ビットコインの低迷により、“採掘者”たちが苦境に追い込まれている

ビットコインの価格が暴落したことで、暗号通貨の“採掘”を手がけるマイナーの利益も全盛期と比べると激減した。電気代の高騰や過剰な先行投資の影響も受けるなか、マイニング(採掘)を手がける企業はさらなる苦境に追い込まれている。
Bitcoin
ILLUSTRATION: JACQUI VANLIEW

ビットコインの価格が2021年に68,000ドル(約919万円)まで上昇したとき、マイナー(採掘者)たちは狂喜乱舞していた。ある試算によると、マイナーの利益率は90%前後を推移し、多くは22年にもたらされるはずのさらなる巨額の利益に備えて大急ぎで事業を拡大したのである。

ところが、そんな大儲けは実現しなかった。この数カ月で暗号通貨(仮想通貨、暗号資産)市場は急落しており、5月末時点のビットコインの価格は30,630ドル(約410万円)で推移している[編註:6月20日時点では20,075ドル(約271万円)]。

これと同時期に、電力需要の急上昇とロシアによるウクライナへの侵攻により、電力価格が世界中で高騰した。これは複雑な数学的問題を解いて暗号通貨をマイニング(採掘)するビットコインのマイナーにとって悩みの種でしかない。ASIC(特定用途向け半導体集積回路)を搭載したマイニング用のコンピューターは、相当な量の電力を消費するからだ。マイナーの諸経費の90〜95%は電気料金が占めることもあると、Bitfuryの最高経営責任者(CEO)のヴァレリー・ヴァヴィロフは16年のロイターのインタビューで語っている

エネルギー価格の高騰が打撃に

欧州の一部地域では、電気料金の高騰に伴い1BTCのマイニング(新しい暗号通貨ユニットの“鋳造”に必要な計算プロセス、採掘の意味)に最大25,000ドル(約337万円)かかる場合もあると、ブロックチェーンのデータセンターを運営するEnerhashのCEOのダニエル・ジョグは言う。「利益がないまま運営している企業もありました」と、ジョグは語る。

暗号通貨の採掘の一大拠点であるテキサス州では猛暑を理由に、1kWhの電気代がこの1年で10.6セント(約14円)から18.4セント(約25円)へと約70%も跳ね上がっている

ケンブリッジ大学によると、かつての暗号通貨大国だった中国が21年にマイニングを禁止したことを受け、現在は米国が世界の暗号通貨のマイニング活動の37.84%を占めているという。

「いま問題になっていることは、総額ベースでのエネルギー価格だけでなく、エネルギー価格が乱高下していることなのです」と、仮想通貨マイニング企業Luxor Technologiesの事業開発担当バイスプレジデントのアレックス・ブラマーは語る。「エネルギー価格の動きを前もってモデル化することは実に困難です」

この問題は、21年の夏以降にネットワークに参加するマイナーの数が増えたことで、個々のマイナーのトランザクションアウトプットが減少したせいで悪化している。つまり、マイナーはわずかなビットコインを採掘するために多額の費用を払っているにもかかわらず、価値は下がっているのだ。

マイナーたちはまだ利益を上げられているが、その額は減っていると、金融サービスプラットフォームBitOodaの最高戦略責任者(CSO)のサム・ドクターは言う。マイナーたちがいま得ているマージンは60〜73%の範囲内にあると、ドクターは推定している。

「かなり高い収益性を誇る新型のマイニングリグ(仮想通貨を採掘する機材)を使っているマイナーでさえ、以前より少ない利益しか上げられていません」と、ドクターは指摘する。そして、世界中で使用されているマイニングリグの3分の1をいまだに占めるBitmainの「ANTMINER S9」よりも前につくられた旧型のASICは、ほとんど採算がとれないとドクターは語る。

「エネルギー価格が上昇しているいま、電気代を固定価格で契約していないマイナーは、同業者の増加とエネルギー価格の上昇という両面から打撃を受ける可能性があります」と、ドクターは指摘する。大手マイニング企業をはじめとする大半のマイナーが固定価格のエネルギー契約を結んでいないという。このような契約を結ぶには、現時点で大半のマイナーがもっている信用よりも「強い信用」を要するからだ。

依然として驚くほど高いマージンにもかかわらず、マイナーたちは窮地に陥っている。業界大手のRiot BlockchainやMarathon Digital Holdings、Core Scientificといった上場するマイニング企業の大半は、株式の時価総額が50%以上も急落した。強気の収益予想が外れたRiot BlockchainCore Scientificは、いずれも事業拡大計画を下方修正しているようだ。

過剰な先行投資の代償

こうしたマイナス傾向がプラスに転じなければ、採掘時の利ざやの低迷は業界全体の沈滞のほんの始まりにすぎないかもしれない。

マイナーは暴落前の2年間、暗号通貨を量産するために大量のASICをわれ先にと買おうとした。この大量購入を実施した企業の代表例が、米国のマイニング企業のトップ3に入るMarathon Digital Holdingsだ。同社はASICメーカーのBitmainから78,000台を8億7,900万ドル(約1,190億円)で21年12月に購入したが、実は同年8月にBitmainから30,000台を1億2,000万ドル(約162億円)で調達したばかりだった

Marathon Digital Holdingsは、22年前半までに13万3,000台のマイニングリグの稼働を計画していた。ところが、設置上の問題や同社のモンタナ州の施設のひとつを襲った悪天候、テキサス州の電力会社とのエネルギー供給の契約締結の遅れなどが影響し、22年5月の時点で稼働しているのは36,830台のみにとどまっている

未使用あるいは未納品のASICの価格は、Marathon Digital Holdingsやその他のマイニング企業がビットコインの相場がうなぎ登りだった時期に支払った価格を間もなく下回るかもしれない。なぜなら、ASICの価格は一般的にビットコインの価格と相関するからだ。

一方で、Marathon Digital Holdingsは、21年12月に発注した78,000台の前世代のマイニングリグを除き新型のマイニングリグの大半を「現在の市場価格より極めて安価に」購入したと、同社の広報担当者は語る。

Marathon Digital Holdingsは、自社でインフラを構築せずホスティングサービスと提携して、資産を極力もたないことで経営効率を高める「アセットライト」戦略を採用している。これにより、業界全体に及んでいる問題から自社を保護していると、広報担当者は言う。

「多くの企業がマイニング機材の代金の支払いに苦労している理由は、インフラを整えるマシンの資金をあとで調達できると考えて、何よりもまずインフラに多額の資産を投じているからです」と、広報担当者は語る。「このことから当社は、マイナーに給与を支払う前にインフラ構築への支出を気にする必要がありません」

アナリストによると、マイナーがASICを買い占める元手の大半は、借金でまかなわれていたという。BitOodaのドクターは特定の企業名の公表は控えながら、次のように指摘している。「あるマイナーは資金がないのに出費していました。とても多くのマシンを注文しており、手付金を支払ったとはいえ必ずしも資金がすでに確保されているとは限りません。また、マイニングリグを受けとるために次の返済額を支払って資金の一部を失うかもしれません」

このような負担はビットコインの価格の暴落やエネルギーコストの高騰と相まって、企業の収益に影響を与えかねない、とマイニング企業に融資するFoundry Digitalのマイニング部門の責任者ジュリカ・ブロヴィッチは言う。

「ビットコインの価値が65,000ドル(約880万円)と最高潮に達していたときに機器を購入し、ローンを組んだ業界の多くのマイナーのキャッシュフローは現状プラスではありません」と、ブロヴィッチは語る。

見直されるマイナーへの投資

暗号通貨の暴落により、マイナーは現金をすぐに必要としているようだ。しかし、現在の市場心理からすると、投資家に助けを求めることはとうていできない。米国のマイニング大手であるRiot Blockchainはさらなる事業拡大のために、6,320ほど保有するビットコインのうち250BTCを4月に売却し、1,000万ドル(約13億5,100万円)を調達したと5月3日(米国時間)に発表した。Marathonはその2日後に、保有するビットコインの一部を「近日中にではないが」売却する方向で検討していると明らかにしている。

このような動きは、マイナーたちの間で定着している「HODL」(ホドル、“HOLD”から転じてビットコインを保持し続けることを指す)と界隈で呼ばれている動きとは真逆のものだ。

この種の投げ売りはビットコインに限らない。Luxor Technologiesには、ASICを簿価以下で売却しようとする上場企業から「必死の電話」がかかってくると、バイスプレジデントのブラマーは言う。「大安売りが始まっているのです」

こうした大安売りにより、ASICの価格はさらに下がるかもしれない。需要が低いにもかかわらず、売り手は「現在の価格よりも下げたくないと思っています」と、マイニング機器のオンライン・マーケットプレイスを運営するKaboomracksのマネージングディレクターのロバート・ヴァン・カークは指摘する。

問題は、このような悪循環が投資家の不安をあおり始めるかどうかだ。ビットコインの最盛期だった過去2年間で、一部のマイニング企業は保有するビットコインを担保にして資金を借り入れたり、マイニングリグ自体を担保にしてローンを組むいわゆる機材担保ローンを組んだりしてきた。しかし、いまとなってはビットコインもASICも価格が下がる一方で、その担保価値はなくなっている。

「マイナーが借入資本で過度の投資をした場合、それによって生じる問題が業界のほかの部分にも及びかねません。例えば、担保価値が下がっていることを考えると、貸し手にも影響が出てしまいます」と、Foundry Digitalのブロヴィッチは指摘する。「すべての貸し手やローンに同じ影響が出ないとしても、何らかの支障は出るはずです」

ビットコインのマイニング業界の整理統合や相次ぐM&Aを巡る議論は、激しさを増している。

「今後1年から1年半以内に、どの企業が実際にうまく経営されているか、効率的な管理がされているか、負債の度合いが健全かを示す証拠が明らかになるでしょう」と、ブラマーは指摘する。「こうした企業は、マイナーが100%のマージンに慣れているように、非常に厳しいマージンにも対応できるようになるはずです。もうすぐマージンは縮小します」

「いまわたしたちの業界では、状況が厳しくなる数多くの兆しを目の当たりにしているのです」

WIRED US/Translation by Madoka Sugiyama/Edit by Naoya Raita)

※『WIRED』によるビットコインの関連記事はこちら暗号通貨(暗号資産、仮想通貨)の関連記事はこちら


Related Articles
article image
暗号資産である「テラ(Terra)」と「ルナ(LUNA)」の暴落が引き金になり、暗号資産(暗号通貨、仮想通貨)の市場が揺れている。これらは米ドルに価値が連動するステーブルコインだったはずが、いったいなぜ“崩壊”に追い込まれたのか。

毎週のイベントに無料参加できる!
『WIRED』日本版のメンバーシップ会員 募集中!

次の10年を見通すためのインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を、週替わりのテーマに合わせてお届けする会員サービス「WIRED SZ メンバーシップ」。毎週開催のイベントに無料で参加可能な刺激に満ちたサービスは、無料トライアルを実施中!詳細はこちら