FTXの資産「全容把握に数カ月」 新CEOが議会証言
【ニューヨーク=斉藤雄太】米下院金融サービス委員会は13日、暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXトレーディングの経営破綻を踏まえた公聴会を開いた。出席した同社のジョン・レイ最高経営責任者(CEO)は、破綻前の投融資や財務面の記録・管理の不備など、旧経営陣の企業統治の不全を厳しく批判。複雑な資金の流れを追跡し、残された資産の全容を把握するには「数カ月かかる」との見通しを示した。
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レイ氏は米エネルギー大手エンロンの破綻処理などを手がけた企業清算の専門家だ。FTXが11月、日本の民事再生法にあたる米連邦破産法11条(チャプター11)を申請したのに伴い、新CEOに就任した。この日の公聴会にはFTX創業者で前CEOのサム・バンクマン・フリード容疑者も出席予定だったが、12日に米当局の要請に基づき本社のある中米バハマの当局に逮捕されたため、レイ氏のみが証言に立った。
約4時間におよんだ公聴会のなかでレイ氏が繰り返し指摘したのは、FTXの旧経営陣によるずさんな経営実態だ。巨額の損失を生む要因となった関連投資会社アラメダ・リサーチとFTXは「本当に一つの会社として運営されていた」と強調。FTXの顧客の資産が恒常的にアラメダに流用されていたことをうかがわせた。
投融資や財務などの記録が信頼できる文書の形式でほとんど残されていないとも述べた。バンクマン・フリード氏が会社から融資を受ける際、自ら資金の出し手と受け手の両方に署名するケースもあったという。
レイ氏は会社に残った資産のうち、10億ドル(約1350億円)以上に相当する仮想通貨と銀行口座にある現金を確保したと説明した。ただ、グループ間の資産の混同や時価の目減りなどですべての資産を把握するための作業は難航し、「おそらく数カ月はかかる」と語った。顧客らが一定の資産を取り戻せるまで相応の時間を要する可能性を示唆した。FTXの損失規模は70億ドルを超えるとの見方も示した。
議員からは、高利回りの投資ファンドをうたって投資家から不正に資金を集め、史上最大のネズミ講詐欺ともいわれるバーナード・マドフ受刑者(2021年死去)が起こした事件と比較する声も出た。マドフ事件の被害者は約4万人とされる一方、100万人以上の利用者がいたFTX破綻による被害はより広範囲に及ぶ可能性がある。
公聴会では議員から、今後の仮想通貨規制のあり方についても意見が相次いだ。FTX破綻前には、米上院の一部の与野党議員が米商品先物取引委員会(CFTC)による仮想通貨業界への監督権限を強める法案を提出している。だが、同法案にはバンクマン・フリード氏も賛意を示していたため、これを認めるべきではないとの声が出た。
共和党のマクヘンリー下院議員はデジタル資産やブロックチェーン(分散型台帳)などの革新的な技術は引き続き有望だと指摘。FTXのような詐欺的な行為を働く企業から消費者を保護する必要性と、デジタル資産の規制強化は切り分けるべきだとの考えを示した。14日には米上院銀行委員会もFTX関連の公聴会を開く予定で、議会による真相究明や規制を巡る議論も熱を帯びている。