ると指摘されるのが、金融庁主導で設立された自主規制団体・日本暗号資産取引業協会(JVCEA、旧:日本仮想通貨交換業協会)による厳格な規制と膨大な手続きだ。

アメリカ発の仮想通貨取引所の日本部門「クラーケン・ジャパン」代表の千野剛司氏は、JVCEAの課題については、その設立の背景も大きく影響している、という。

2018年1月に不正アクセスによって、仮想通貨取引所コインチェックから仮想通貨NEM(580億円相当)が大量に引き出された事件は、盛り上がる市場に衝撃と混乱を巻き起こした。

この事件をきっかけに、全ての仮想通貨事業者に対してシステムリスク管理態勢や内部管理態勢が問われることになったのだ。

こうした事業者のガバナンスの審査・監督のため、金融庁主導で2018年3月に設立されたのが、JVCEAだ。JVCEAの管理の下、現在30社が仮想通貨ビジネスを運営している。

アメリカの規制は“原則ベース”

仮想通貨取引所「クラーケン・ジャパン」を運営するペイワードアジアCEOの千野剛司氏。

仮想通貨取引所「クラーケン・ジャパン」を運営するペイワードアジアCEOの千野剛司氏。

撮影:西山里緒

しかしその運営には課題もあると千野氏は言う。千野氏は、アメリカの規制当局(米国証券取引委員会[SEC]など)と比較して、日本ではNFTのような新しいサービスが機動的に生まれづらい、構造的な問題があるという。

「アメリカでは法律は“原則(プリンシプル)ベース”。新しいサービスが出てきたとき、詐欺ではないか?マネーロンダリングに使われていないか?などのリトマス試験紙のようなものを当てて、そうでなければ一つひとつモグラ叩きのように規制はしないというのが基本スタンスです」(千野氏)

その一方で、日本では規制のスタート地点が投資家の保護から生まれたこともあり、仮想通貨取引所だけでなく、全てのサービスがJVCEAの審査を通らなければ運用できない決まりだ。

「新しいサービスを作ろうとしても、あらゆるコイン(トークン)やサービスが同じ審査を受けなければならず、その審査過程はブラックボックス化しています。結果的に時間もかかり、多くのサービスが“待ち行列”を作っている状態です」(同上)

仮想通貨業界の発展は日進月歩ならぬ“秒進日歩” ── 。NFTやDeX(分散型取引所)のような新しいサービスを迅速に試すには、アメリカのような規制方針のほうがうまく機能するのではないか、と千野氏は言い添える。

金融庁は「トラブル多数」呼びかけ

とはいえ、投資家の保護という観点が、業界そのものの活性化に不可欠なのは紛れもない事実だ。コインチェックの例を見るまでもなく、金融市場の不正事件は市場そのものを冷え込ませ、新たな成長を萎縮させることになる。

4月7日、金融庁、警察庁、消費者庁は、仮想通貨に関するトラブルが急増しているとして、連名で注意を呼びかけた。仮想通貨は価格が急落し損をする可能性があることや、関連する詐欺被害が多発していることなどを公表している。

投資家の保護と、ブロックチェーンという新たな市場におけるイノベーションの促進 ── 。

こうしたブレーキとアクセルの関係をどう操縦していくか。すでに大きな遅れを取っている日本の仮想通貨市場が世界で存在感を示していくためには、規制のあり方を時代の変化に合わせて見直し、アップデートしていくスタンスが求められているのではないか。

(文・西山里緒

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