仮想通貨の無断採掘、有罪判決見直しか 最高裁で弁論へ
他人のパソコンを無断で使って暗号資産(仮想通貨)のマイニング(採掘)をするプログラムをウェブサイトに置いたとして、不正指令電磁的記録保管の罪に問われた男性被告(34)について、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は14日までに、上告審弁論を12月9日に開くと決めた。逆転有罪とした二審・東京高裁判決を見直す可能性がある。
仮想通貨は、取引を管理する公的機関が存在しない。このため、取引記録の正しさを検証する計算作業を利用者の有志が担い、対価として仮想通貨を得ている。金鉱を掘り当てる作業になぞらえ、採掘を意味するマイニングと呼ばれている。
男性は、2017年10~11月、他人のパソコンに計算作業をさせる目的で、自らの音楽関係のサイトに「Coinhive(コインハイブ)」と呼ばれるマイニング用のプログラムを仕込んだとされる。採掘で得た収益は約800円という。
18年3月に受けた罰金10万円の略式命令を不服とし、正式裁判で争った。
公判では、コインハイブが▽サイト閲覧者の意図に反して作動していたか▽不正な指示を出す仕組みといえるか――などが争われた。一審、二審はいずれも意図に反して作動したと認める一方、悪質性を巡り判断が分かれた。
一審・横浜地裁は19年3月、採掘について「サイトの質を維持・向上する資金源になり得るもので、閲覧者の利益となる」「消費電力の増加、処理速度の低下といった影響は、広告表示などと大きく変わらない」と評価した。
コインハイブを設置した当時、捜査機関などの警告や注意喚起がなかった事情も踏まえ、「いきなり刑事罰に問うのは行き過ぎだ」とも述べた。「社会的に許容されていなかったと断定はできない。不正な指令を与えるものと判断するには合理的な疑いが残る」として、無罪を言い渡した。
これに対し、二審・東京高裁は20年2月、「(閲覧者に)一定の不利益を与え、不利益に関する表示もない。社会的に許容すべき点は見当たらない」と指摘。「プログラムに対する社会一般の信頼を害し、悪質だ」として無罪判決を破棄、一審での検察側の求刑通り、罰金10万円とした。
警察庁はサイバー犯罪対策に関するホームページで、サイト運営者に対し「閲覧者に明示せずにマイニングツールを設置した場合、犯罪になる可能性がある」との注意喚起をしている。
最近マイニングに絡んだ目立った摘発はなく、警察当局も最高裁の司法判断を注視しているとみられる。
相場高騰で再び増加、悪質手法も
他人のコンピューター端末の処理能力を使い、暗号資産(仮想通貨)を採掘(マイニング)する手法は「クリプトジャッキング」と呼ばれる。取引以外で仮想通貨を入手する手法として、仮想通貨の相場が急騰した2017年ごろに普及し始めた。
ウェブサイトの閲覧者に告知するなど適切に使用すれば、ネット広告や課金に代わる収入源になるとも期待された。
その後、仮想通貨相場の下落で個人端末の処理能力では収益が確保できなくなり、マイニング自体が低迷。Coinhive(コインハイブ)の提供サービスは19年3月に終了した。
20年10月に1ビットコイン(BTC)あたり100万円台だったビットコインが現在は600万円を突破するなど、相場は再び高騰している。
キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)によると、相場高騰に伴い、年初から採掘ソフトの検出数も増加。コインハイブはサイト閲覧中にのみ稼働する仕組みだったが、端末をウイルスに感染させて常時採掘しつづける悪質な手法も確認されているという。
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