
米大手投資銀行ゴールドマン・サックスは2021年、仮想通貨(暗号資産)とブロックチェーンへのエクスポージャーを取れる(=資産の一部を特定のリスクにさらす)米国株で構成するバスケット型投資商品の提供を開始した。
資産運用会社などのインベストメントマネージャーや個人投資家は、ビットコイン価格を追跡するこのバスケットを通じて、仮想通貨などを直接購入せずともデジタル資産へのエクスポージャーを取ることができるようになった。
同行の顧客向けレポート(4月6日付)によれば、この時価総額加重平均ポートフォリオは過去半年(6カ月)間、67%というビットコインとの相関性を記録した。
ゴールドマン・サックスのアナリスト、デイビッド・コスティンはレポートでこう説明している。
「ビットコインが2022年1月末から現在までに19%の価格上昇を記録したのに対し、当社の加重平均ポートフォリオの同期間におけるリターンは3%(S&P500種指数のリターンは同時期0%)でした」

バスケットの提供開始から1年を経たいま、ゴールドマン・サックスは構成銘柄の入れ替えによってポートフォリオの刷新を図ろうとしている。そこには意外性のある銘柄がいくつか含まれる。
今回のオーバーホールは、バスケットのパフォーマンス向上が狙いとみられる。
バスケットの年初来リターンはS&P500種株価指数のそれに対し、8%ポイントのアンダーパフォームとなった。ロシアのウクライナ軍事侵攻、さらには米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの影響で、米株式市場全体が下落した結果だ。
とりわけ、割高なグロース(高成長)株は最近の調整局面で大きな痛手を負った。
「当社のバスケット組み込み銘柄の中央値は、米国株の中央値に対して、株価収益率(PER)でおよそ3倍(米国株18倍:バスケット45倍)、EV(企業価値)/売上高倍率は2倍近く(米国株3倍:バスケット5倍)となっています」
とは言え、バスケット組み込み銘柄の売上高の伸びは、米株式市場全般に比べて、引き続き力強さを維持するとみられる。
市場アナリストのコンセンサスに従えば、2024年までの年平均売上高成長率は、米国株の中央値9%に対し、バスケット組み込み銘柄の中央値が16%と予測される。
また、バスケット組み込み銘柄は2022年1月末以降について言えば、S&P500種指数のリターンをアウトパフォームして(=上回って)いる。
米調査会社ブルームバーグ・インテリジェンスのシニアストラテジスト、マイク・マッグロンは最近の顧客向けレポートで、ビットコインが2022年も(複数の代表的な)株価指数に対して圧倒的な力強さを発揮し続けると指摘する。
「2022年はビットコインが4万6300ドルを超える高値で推移する一方、ナスダック100指数は調整局面が続いて約8%下落し、ビットコインにとってひとつの転換点となるでしょう。
ビットコインは(金融・資産運用各社の)ほぼあらゆるシナリオにおいてナスダック100指数をアウトパフォームする勢いと予測されており、ビットコイン登場(2009年)以降の株式市場の歴史から何かを読みとれるとすれば、ビットコインはこれで下落トレンドを脱するということかもしれません」
そうなれば、ビットコイン価格と高い相関性を持つゴールドマン・サックスのバスケットもその恩恵をこうむることになる。
ゴールドマン・サックスのアナリストチームは、テキスト検索、回帰分析によるベータ(=相場値動きとの連動性)測定、サードパーティ提供のブロックチェーン指数や上場投資信託(ETF)を組み合わせ、ビットコイン価格との高い相関性につながる米国株を特定し、バスケットに組み込んでいる。
また、バスケット組み込み銘柄の対象となるのは時価総額10億ドル(約1250億円)を超える大・中型株のみ。
「当社のメソッドは2021年に比べて大きくは変わっていません。
変更点は、組み込み基準となるインデックス(株価指数)およびETFからインデックス1種を除外し、新たにETF3種(「グローバルX ブロックチェーンETF」「ビットワイズ・クリプト・インダストリー・イノベーターズETF」「ファースト・トラスト・スカイブリッジ・クリプトETF」)を加えたこと。
また、テキスト検索の評価点について、メンション10件に対して3ポイントを付与していたところを、15件に対して3ポイントとしたことくらいです」
以下では、ゴールドマン・サックスが今回のバスケット刷新で追加した銘柄と除外した銘柄を紹介しよう(株価の推移チャートは4月8日時点)。
【追加】シグネチャー・バンク(Signature Bank)

セクター:銀行
時価総額:160億ドル
予想株価収益率(PER):14倍
ビットコインに対するベータ:0.04
【追加】アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)

セクター:半導体
時価総額:1740億ドル
予想株価収益率(PER):26倍
ビットコインに対するベータ:0.06
【追加】インテル(Intel)

セクター:半導体
時価総額:1970億ドル
予想株価収益率(PER):14倍
ビットコインに対するベータ:0.04
【追加】カスタマーズ・バンコープ(Customers Bancorp)

セクター:銀行
時価総額:20億ドル
予想株価収益率(PER):7倍
ビットコインに対するベータ(連動性):0.04
【追加】ロビンフッド・マーケッツ(Robinhood Markets)

セクター:総合金融
時価総額:110億ドル
予想株価収益率(PER):不明
ビットコインに対するベータ(連動性):不明
【追加】コア・サイエンティフィック(Core Scientific)

セクター:ソフトウェア・サービス
時価総額:30億ドル
予想株価収益率(PER):10倍
ビットコインに対するベータ(連動性):不明
【追加】ドラフト・キングス(Draft Kings)

セクター:消費者サービス
時価総額:80億ドル
予想株価収益率(PER):不明
ビットコインに対するベータ(連動性):0.11
【追加】インタラクティブ・ブローカーズ・グループ(Interactive Brokers Group)

セクター:消費者サービス
時価総額:60億ドル
予想株価収益率(PER):18倍
ビットコインに対するベータ(連動性):-0.01
【追加】マイクロソフト(Microsoft)

セクター:ソフトウェア・サービス
時価総額:2兆3000億ドル
予想株価収益率(PER):32倍
ビットコインに対するベータ(連動性):0.02
【追加】オラクル(Oracle)

セクター:ソフトウェア・サービス
時価総額:2210億ドル
予想株価収益率(PER):16倍
ビットコインに対するベータ(連動性):-0.03
【追加】CMEグループ(CME Group)

セクター:総合金融
時価総額:850億ドル
予想株価収益率(PER):31倍
ビットコインに対するベータ(連動性):0.0
【追加】ウォルマート(Walmart)

セクター:食料・日用品小売り
時価総額:4170億ドル
予想株価収益率(PER):22倍
ビットコインに対するベータ(連動性):-0.02
【除外】インベストビュー(InvestView)
セクター:ソフトウェア・サービス
時価総額:2億9800万ドル
ビットコインに対するベータ(連動性):1.15
【除外】アイディアノミクス(Ideaenomics)
セクター:ソフトウェア・サービス
時価総額:4億7700万ドル
ビットコインに対するベータ(連動性):0.65
【除外】メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)
セクター:メディア・エンターテインメント
時価総額:6060億ドル
ビットコインに対するベータ(連動性):0.01
【除外】BNYメロン(Bank of New York Mellon)
セクター:総合金融
時価総額:380億ドル
ビットコインに対するベータ(連動性):0.01
【除外】ブロードリッジ・ファイナンシャル・ソリューションズ(Broadridge Financial Solutions)
セクター:総合金融
時価総額:180億ドル
ビットコインに対するベータ(連動性):-0.01
(翻訳・編集:川村力)