中国、エルサルバドル国債購入打診 FTX破綻で債務不安
【メキシコシティ=清水孝輔】中国が中米エルサルバドルに同国の国債購入を打診していることがわかった。暗号資産(仮想通貨)ビットコインを法定通貨にしたエルサルバドルに債務不安が浮上しているためだ。仮想通貨交換業FTXトレーディングの破綻で苦境が深まる。中国は「米国の裏庭」と呼ばれた中南米への影響力を一段と強化する構えだ。
エルサルバドルのウジョア副大統領は11月上旬、中国から国債を買い取るという申し出を受けているとメディアに対して明らかにした。その直後にはブケレ大統領が中国と自由貿易協定(FTA)の締結に向けた交渉を始めると表明した。
ブケレ政権はこれまで自身に批判的な米国政府に反発し、中国と距離を縮めてきた。2018年に台湾と断交して以降、スポーツ競技場や国立図書館などインフラ整備で中国から支援を受けている。米陸軍大学戦略研究所のエバン・エリス研究教授は「中国はエルサルバドルの厳しい財政状況を利用しようとしている」と指摘する。
「あしたから毎日1ビットコインを買う」。ブケレ氏は16日、FTX破綻でビットコイン価格が低迷するなか、ツイッターでこう表明した。
その3日前には「FTXはビットコインとは正反対だ。ビットコインは(投資詐欺を指す)ポンジスキームを防ぐためにつくられた」と投稿し、懸念を払拭しようとしていた。
相次ぎ強気の姿勢を示す背景には、エルサルバドルが直面する厳しい状況がある。同国はブケレ氏が主導し、21年9月7日にビットコインを法定通貨として採用した。その前から法定通貨だった米ドルと併用している。だがビットコインは価格変動が大きいため、リスクを嫌う国民の間では決済手段として普及していない。
さらにブケレ政権は政府が値上がりを期待してビットコイン購入を繰り返してきた。ビットコインの価格は足元で1万6000ドル(約220万円)台と直近のピークだった21年11月に比べて7割以上下がった。在エルサルバドル日本大使館の試算によると、17日時点でエルサルバドル政府はビットコイン購入で約6500万ドルの含み損を抱えていた可能性がある。
エルサルバドルのビットコイン推進は誤算続きだった。ロシアによるウクライナ侵攻でインフレが加速し、米連邦準備理事会(FRB)は大幅な利上げを続けてきた。その影響でビットコインを含む仮想通貨から資金を引きあげる動きが広がった。すでに同国が直面していた逆風に追い打ちをかけたのがFTXの破綻だ。
ビットコインの購入額は外貨準備高の3%程度にとどまる。売却しなければ損失は確定せず、すぐに財政に深刻な影響を及ぼす規模ではない。ブケレ氏は価格が下落するたびにビットコインを買い増し、長期的に保有する考えを示してきた。だがFTX破綻に伴うビットコイン価格の下落はブケレ政権の政策の不安定さを改めて浮き彫りにした。
含み損よりも深刻なのは国際社会の信用低下だ。エルサルバドル政府がビットコインを法定通貨にしたことで、国際通貨基金(IMF)から13億ドルの融資を受ける計画はほぼ頓挫している。格付け会社のフィッチ・レーティングスは9月、エルサルバドルの格付けをCCCからCCに引き下げたと発表した。
エルサルバドルは国内総生産(GDP)の8割を超える多額の債務残高を抱える。ブケレ氏は9月には23~25年に償還期限を迎える長期国債を3億6000万ドルまで買い戻すと発表し、返済能力があると示そうとした。だが実際には同国の債務不安に対する市場の懸念は拭い切れていない。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)