日本がWeb3で勝つ方法:伊藤穰一氏に聞いた

Web2で敗北したといわれる日本。企業の時価総額ランキングでは、プラットフォーマーとして君臨するGAFAMが上位を占める。こうしたなか、Web3の勃興によるゲームチェンジの可能性に、テクノロジー業界だけでなく、政界も期待を寄せている。

ブロックチェーンはWeb3の基盤となるテクノロジーだ。北米と欧州は民間企業によるディスラプティブなテクノロジーの開発を促し、Web3の土壌作りを進めてきている。一方で、日本は対応の遅れが指摘されている。

巻き返しを目指し、自民党デジタル社会推進本部NFT政策検討プロジェクトチームは3月、Web3に関する提言を盛り込んだ「NFTホワイトペーパー(案)」を公表。5月にイギリスで講演した岸田文雄首相は、「Web3.0の推進のための環境整備を含め、新たなサービスが生まれやすい社会を実現」すると述べている。

Web3:Web3.0とも呼ばれ、ブロックチェーンなどのピアツーピア技術に基づく新しいインターネット構想で、Web2.0におけるデータの独占や改ざんの問題を解決する可能性があるとして注目されている。
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NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲーム、動画などのコンテンツの固有性を証明することができる。NFTを利用した事業は世界的に拡大している。

日本は、Web3を確かな成長につなげることはできるだろうか。海外と国内のいずれにも深い知見を持つといわれる伊藤穰一氏は、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボで所長を務め、デジタル庁に設置されている有識者会議「デジタル社会構想会議」のメンバーでもある。Web3を解説した「テクノロジーが予測する未来」を6月7日に上梓した伊藤氏に、日本の勝機を聞いた。

世界照準が日本再生の道

──Web3において、日本はどのような戦略を取るべきか。

伊藤氏:デジタル化を通じて、ドメスティックなものをグローバルな存在へと変えていくことだ。世界に照準を定めたゴール設定をすることが、日本再生の道を開く唯一の鍵だと考える。

──日本の強みは。

伊藤氏:コンテンツ産業が挙げられる。しかし、日本のプレイヤーが世界に目を向けないままでは、やがては世界から忘れ去られて衰退していく可能性もありうるだろう。

コンテンツビジネスはNFTと相性が良い。一方で、日本では残念なことが起こっている。すぐ目の前に拓けているグローバルマーケットに日本のコンテンツを輸出せず、国内ユーザーだけに販売するのは、デメリットが大きい。

せっかく世界中にファンを持つコンテンツが多数あるというのに、肝心のコンテンツホルダー企業が世界を相手に及び腰になりがちだ。NFTマーケットプレイスを運営しているような大手IT企業なら、日本のコンテンツをグローバル仕様にして、グローバルマーケットに向けて展開することは、技術的にも資金的にもできるはずだろう。

技術者不足が日本の課題

──産業構造としての日本の課題は。

伊藤氏:有能な技術者が育っていないことだ。技術者の社会的立ち位置が確立されていないために、有能なはずの技術者が能力を発揮しきれていない面もある。長年、アメリカの教育現場に身を置いてきた目から日本を見たときに、残念だと感じる。

──打開策はあるか。

伊藤氏:僕は、千葉工業大学で変革センターを立ち上げた。大学教育を通じて実現していきたいのは、技術者の価値と可能性の解放だ。

いまは国も企業も、何でもタスク化して解決に注力する「ソリューショニズム」に陥ってしまっている。そうではない真の創造性には「そもそも、なぜ?」という問いが不可欠だ。

証券会社なども、日本企業だと、技術的なことはIT企業にアウトソーシングするケースが大半である。しかし、アメリカの企業では、社員の半数を技術者が占めるというのが当たり前になっている。役員クラスがエンジニアという企業も少なくない。

こういったところは、今後、日本も取り入れていくべきだと思う。そのためにも、やはり、まず技術者の解放からはじめなくてはならない。

戦後の成長と停滞期

──イノベーションが起こりにくい環境に陥った背景は。

伊藤氏:高度経済成長期が過ぎて、ドメスティックなマーケットでも十分に採算が合うようになって以来、日本企業はあまり世界で戦わなくなってしまった。

戦後、海外にモノを売らないと生き残れなかった時期には、ホンダやソニーといった世界的な企業が生まれた。しかし、その流れで銀行や証券会社も、ドメスティックなマーケットに最適化してきたところがある。

日本は技術力には定評があるが、それを武器として世界を相手に競争するのは、あまり得意ではない。日本企業発でグローバルスタンダードになったものが少ないことが、その証しだろう。

しかし、世界では何が起こっているのかをしっかり見据えて、テクノロジーのリテラシーも高めつつ、グローバルマーケットを目指していけば、既存の日本企業にもまだ大きなチャンスがあるはずだ。

より長い目で見れば、日本の社会変革のゴールは、単にドメスティックなものをデジタル化することではない。約14年ぶりに日本に戻り、日本企業のグローバル化は以前よりもずっと進んでいると感じる。英語ネイティブのグローバル人材も増えてきている。本当の勝負は、まだこれからだ。

|インタビュー・テキスト:菊池友信
|編集:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑