Z世代がはまる暗号資産 何が若者を吸い寄せるのか

大井真理子、アジアビジネス担当編集委員

Paxton at hawker centre
画像説明, パクストン・シー・トウさんは、周囲で話題になっていたことから暗号資産への投資を始めた

手っ取り早くお金を稼ぎたい一心で、ハイリスク・ハイリターンの投資を行う若者は、歴史上いつの時代にもいただろう。今、Z世代の多くがはまっているのは暗号資産だ。しかし、投資家保護のルールがないこの市場では、全財産を失うほどの損失を出す可能性もある。投資ではなく、ギャンブルだと言う専門家も少なくない。

しかし幼い頃からコンピューターに慣れ親しむデジタル世代にとって、クリプト(暗号資産)業界への入り口はあちこちにある。

「友達がみんな話していたから、自分もお金が稼げるかどうか、とりあえずやってみようと思った」と言うのは、シンガポール在住の20歳のパクストン・シートウさん。

携帯電話さえあれば、数千ドルの投資を1クリックでできた。ズーマー(zoomer)とも呼ばれるZ世代は、1990年代半ばから2000年代初頭に生まれた若者たちだ。オンラインでゲームをし、友達とメタバースで遊ぶ彼らにとって、暗号資産への移行は至って自然なものだ。

シートウさんは1年前、1000シンガポールドル(約9万3000円)のビットコインを買った。最も有名で人気のあるこの仮想通貨は、すぐに10%の利益をもたらしてくれた。しかし彼が投資額を4倍にした直後に、価格が暴落した。

「『高く買って安く売れ』という投資格言があるにもかかわらず、自分は全く逆のことをしてしまった。初心者だったから感情のまま、お金を動かしてしまった」と振り返る。

当初投資した1000ドルを失っただけでなく、さらに1000ドルの赤字を出した。一度全てを売却し、再度作戦を練り直した。

Kelvin Kong
画像説明, ケルヴィン・コンさんは2018年に暗号資産で50万ドルを失った

同じくシンガポールで暮らすケルヴィン・コンさんの場合、損失の桁が違う。2017年に40万ドル(約3700万円)のもうけを出したが、翌年、50万ドルを損失。「全てを失った」と彼は言う。

「当時は調子に乗っていた。自分はトレーダーの王だと思い、ずっとクリプトを買い続けたんだ」

最終的には、数百ドルしか銀行口座に残らなかった。「鬱(うつ)だったと思う。自殺すら考えた」と振り返る。

そして若者たちが暗号資産にはまることを、コンさんは心配する。「多くの人はお金を失ってしまうだろう」。

ゲーム化する仮想通貨投資

しかし彼の警告に、若いトレーダーたちはあまり耳を傾けようとしない。

ゲームの中で使えるトークンとしてNFT(非代替性トークン)や仮想通貨を稼げる、P2E(プレイ・トゥ・アーン)ゲームで初めて暗号資産を知る若者も多い。

「ゲームをしてお金を稼げるなんて、私たちの世代にとっては夢のようだ」と言うのは、イエローパンサーという呼び名で知られるマレーシアの23歳のトレーダーだ。

P2Eゲームを通じて彼がNFTのトレードを始めたのは昨年8月だった。その約1カ月後、彼は正社員の仕事を辞めた。

「毎日8~9時間働かなくてはいけなかったし、給料もよくなかった。NFTを知った時、大きなチャンスだと思ったんだ」

Resh in his office
画像説明, レッシュ・チャンダランさんは自らを「投資教育者」と呼んでいる

イエローパンサーを我々に紹介してくれた29歳のレッシュ・チャンダランさんは、シンガポールで株や暗号資産投資についてのアドバイスをしている。

スマホさえあればプレイできる気軽さが人気のP2Eゲーム「アクシーインフィニティ」を通じ、投資家とフィリピンのゲーマーを紹介する。

しかし彼も、暗号資産業界は「開拓時代のアメリカ西部のようだ」と警告する。

コロナ禍も影響している。外出禁止で家にいる時間が長くなり、若いトレーダーは投資について学ぶ時間ができた。

「極端な乱高下は、金もうけのチャンスにもなる」と言うのは、仏経営大学院INSEADのリリー・ファング教授。「コロナ禍で家にいる若者にとって、投資はゲームの延長だった」。

金融インフルエンサー

規制のない暗号資産についてはアドバイスをしない投資顧問も多い一方で、ユーチューブ、ツイッター、Redditなどには若いトレーダーが求める助言があふれている。

23歳のブライアン・ジュンさんは、100万人のフォロワーを誇る金融インフルエンサーだ。リスクについてもきちんと話すようにしていると語る。

Brian Jung

画像提供, Brian Jung

画像説明, ユーチューバーのブライアン・ジュンさんは100万人のフォロワーを誇る

「自分のビデオを見てお金を失う人が出てくるのは嫌だから、きちんとリサーチをし、事実に基づいたアドバイスをするようにしている」と言う。

ジュンさんの両親は、韓国からアメリカに移住した。その家庭環境が、自らの金銭価格に影響していると、ジュンさんは言う。

「子供の頃はお金に苦労することが多かったので、今でも節約することを忘れていない」

「今も母は郵便局で、父は倉庫で働いているので、自分の稼ぎがどんなに増えても、1時間の労働がいくらに値するか知っている」

金銭的自由は、22歳のジョウェラ・リムさんが暗号資産の世界に入った理由でもある。シンガポール在住のリムさんは、男性が大多数を占める市場では珍しい女性トレーダーだ。

彼女は、金もうけだけでなく、新たなテクノロジーの最先端にいることも楽しいと言う。

Jowella in Orchard
画像説明, ジョウェラ・リムさんは、規制によって暗号資産の正当性が高まると考えている

暗号資産市場では、最近の混乱を受け、規制論が改めて強まっている。それを歓迎するトレーダーも多い。

「すでに現実社会に進出しているこのテクノロジーを無視し続けることはできないと、政府は気付くべきだ」とリムさんは言う。

依存症か、情熱か

暗号資産をめぐっては、金銭的損失に加え、依存症のリスクもある。

「クリプト市場は24時間眠らないので、はまってしまう人も多い」と言うのは、前出のチャンダランさんだ。

シンガポールで依存症のカウンセリングをしているアンディ・リーチさんは、若者、特に若い男性のトレーダーの間で、依存症になる人が増えていると言う。

「ビットコインの値段が激しく上下するジェットコースターのようなプロセスを、携帯電話で四六時中見ていられるからだ」

数年前、多額の損失を被ったにもかかわらず、シートウさんもコンさんも再び、暗号資産をトレードしている。

コンさんに、依存症の可能性はありませんか、と聞いてみた。「そうも言えるかもしれない」と彼は笑った。「でも私は情熱と呼ぶ」。