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買収騒動に揺れたビットフライヤー、創業者加納氏が社長復帰提案

更新日時
  • 加納氏が自身の社長復帰求める株主提案行う-3月下旬にも株主総会
  • ビットフライヤー巡る買収交渉は昨年白紙に、創業者と経営陣ら対立

暗号資産(仮想通貨)交換業者ビットフライヤー創業者の加納裕三氏は、3月下旬にも開催予定の同社親会社の株主総会で、自らの社長復帰を求める株主提案を行うことを明らかにした。ビットフライヤーを巡っては短期間での社長交代が続いたほか、買収騒動も浮上。大株主でもある加納氏が社長に復帰することで経営改革を加速し、新規株式公開(IPO)を目指すとしている。

  持ち株会社ビットフライヤーホールディングス(HD)の約4割の株式を持つ加納氏(47)がインタビューで述べた。同氏が社長を辞任して以降、コストに見合った成果が上がらず「何も生まれない会社になってしまった」と指摘。内部統制を整え、コンプライアンスを強化した上で「世界で戦えるグローバルなスタートアップにしたい」と意欲を示した。

BitFlyer Co-founder Yuzo Kano Interview
加納裕三氏(2月16日、都内)
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  ビットフライヤーは、加納氏がゴールドマンサックス証券に勤務時代の上司と共同で2014年に設立。暗号資産業界の先駆者とされ、世界で300万人の顧客基盤を持つ。金融庁から仮想通貨の不正流出の未然防止といった内部管理体制の不備を指摘され、18年に業務改善命令を受けた。加納氏は経営責任を取って社長を辞任した経緯がある。

買収合戦の果てに

  加納氏の辞任後、ビットフライヤーHDは昨年までに4度にわたって社長が交代。立て直しを図ろうと昨年3月の株主総会でも、加納氏自身が社長復帰を提案したが否決された。社長に選出されたのは米国みずほ証券の副社長などを務め、当時ビットフライヤーHDの取締役を務めていた現社長の関正明氏だった。

  事前に過半数の株主から社長復帰の合意を得ていたという加納氏にとっては驚きの結果となった。当時買収を提案してきたシンガポールに拠点を置く投資ファンドACAパートナーズ(以下ACA)と関氏ら経営陣が組んで、加納氏を追い出そうとしたのではないかと主張する。

  加納氏によると、ACAは買収に関して同氏ら起業家を中心とするメンバーと、同等の比率となるそれ以外の少数株主連合に対して、それぞれに買収意向を表明。少数株主連合には、起業家メンバーに示した400億円よりも高い株式価値を見積もった買収案が提示されたほか、関氏ら当時の経営陣の体制を維持する意向も示したという。

     加納氏の一連の主張に対して関氏に事実確認を求めたところ、ビットフライヤーHDで広報責任者を務める林秀樹・社長室長から「社内で検討させていただいた結果、回答は一切差し控えさせていただきます」との返答が電子メールであった。 

     林氏は、来月末に株主総会を控え、特定の株主の主張に対して意見表明を行うのは不適切であり、他の株主との公平性担保の観点からも固くお断りすると説明。株主からの問題提起や株主提案などは「あくまで株主総会の会議場で目的事項に沿って質疑と議案の審議において行われるべきであると強く考えます」としている。

     ACAグループの東明浩代表にも同様に問い合わせたが、守秘義務があるためコメントは差し控えるとした上で「株主への提示額は、他買い手候補の方の提示額により価格の引き上げを行いましたが、特定の株主の方のみ著しく低い株価を提示したことはございません」と電子メールで回答があった。

     ACAによる買収提案を問題視した加納氏は昨年4月、対抗するために新たな買い手となるホワイトナイト(白馬の騎士)をツイッターで呼び掛けた。 

    少数株主連合とACAはすでに株式売買の合意を結んでいたというが、実際に複数の企業がホワイトナイトとして名乗りをあげ、ACAを上回る金額を提示。大株主である加納氏が株式の売却先を指定できる権利を行使して、ACAによる買収を破談に持ち込んだ。

  ただ、このホワイトナイトは少数株主連合とACAが既に合意に至っていたことなどから交渉を続けることのリスクを懸念して撤退。暗号資産市場の相場急落も重なり、現在、自身に対するビットフライヤーHDを巡る買収の打診はないと加納氏は言う。

買収騒動に揺れたビットフライヤー、創業者の加納氏が社長復帰提案へ

 

     買収交渉を振り返って加納氏は、会社を売却する際には株主の利益最大化を図るため、できる限り高い価格で売らなければいけないという米国での「レブロン基準」のような明確なルールが日本にはないとして、そうしたルール構築の必要性を訴えた。

株式売却の選択肢を提示へ

  岸田文雄政権は、暗号資産やブロックチェーン技術を用いた新たなインターネットの概念である「Web3(ウェブ3)」推進に向けた環境整備に乗り出すとして、税制改正などを進めている。半面、暗号資産相場は大幅に下落。米FTXが昨年11月に経営破綻したほか、米クラーケンや米コインベースなど外資系の交換業者が相次いで日本市場から撤退するなど、収益環境には不透明感も出ている。

  加納氏は「会社を何とか再生させないと非常に厳しいと思っている」と述べ、社長復帰が実現した際には業務効率の改善に取り組むと意欲を示す。また、IPOを実現することで「一部の株を売りたい人に対してのエグジットプランも示し、しっかりと未来を向いて一緒に経営していける株主と共に成長させていきたい」と話した。

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