FTX破綻が証明したビットコイン・マキシマリストの正当性【コラム】

FTXの破綻は、アルトコイン、取引所、レバレッジ過多の組織を含め、暗号資産の世界を押し流すような新たな破壊的な波を引き起こした。

かつては取引高世界第3位で、創業者はアメリカの政界にも影響力を持ち、スタジアムや地下鉄の駅のあちこちにその顔が貼り出されている暗号資産取引所の破綻による影響がどれほどになるのか、今の時点で正確に測ることは不可能だ。

ほんの数カ月前にFTXが救済したブロックファイ(BlockFi)は、資産の引き出しを一時停止。ジェネシス・グローバル・トレーディング(Genesis Global Trading)は、FTXに資産をロックアップしていたために、親会社から資本投下を受けることになった。

FTXの創業者サム・バンクマン-フリード氏が支援していたソラナブロックチェーンを基盤とした多くのプロジェクトは、支払不能状態に陥っていると噂されている。

影響に苦しんでいる人にとっても、直接の影響は受けずに外部で見ている人にとっても、教訓は同じでシンプルだ。それは、ビットコインを自分でセルフカストディしようということ。ステーキング報酬や、あり得ないようなリターンを約束するプロジェクトや、取引所を使うことの簡単さの誘惑に惑わされないようにしなくてはならない。

ビットコイン(BTC)マキシマリストたちは、この点に関してあまりにも頑ななために、「有毒」とまで呼ばれてきたが、何度も何度もその正しさが証明されてきた。FTXの破綻によって、新世代の熱心なビットコインマキシマリストたちが生まれてくるだろう。

「有毒」マキシマリストの勝利

2022年夏、マキシマリストたちをめぐって、ビットコインコミュニティに論争が巻き起こった。CoinDeskのコラムニストでもある、キャッスル・アイランド・ベンチャーズ(Castle Island Ventures)のニック・カーター(Nic Carter)氏(当時は熱心なビットコイン支持者)が、ウェブ3ウォレット企業への投資に参加し、ビットコイン以外の開発に関わったと非難されたのだ。

批判に対しカーター氏は、ビットコインマキシマリストコミュニティから距離を置くような長文の記事を書き、「私は『ビットコインマキシマリスト』ではないし、かつてそうであったことも、これからそうなることも決してない」と語った。

それに対しビットコイナーたちは、いくつかの悪びれず妥協しない立場をとった。スワン・ビットコイン(Swan Bitcoin)のトマー・ストロライト(Tomer Strolight)氏は、ビットコインマキシマリストたちが持っているように思える有毒性は、実際には信念に基づいた反対に過ぎないと主張。

マキシマリストが中央集権型取引所を批判し、アルトコインエコシステムを罵り、新しいトークンの生みの親たちを詐欺師と呼ぶ時、彼らはビットコインネットワークの誠実さを保とうとしているのだ。

このためにマキシマリストたちは、視野が狭いとも言われてきた。例えば、スワン・ビットコインのステファン・リベラ(Stephan Livera)氏は、マキシマリストたちはしばしば、より広範な暗号資産エコシステムを「理解」していないと批判されてきたと主張。しかし、それは間違っている。なぜならビットコイナー(その多くは元「暗号資産」支持者)は、ブロックチェーンを嫌というほど理解しているからだ。

ビットコイナーたちは、ビットコインがゆくゆくは、次なる世界の準備資産になると信じている。そのために、他の暗号資産であれこれ遊んだり、手持ちのBTCを第三者に預けることは、よくても時間の無駄、最悪の場合には危険なリスクと考えているのだ。

このような強硬的な立場は間違いなく、現在は良いものに見える。より広範な暗号資産業界が「リーマンショック的瞬間」に直面しているからだ。ビットコインを買って、ハードウォレットに保管しただけであれば、FTX崩壊の影響を免れたという点で、ビットコインマキシマリストは正しい。

価値のないコインを「クソコイン」と呼ぶなど、ビットコインマキシマリストの言葉遣いにケチをつけることもできるかもしれないが、もしかしたら彼らのキツさには、理由があるのかもしれない。

彼らの考えでは、アルトコインや「手軽な」暗号資産報酬は価値がゼロで、それらを売っている人たちは、怪しげなセールスマンに過ぎないのだ。暗号資産界では、いつ大惨事が起こっても不思議ではなく、ビットコイナーたちは、警告を発しているだけである。

新世代マキシマリスト

FTX破綻によって苦しんでいる暗号資産ファンの多くは、ビットコインマキシマリストたちが叫んできた「有毒な」メッセージを再びよく考えることになるだろう。次のようなシンプルな疑問から始めることもできる。マキシマリストは正しかったのだろうか?

暗号資産の世界から完全に身を引かないとすれば、暗号資産ファンたちは新しく旅を始めることになり、詐欺にそれほど騙されやすくはなくなるだろう。開かれた心を持ち、分散化、セルフカストディ、自立という原則に立ち戻ることができれば、ビットコインが唯一無二のものであることに気づくはずだ。

ネットワークを公平な形で作り上げた後に身を引いた匿名の開発者によって立ち上げられた初の暗号資産という起源だけが、ビットコインを他から区別するのではない。

ビットコインが何になったかという点も、独特なのだ。それは、誰でもが使うことができ、事前に決められたルールによって透明性を持って運営され、誰にもシャットダウンすることのできない分散型金融ネットワーク。それと比べると、クリプトとは何なのだろうか?

クリプトとは、サム・バンクマン-フリード氏だ。投資家やユーザーを欺いた(元)ビリオネアである。クリプトとは、FTXだ。運営中でさえも、社会や経済にほとんど価値をもたらさなかったのに、人々が信頼を寄せた資金不足の取引所である。

クリプトとは、アラメダ・リサーチ(Alameda Research)だ。ほぼ確実に、FTXユーザーの利益にならないような形でトレーディングを行い、怪しげなプロジェクトを支援し、暗号資産業界を飲み込むほど大きな穴をバランスシートに抱えたヘッジファンドである。

FTX崩壊の焼け跡から誕生してくる新世代の熱心なビットコインマキシマリストたちはそのうちに、ビットコイン秘密鍵を自らのウォレット(おそらくTrezorあるいはLedger)に保管するようになり、独自コインを生み出した次なる偽りのビリオネアの名声が支えるポンジ・スキームに騙されることはないだろう。

現在の痛みは本物だ。騙されたという気持ちは、耐え難いものに違いない。しかし、恥、罪悪感、怒り、絶望など、現在感じている感情は、1つの原因につながっている。「クリプト」そのものが嘘の上に築き上げられているために、バンクマン-フリード氏はこれほど長い間、嘘がバレずに済んできたのだ。

自称革命は、法定通貨システムのずば抜けて優秀な焼き直しに過ぎなかった。サトシ・ナカモトが作り上げたのは、皆が何が起こっているかを確認できるために、二重計上を不可能にする新しいネットワークだ。それは存続している一方で、クリプトは消え失せてしまうかもしれない。

今、自由市場が正常に作動している。過ちは罰を受け、正しい選択は見返りを受ける。イデオロギー的にも、経済的にも、今回のFTX破綻による影響は、ビットコインとその支持者たちの主張を強めることになった。

Will Szamosszegi氏は、再生可能エネルギーによるビットコインマイニング施設を手がけるSazminingの創業者兼CEO。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:FTX’s Fall Will Lift the Next Generation of Bitcoin Maximalists