ビットコインの取引所残高減少が意味するもの

すべての暗号資産(仮想通貨)取引所で保有されているビットコイン(BTC)の数は先週、大幅に減少した。過去の経験に基づくと、ビットコイン市場にとってはプラスのサインだ。

しかし、暗号資産市場が大きくなるに連れて、市場のダイナミクスは変化してきている。わずか数個の指標に頼っても、必ずしも起こっていることの全体像は見えてこない。

ブロックチェーンデータ企業グラスノード(Glassnode)のデータによれば、すべての取引所にあるビットコインの数は、7月の最終4日間の258万7000から、4.1%減少し、248万となった。

すべての取引所で保有されているビットコインの数
出典:Glassnode

減少に対する市場の反応は当初、好意的なものであった。昨年9月には、すべての取引所でのビットコインの保有残高の減少は、値上がりと同じ時に起こったからだ。

そのように推定する論理は単純だ。投資家がビットコインの長期的価値についてより強気になったことで、より多くのBTCが取引所からコールドストレージウォレットへと移動したと考えられるのだ。

しかし、データをより綿密に検討したところ、特に、今回の減少幅は昨年のものよりずっと大きかったことを考慮すると、減少は必ずしも、強気の真理を反映するものではないかもしれないと、アナリストらは語る。

「たった1つの側面を見るだけで、何が起こっているのかを見極めるのは非常に難しい」と、ブロックチェーンデータアナリスト、ウィリー・ウー(Willy Woo)氏は述べる。「ネットワークが変化するに伴って、指標も変化する」

市場が先週、減少に気づき始めた頃、例えば暗号資産取引所クラーケン(Kraken)は、同社取引所におけるビットコイン残高の減少は、同社プラットフォーム内での移動の結果であると発表した。即座に当初の興奮に水をかけることとなった。

「減少が完全に、取引所内部での移動によるものではないと確認することはできない」と、ブロックチェーンデータ企業チェイナリシス(Chainalysis)のチーフエコノミスト、フィリップ・グラッドウェル(Philip Gradwell)氏は語った。「一部はそうだろうが、すべてではない。本当に引き出しが起こっているかどうかを見極めるには、より長期的に引き出しが観察される必要がある」

「はるか過去の取引所の保有残高について、決定的な判断を下すのはかなり難しい」と、グラッドウェル氏は結論づけた。「理解を深めるために私たちは取り組んでいる」

ブロックチェーンデータ企業カイコ(Kaiko)のリサーチャー、クララ・メダリー(Clara Medalie)氏は、どのアドレスが取引所のものかを見極めるのは簡単だが、取引所と関連する相対取引(OTC)デスクやブローカーなどのより多くの組織が、多くのビットコインを受け取っていると指摘した。

「そのため、取引所からの流出量を正確に測るのは困難だ。移動したコインは、他の取引所や取引デスク、あるいは同じ取引所の別のアドレスへと送られているだけかもしれないからだ」と、メダリー氏は説明した。

強気、しかし控えめな強気

しかし、他のいくつかのブロックチェーンデータ指標を見てみると、先週見られた取引所のビットコイン保有残高の減少はやはり、強気の市場心理を反映している可能性があると主張する人たちもいる。

先週減少が起こった時には、少量から大量のビットコインを保有する集団の保有数が増え、ビットコインの大口保有者「クジラ」と小口投資家の双方によって積極的な買いが行われたと、ウー氏は指摘した。

実際に取引可能なBTCの数は、2100万の上限の89%に当たる、ビットコインの現在の流通量1877万よりずっと少ない。投資家による買いだめが増加し、マイニングされたBTCが時間と共に完全に失われているためである。

取引所のBTC保有残高の減少と、ウォレットアドレスのBTC保有残高の増加は、一部のコインは取引所から買い手の元へ移動したことを示唆している。

「最も大口のクジラは取引所かもしれない。彼らはかつて、異なる固有の組織と思われていたが、今では実質的にずっと取引所であったということが判明した」と、ウー氏。「(1BTC未満を保有する)エビから小口のクジラまで、皆が保有数を増やした。(中略)彼らは取引所である可能性は低く、取引所から流出したコインの大半は、本当に移動したものだということが裏づけられている」

グラスノードのデータが示す通り、ここ2週間、BTC保有数ごとに分類したエンティティ(エンティティ:ネットワーク内で同じ参加者によって管理されているアドレス群)が保有する流通数は、100〜1000BTCを保有するエンティティと10万BTC以上を保有するエンティティを除いて、すべて増加している。


1万〜10万BTCを保有するエンティティが持つビットコイン数の推移
出典:Glassnode

「今回のような大規模な流出を目にすると、トレーダーが『価格を気に入って』おり、より長期的に保有しても構わないと感じているのだろうと私は考える」と、CoinDeskのジョージ・カロウディス(George Kaloudis)氏は述べる。「投資家たちは、清算するために取引所に資産を戻す場合の摩擦を考えると、短期的には嵐を耐え忍んでも構わないと思っていることを、明らかに示している」

好まれる取引所に変化

チェイナリシスの分析に基づくと、取引所からのビットコインの流出はケースバイケースのものだ。このことは、一部の投資家やトレーダーは、取引やその他の暗号資産関連のアクティビティに好んで利用するプラットフォームを変えた可能性を示唆している。

下のグラフが示す通り、暗号資産と暗号資産を取引する取引所のビットコイン保有残高の5月1日以降の減少幅は、暗号資産と法定通貨を取引する取引所のビットコイン保有残高の減少幅よりずっと大きなものだ。


2021年5月1日以降の取引所種類別ビットコイン保有数
出典:Chainalysis

「引き出されたビットコインの大半は、人々が取引に利用する取引所を変更するに伴って、取引所間を移動したものだと私は考えている」と、グラッドウェル氏は話す。

トレーダーや投資家が好む暗号資産取引所が変化した原因ははっきりとしないが、取引高で見ると最も人気の高い取引所であるバイナンスは、世界中でより厳格な取り締まりに直面している。

取引所からの最近のビットコインの流出は、「非KYC(顧客確認)顧客に対する引き出し額を大幅に引き下げるというバイナンスの発表をきっかけとしたものだろう」とブロックチェーン調査企業デルフィ・デジタル(Delphi Digital)は指摘。バイナンスとコインベースが、絶対的な流出数でトップ2であったとも指摘した。

バイナンスは、ドイツ、イタリア、オランダのユーザーは新たに先物およびデリバティブのポジションをオープンすることはできないとも発表した。

一方、暗号資産と法定通貨を取引する取引所へと選好がシフトしたことは、暗号資産に新規に投資している人たちが、ビットコインのみに投資することにより自信を持っていることを示唆している可能性もあると、カロウディス氏は指摘。

「暗号資産全般を取引することをあまり好まないと思われ、理論的にはビットコイン普及についてより強気な、ビットコイン市場への新規参入者が見られる」と、カロウディス氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What Does Last Week’s Steep Drop in Bitcoin’s Balance on Exchanges Really Mean?