フォーブス誌の買収候補:暗号資産×メディア戦略を語る

資本主義を伝えてきた創刊104年の経済誌『フォーブス』を発行するフォーブス・メディア社の買収に、少なくとも2社が名乗りを上げている。

ロイターは先週、フォーブスのオーナーらがテック投資家のマイケル・モー(Michael Moe)氏からの買収提案を検討していると報じた。モー氏はフォーブスを、特別買収目的会社(SPAC)と合併させる予定だ。

同時に報道されたのは、暗号資産(仮想通貨)に特化した投資企業でパトリック・マッコンローグ(Patrick McConlogue)氏が運営するボーダレス・サービス(Borderless Services)。同社は7億ドル(約765億円)のオファーを提示しているという。

米CoinDeskとのインタビューでマッコンローグ氏は、フォーブスに組み込む予定の暗号資産機能や、ブロックチェーンテクノロジーが支えるメディア帝国に向けた壮大な野心を含め、自らの提案の詳細を語った。

「フォーブスという資産を主なターゲットとしている訳ではない。我々の買収戦略の最初のステップだ」とマッコンローグ氏は述べる。「メディアの変化の機は熟している。銀行の変化の機が熟しているのと同じように」

暗号資産がメディアと銀行の両方を改革する方法だとマッコンローグ氏は話す。

今回の買収提案は、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産が人気を集める中で行われた。分散型テクノロジーは信頼をモデル化し、経済単位を作り上げ、取引の資金を調達する新しい方法を提供する。

メディア×クリプト・ブロックチェーン

マッコンローグ氏は買収提案に必要な「資金は完全に整っている」と述べた上で、ボーダレスはフォーブスのオーナーであるIntegrated Whale Media Investments(2014年にフォーブス株の95%を購入)とフォーブス一家(残りの5%を保有)から即座に買収することができると話した。

買収合意に至れば、その資金は未公開株式投資会社のアレス・マネジメント(Ares Management Corp.)が準備する債券と株式でまかなわれることになる。

600万人の読者を抱え、ウェブ上では1億4000万人に読まれる雑誌に対して、7億ドルは正当な評価だとマッコンローグ氏は言う。2014年に最後に買収された時には、評価額は4億7500万ドル(約519億円)だった。

当記事執筆時点では、フォーブスもアレスも米CoinDeskによるコメントの求めに返答していない。交渉がどこまで進んでいるのかは不透明であり、フォーブスが買収の提案を受け入れる保証はない。

7億ドルの買収提案の中身

フォーブスへの買収提案に加え、多くの「ケーブルネットワークや活字メディア」も買収する計画があり、その資金もアレスを通じてまかなわれることになるとマッコンローグ氏は語った。伝統的金融に興味を持つ読者や視聴者に、暗号資産に関する認識を高めてもらうことが最終目標だ。

「まだ手付かずの層は、雑誌を開くような人たちだからだ」と、マッコンローグ氏は述べ、フォーブスの報道範囲を「金融の未来に関するニュース」に特化する方向へと変えていくとした。(フォーブスはすでに、暗号資産とブロックチェーンに特化したニュース部門を抱えている)

マッコンローグ氏が計画する報道範囲には、「世界が素早く変化し、ニュース抜きで市場が変化しているような」暗号資産やロボット取引、クオンツ投資などに特化したものも含まれる。世界に多大な影響を与える30歳未満の30人を選出する「30 Under 30」といった人気のリスト企画は維持する予定だ。

さらに、フォーブスをボーダレスが所有することになれば、メタマスク(MetaMask)などの暗号資産ウォレットがワンクリックで組み込まれることになり、読者の閲覧エクスペリエンスで際立つ特徴となると同氏は説明する。

メディアサイトDecryptによる実験的アプリのように、記事を読み終えたり、SNSでコメント・シェアしたりすることに対してトークンによる支払いを受けられることになるかもしれない。

ボーダレス傘下となれば、各出版物で独自のトークンを発行すると、マッコンローグ氏は語った。(トークンが支えるジャーナリズムの例は過去にも存在する。コンセンシスが後援した今はなきスタートアップのシビル(Civil)や、より最近ではブリック・ハウス(Brick House)コレクティブなどだ)

マッコンローグ氏の過去

ボーダレス・サービスは「人が情報を消費する方法を変化させるテクノロジー」を開発する「秘密開発プロジェクト」だと、マッコンローグ氏は説明する。

詳細な情報は乏しく、マッコンローグ氏は時々オフレコでの発言を求めたが、ブロックチェーンを超えてオフラインで実行可能なオーバーライン(Overline)と呼ばれる「ワイヤレスプロトコル」を開発中だと述べた。ポルカドット(Polkadot)とメッシュネットワークが1つになったようなもののようだ。

マッコンローグ氏はコンピューターサイエンス分野での経歴も持つ。20代前半の頃には、コーディングをホームレスの男性に教えて見出しを飾った。ヘッジファンドのシタデル(Citadel)で、エンジニアとして働いた経験もある。スタートアップのデータベース「クランチベース(Crunchbase)」は、同氏を相互運用可能なブロックチェーンプロジェクト「ブロック・コライダー(Block Collider)」の中核的開発者として挙げている。

ブロック・コライダーとボーダーレスが関連しているのかは不透明だが、「注目のマイニング」を含め、テクノロジー上のブレークスルーに取り組むために17人の社内開発者と、複数の契約社員を雇用したとマッコンローグ氏は語った。

ボーダレスメディア帝国ではゆくゆくは、「インターネットにまったく触らずに」グローバルな暗号資産取引を可能にするために、多くの無線送信機、そしてニューヨークの高層ビルの屋上に取り付けたアンテナを整備することになるだろうとマッコンローグ氏は語った。

野心的とも言えるマッコンローグ氏は、すべては小さなステップから始まると述べた。最初にマイニングした10分の1のビットコインは、コンピューターのRaspberry Piを使ってマイニングしたものだと話す。今の計画は、まず1つの買収を行い、それから多くの買収へと進んでいくというものだ。1つのノードから、多くのノードへと。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Forbes’ Would-Be Acquirer Outlines Blockchain Media Strategy