コインチェックの大塚雄介執行役員。
撮影:小林優多郎
無名アーティストのNFT作品が何百万円、何億円という高額で売れた。
有名なキャラクターの権利(IP)を持つ企業がキャラクターをNFT化した。
新たにNFT販売を仲介する事業を手掛けるようになった—— 。
最近、「NFT」に関するニュースが増えています。
一方で、話題にはなっていることは知っているけれども「NFTがそもそも何なのかいまだによく分からない」という人も多いのではないでしょうか?
実のところ、筆者もそのうちの一人です。
NFT関連のニュースや発表に、嬉々として取材に励む同僚を横目に、正直言うと、いまだにその価値や意味がよく分かっていません。
そこで11月の特集「NFTに未来はあるか?」の第1回では、NFT入門編として、NFTの取引プラットフォームCoincheck NFT(β版)を運営しているコインチェックの大塚雄介執行役員に、NFTとは何なのか素朴な疑問をぶつけました。
「大塚さん、NFTって何ですか?」
NFT初心者である筆者の質問に粘り強く回答する大塚さん。
撮影:小林優多郎
—— 大塚さんは「NFTとは何ですか?」と聞かれたら、何と答えていますか?
大塚雄介執行役員(以下、大塚):デジタル上で物を持てるようになった(所有できるようになった)ことが全てなのかなと思っています。NFTやブロックチェーン、それっぽい言葉がいくつか出てきますが、「デジタル上で自分が所有している」ということを証明する「技術」であるということが本質だと思っています。
—— NFTは「技術」なんですか?
大塚 :そうですね。
—— NFTは英語だと「Non Fungible Token」。日本語に直訳すると「非代替性トークン」だそうですね。正直、どの言葉も馴染みが薄いのですが、どういう技術なのでしょうか?
大塚:「非代替性トークン」という言葉自体、日常で全く使わないので、個人的にはこの言葉はあまり使わない方が良いのかなと思っています。
あえて説明すると、「Fungible Token」だとビットコインやイーサリアムのような暗号資産のようなものです。例えば、私が持っているビットコインと三ツ村さんが持っているビットコインは区別を付けられません(代替性がある)。
ただ、NFTは「Non」と付いていますよね。ですので、それが区別できる(代替性がない)。
私がデジタル上で保有しているカードと三ツ村さんが持っているカードに区別を付けることができるわけです。
それによって、「デジタル上で物が所有できるようになった」というイメージです。
NFTとは、どうやらブロックチェーンが関係した「技術」らしい。
Shutterstock/ST.art
—— デジタル上で「所有できるようになった」という状態がどういう状態なのか、いまいち腑に落ちていません。
大塚:「所有している」というのは、動かしたいと思ったときに自由に送ることができることだと思います。誰かに送ったり、売ったりできる。
所有していなければ、そういうことはできませんよね?
—— 例えば、デジタル通貨のようなものはこれまでにもありました。そういったものは所有できていなかったということですか?
大塚:所有はできていましたよ。ただ、先程の話を技術的な言葉で言うと「所有できている=ブロックチェーン上のアドレスにあるか」という話なんです。
—— ブロックチェーンによって所有できている状態と、これまでたとえばPayPayなどに入金している「僕が所有しているお金」では、意味合いが違うということでしょうか?
大塚:PayPayなどは、PayPayが運営しているサーバーの中で三ツ村さんが持っているIDに対して所有していることを担保しています。ですので、楽天の経済圏やPayPayの経済圏、それぞれで三ツ村さんのお金が別にあるという話になります。
仮の話ですが、ブロックチェーンを使えばPayPayの経済圏でも楽天の経済圏でも、そこで所有しているお金のバリューは一緒であることを担保できるようになる。
NFTに置き換えると、ブロックチェーンの技術によってデジタル上の世界全体でプラットフォームを超えて、お金やデジタルのアイテム、資産の価値が担保できるようになった。「デジタル上で誰かに何かを送った」という事実をキャンセルできなくなったんです。
NFTが「今」盛り上がっている意味
集英社は2021年3月にマンガアートを販売する「集英社マンガアートヘリテージ」をスタート。販売したアートの保有者情報などを記録するために、ブロックチェーンNFT証明書発行サービスを活用している。
2021, Eiichiro Oda /Shueisha Inc. All rights reserved.
—— 最近、NFTのアート作品の売買が非常に活発に起きているように感じています。通常のアートの売買とは何か違いはあるのでしょうか?
大塚:もともとアートは、その作品を誰が所有したのかということが非常に重要な世界でした。
結局、価値があると思った人が見ているから多くの人も価値があると思う節があるんです。
アートの世界では、口伝えや画商同士で「誰が持っていたのか」という情報をやり取りしていたのですが、「そこをクリアにしたい」という根本的な課題がありました。
ブロックチェーンの技術が注目された際に、まさにその課題をクリアにできるのではないかと思う人たちがいたんです。
—— ブロックチェーンの技術が世間で話題になったのは、2015年から2016年頃だったと記憶しています。なぜ数年のタイムラグがあったのでしょうか?
大塚:当時は、何となくブロックチェーンが使えそうだと思いながらも、アート業界の人たちとブロックチェーン業界の人たちがすぐに混じり合わなかったんです。
時間と共にその人たちが交流をしていくことで、デジタル上のアートを「NFTアート」と呼び始めた。NFTは「イーサリアム」というプラットフォームで作られているのですが、そこでどんどん価値が上がっていきました。
—— そのシステムによって「非代替性」を実現できて、売買を管理することができるようになったと。
大塚:そうですね。
そして、イーサという暗号資産を持つ投資家たちが「これは値が上がるのではないか」と購入してどんどん値がつり上がっていきました。
そのうち、NFTアートに1000万円の価値がついたり、競売のクリスティーズで売り出して数十億円で売れたりしたことで、アート業界に衝撃が起こりました。こうして一大ムーブメントになっていったわけです。
「NFTを販売するのは簡単です」というので、筆者も実際にOpenSeaに登録してNFTアートを作ってみた。暗号資産用のウォレットなどの準備は必要だが、NFTアートをアップロードすること自体は非常に簡単にできた。
撮影:三ツ村崇志
—— ちなみに、僕がNFTアートを作って販売するには、どうすれば良いんでしょうか?
大塚:まずは作品が必要ですね。例えば、jpegの画像の絵を描いたとして、それを「NFT化」する。Coincheck NFT(β版)やOpenseaなどの「NFTの販売所」に出品すればいいだけです。
ヤフオク!(販売所)に商品を出したり、自分のホームページやブログを作る感覚でできます。
NFTに企業が続々参戦する理由とは?
—— 最近では、自社キャラクターをNFT化するような企業や、コインチェックのようにNFTの販売所を作る企業がたくさん出てきていますよね。企業はなぜNFTに参入しようとしているのでしょうか?
大塚:これはプレイヤーによって思惑が違うと思います。
例えば自社でキャラクターの権利(IP)を保有している企業は、今までは自分たちのIPを使ってぬいぐるみやトレーディングカードを作っていたわけです。
NFTによって、その一環として世界に向けてデジタル作品を販売することができるようになります。世界に向けて販売できることは、企業側が期待しているメリットでしょうね。
—— 今まではそれができていなかったのでしょうか?
大塚:作品を作って、販売網を自ら構築して……ということをやらなければなりませんでした。しかも以前までなら、作ったものがすぐにコピーされてしまいます。気付けば価値がなくなってしまう……ということがあったわけです。
ただ、NFTによって希少性を出せるようになったんです。
スクウェア・エニックスが販売しているNFTデジタルカード「資産性ミリオンアーサー」。スクウェア・エニックスは、今後、NFT事業に本格的に注力していく方針を発表している。
出典:スクウェア・エニックス2022年3⽉期第2四半期決算説明会資料
—— では、プラットフォームとして参入する企業にはどんなメリットがあるのでしょうか?
大塚:ヤフオク!などと同様に、NFTのマーケットプレイスを提供することで、販売手数料をいただくことが目的となります。我々も同様です。
—— NFTのマーケットプレイスは、まだ誰がシェアを取っていくのか分からない状態なのでしょうか。アマゾンのような存在はいない?
大塚:そうですね。今の状況は、2000年頃にアマゾンが現れたときと同じような状態だと思っています。
今ではアマゾンがEコマースを伸ばし、一強になりました。ただ、中にはYahoo!ショッピングが良いという人もいれば、楽天が良いという人もいます。Shopifyなんていう個人店で利用できるサービスも現れています。
今NFT業界で起きていることは、実はこの動きと同じなんです。「Non-Fungible Token」だとか、そういう新しい言葉に惑わされて特殊なことが起きている感じがしてしまうのですが、ここ30年の間にインターネットの世界で起きていたことを繰り返しているだけです。
身振り手振りで説明をする大塚さん。
撮影:小林優多郎
—— 「繰り返し」とはいえ、取り扱えるものは異なっていますよね。NFTアートが有名ですが、他にはどういうものが取り扱われているのでしょうか?
大塚:そうですね。一番有名なのは「NBA Top Shot」でしょうか。選手が試合で見せたスーパープレイのGIF動画をNBAが公式で提供しています。
例えば「連覇のかかった試合で有名選手が見せたダンクシュート」など、中には数億円というすごい高い値段で売れているものもあるようです。
そのスーパープレイはYouTubeでも見られるのですが、「それを所有したい」という欲がすごく強いんですよね。それが高値で売れたことで、NFTが爆発的に普及するようになったという背景もあります。
そういう意味では、大きなファンを抱えてビジネスをしている人たちにとって、新しいビジネスチャンスが到来したと言えるわけです。F1、NFLなども参入してきている状況です。
—— コレクター、ファン心理に絶妙に訴えているわけですね。大塚さんがご自身で持っていたり、注目したりしているNFT作品はありますか?
大塚:これだけ話しておきながらあれですが、実は個人的にはNFTを持っていないんですよね(笑)。
大塚さんがNFTアートを保有してないという事実に、衝撃が走る。
撮影:小林優多郎
—— NFTを持っていらっしゃらないのですか!? では、なぜここまでNFTに注目されているのでしょうか?
大塚:NFTに興味があるのには理由があります。
2000年ごろにYahoo!オークション(現:ヤフオク!)が出てきた当時、そのプラットフォームを使って生計を立てているような若者がいました。若者という何も持たざるものが、ある意味自分の才覚だけでのし上がることができたわけです。
NFTも同様で、OpenSeaのようなNFTのプラットフォーマーが現れたことで、20代どころか小学生がNFTアートを売り出して、すごい金額を稼いでいます。年齢は関係なく、行動した者が成功を納められる世界です。そういうところにワクワクして、興味を持っています。
大人ほど真面目に考えすぎてしまうんですよね。NFT、Non-Fungible Tokenって何だろう?と考えているうちに、遅れをとってしまう。一方で若者はちゃちゃちゃと試して、それが大ヒットする。
—— ちなみに最近ではメタバースとNFTの関係性もよく耳にします。どういう関係があるのでしょうか?
大塚:現代では、多い人で生活の4分の1くらいの時間をFacebookやInstagramのようなSNSに触れているじゃないですか。それは結局、その分デジタル空間上に自分の意識があるとも言えるわけです。
デジタル上に自分がいる時間が長くなったり、メタバースのような世界を作れば作るほど、そこの世界で自分をより良く投影するためにお金を投資したくなっていくわけです。
そのとき、メタバースというデジタル空間の中で、価値の交換をするためにNFTという技術が使われていくという感じではないでしょうか。
—— 確かに技術として捉えれば、メタバースなどの世界観との関係性も理解しやすいかもしれません。
大塚:恐らく、5年後にはNFTなんて言葉は使われなくなっていると思うんですよね。
今、メールを送るときに「TCP/IPでプロトコルで送りますけど、いいですか?」なんて聞かないじゃないですか。普通に送りますよね。裏ではそういう技術で送られていますけど。そういう立ち位置のものだと捉えていただければ良いです。
NFTに未来はあるのか?
「NFTに未来はあるのか?」という問いに対して、明確に「未来はある」と答えた。
撮影:小林優多郎
—— ちなみに今回の特集タイトルは「NFTに未来はあるか?」なのですが、大塚さんはNFTがこの先どういう使われ方をして、最終的に生活にどのように入り込んでくると思われていますか?
大塚:今後の動きは、1995年頃からインターネットと一緒で、熱狂と失望のサイクルが繰り返されるのではないかと思っています。今はNFTやメタバースがバズワードとして盛り上がり、メディアでも多く取り上げられていますよね。それ自体はとても良いことだと思っています。
NFTアートなどの価格も上がっていますから、それに夢を見る若者が「俺もNFTで何かやってやろう!」とどんどん入ってきて、そこにVCからお金も出て、NFTやメタバースを使った社会実験が繰り広げられるのではないかと思います。
その中から50〜100個に1個くらい、ガツンと大きな当たりが出てくる。
それがアートの世界なのか、ゲームの世界なのか、音楽の世界なのかは分からないし、どういう人たちによるものなのかも分かりません。
ただ、NFTという技術によって音楽を自由にやりとりできるようになったり、作家さんに100人のファンがいれば生計を立てられるようになったり、そういう世界は確実にできていくと思います。
インターネットの世界は、基本的に個人にパワーを寄せていくものです。(いわゆる)GAFAに頼らない、個人がパワーを持っている世界になっていくのではないでしょうか。
—— そういった意味では、NFTには未来が「ある」と大塚さんは考えているのですね?
大塚:非常にあると思います!
個人がパソコンを持つようになり、インターネットブラウザができたとき、「これで何するの?」と誰もが思っていました。でも、あっという間にYouTubeが出てきたり、全てがインターネット化してきましたよね。それと同じようなことが起こるのではないかと思っています。
—— 20年後のテックジャイアントはNFTから生まれるかもしれない?
大塚:そうですね。ぜひチャレンジする若者が増えればいいなと思います。
(聞き手、文・三ツ村崇志)