トークンの税務 現状と今後のまとめ

Web3.0においてブロックチェーン技術を使った新しい仕組みやサービスにおいて重要な要素となっているのがトークンです。大きな注目を集めているトークンに関する税務について、現行税制をベースに課税上の取扱いや税制改正の報告、留意点をまとめました。

トークンに関する税務について、現行税制をベースに課税上の取扱いや税制改正の報告、留意点をまとめました。

最近、Web3.0といった用語をよく見かけます。このWeb3.0という文脈において、ブロックチェーン技術を使った新しい仕組みやサービスに関する紹介や議論が、日本のみならず、世界的で行われているという状況にあります。たとえば、非代替性トークン(Non Fungible Token、以下「NFT」という)アートと呼ばれるデジタルな画像等を取引するビジネス、NFT等を活用した新しい世界を構築するメタバース、NFT化されたゲームアイテムやキャラクターでゲームをプレーしながらトークンを稼ぐGameFi、DeFi(分散型金融)といった枠組みで提供される新しい金融サービス・技術など、さまざまなトピックが飛び交っています。これらの仕組みやサービスにおいて重要な要素となっているのがトークンであり、2023年度税制改正ではトークン税制の改正が予定されていることが大きな注目を集めています。本稿では、トークンに関する税務について、現行税制をベースに課税上の取扱いや税制改正の方向、留意点をまとめました。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

POINT 1
トークンの税務の何が問題なのか

Web3.0関連ビジネスを日本で行う場合に常に論点となっているのは、その重要な要素となっているトークンに関する税務上の取扱いである。現行税制おいて、トークンに関する税務上の取扱いを理解し、何が問題視されているのかを確認する必要がある。

POINT 2
トークンの税務上の取扱いは、来年度の税制改正でどのように変わるか

日本の税制が、日本におけるWeb3.0関連ビジネスの創出・発展に過度な阻害要因にならないような税制の整備が求められており、2023年度税制改正では、その第一弾となる改正が予定されている。

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渡邉 直人

KPMG税理士法人 パートナー /福岡事務所 所長(兼任)/KPMGジャパン テクノロジー・メディア・通信セクターメンバー

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I.暗号資産の税務

Web3.0 関連ビジネスにおいてトークンの活用は必須となってきています。ただ一方で、そのトークンに関する税務上の取扱いが問題視されています。日本の現行税制上、トークンの活用に応じてどのような課税関係が生じることになるのか、なぜそれが問題となるのかをまとめました。

なお、ブロックチェーン上で生成されるトークンは、それぞれ用いられる場面に応じて異なる機能を提供しています。さらには今後も異なる使い方がなされる可能性があり、トークン自体の法律的な整理はまだ明確となっていない状況と言えます。今回は、代表的なトークンについて、現時点における税務上の考え方を整理していますが、今後の法律上の取扱いの整理や異なる機能のトークンの登場などに伴って、税務上の取扱いの修正・変更等も考えられることに留意が必要です。

1.定義

トークンの代表的なものの1つに暗号資産があります。暗号資産の定義は、改正資金決済法第2条14項(現行の資金決済法では第2条5項)1において、以下のように定義されていて、税務においてもこの定義を参照しています。

「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。

一  物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

二  不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの


暗号資産は、以上の通り、不特定の者との決済手段などの取引で使用されることが想定されているため、代替性トークン(Fungible Token、以下「FT」という)に該当するものと考えます。ビットコインやイーサリアム、リップル等が代表的ではありますが、GemiFiやDeFiにおいて独自にユーティリティートークンやガバナンストークンとして発行されるトークンが市場で売買されることなどにより、不特定の者との決済手段としても用いることができるようになったものなどもあり、多種多様の暗号資産が存在します。

2.税務上の取扱い

(1) 暗号資産の譲渡、使用、交換
個人が、暗号資産を譲渡、使用、交換した場合には、原則として雑所得となり、他の所得と合算される総合課税の対象となります。ただし、事業性が認められる場合には事業所得となります。また、交換には、暗号資産を円やドルといった法定通貨と交換するものだけではなく、別の種類の暗号資産に交換することも含まれます。

雑所得となった場合には、譲渡益に最大約55%の課税が生じるため、諸外国と比して、税コストが大きいという指摘があり、2023年度の税制改正要望のなかに、20%の申告分離課税および損失の繰り越しが要望として含められています。

法人が同様の取引を行った場合は、通常の所得と同様に、法人税の課税所得の算定の基礎となります。

(2) 保有(期末時価評価)
個人が保有する暗号資産について、評価益課税は行われません。一方で、法人が期末時点で保有する暗号資産(活発な市場を有する場合)については、原則として時価評価の対象となります。この点についても、2023年度税制改正において改正が予定されています。まずは、暗号資産に該当するもののうち、事業者が自ら発行するトークンが時価評価対象から外れることが予想されています。最終的には、有価証券と同様に、保有目的に着目し、短期的な利益を追求するようなトレーディング以外の目的で保有する暗号資産については時価評価対象外とされることが期待されています。

また、活発な市場を有するかどうかの判断においても、予見可能性を高めるという観点から何らかのルール等が示される必要があると考えています。

(3)消費税
暗号資産の消費税の取扱いも留意が必要です。消費税法上、暗号資産の譲渡は支払手段の譲渡となるため、非課税として取り扱われますが、課税売上割合の算定には含めないことになります。一方で、暗号資産の貸付は、課税取引となり、貸付の対価については暗号資産の使用料として課税売上となることが留意のポイントとなります。

また、貸付の相手が非居住者である場合等について輸出免税が適用されるのかどうかについて不明な点に注意する必要があります。

II.暗号資産に該当しないトークン(NFT)の税務

1.暗号資産以外のトークン

先述したように、現在発行されているトークンは機能等も多種多様であり、第1章第1節で解説した暗号資産に該当しないトークンも存在することになります。たとえば絵画やキャラクターのデジタルデータを、ブロックチェーン技術を用いてNFT化し、デジタルアートトークンとして唯一無二の財産的価値を持たせたものがあります。

2.税務上の取扱い

デジタルアートトークンであるNFT等は、それ自体が決済手段とされることは考えにくく、基本的に、資金決済法に定める暗号資産に該当する可能性は低いものと考えます。したがって、暗号資産に係る課税上の取扱いがそのまま適用されることにはならないこととなります。

しかしながら、現在、このような暗号資産に該当しないNFT等に関する課税上の取扱いを定める明確な条文等は存在しないため、国税庁のタックスアンサーのNo.1525-2「NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係」2 を参照して判断することになります。

(1) NFTの譲渡
個人がNFTを譲渡した場合で、譲渡したNFTが譲渡所得の基因となる資産に該当するとき、つまりその所得が譲渡したNFTの値上がり益(キャピタル・ゲイン)と認められるときは、譲渡所得に区分されます。また、NFTやFTの譲渡が営利を目的として継続的に行われているときは、譲渡所得ではなく、雑所得または事業所得に区分されます。

一方で、譲渡したNFTやFTが、譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合は、雑所得(規模等によっては事業所得)に区分されます。

以上のとおり、NFTが「譲渡所得の基因となる資産」に該当するかどうかにより課税関係が異なることになります。また「譲渡所得の基因となる資産」として、上記タックスアンサーの関連コードとして記載されているNo.3105「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」3をみると、次の記載があります。

譲渡所得の対象となる資産には、土地、借地権、建物、株式等、金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、配偶者居住権、配偶者敷地利用権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)などが含まれます。なお、貸付金や売掛金などの金銭債権は除かれます。


法的にNFTが上記に掲げる資産と同じものではないため、基因となる資産をどのように解釈すべきかについて明確でないものの、一定の重要な示唆として参照すべきものと考えます。

法人がNFTを譲渡した場合には、法人には所得区分等がないため、通常の営業取引と同様に、譲渡損益は法人税の課税所得の算定の基礎になるものと考えます。

(2)NFTの資産区分
NFTが、棚卸資産または固定資産に該当するのかについては、まだ明確な法令等やガイドラインは存在しません。法人がNFTを保有する場合、これらの区分は必要な整理だと考えますが、現時点ではNFTの性質等を考慮し、合理的な判断を行っていくことになると考えます。この点についても、今後の税制改正等において、事後的に納税者が不利にならないような対応を期待するところです。

III.トークン税制の将来像

税務上の取扱いは、一般的に私法上の取扱いを前提に構築されているため、そもそもどこの国の法律が適用されるのかさえも明確ではないトークンについて、一義的に課税関係を確定させることが困難な状況にあると言えます。今後、新たにさまざまな用途に使われるトークンがどんどん出現し、それに伴う法律上の整理が追いつかない状況は容易に想像することができます。

そのため、今後は法律上の取扱いではなく、経済的な効果が類似するものを参照して、合理的と考えられる課税関係を検討せざるを得ないということが当たり前の状況になってしまうと思われます。

トークンは、何かを証明しているモノと考えられる(暗号資産であれば保有している価値、NFTであればデジタルデータの唯一性、ガバナンストークンであれば投票権を証明している)ため、見た目の経済的な効果だけではなく、その証明されているモノに応じて適切な課税がなされるように、税法独自に「トークン」を定義してトークン関連税制を構築していく必要性があると考えています。

1 改正資金決済法第2条14項の表記については衆議院ホームページを参照

2 国税庁 タックスアンサー No.1525-2「NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係

3 国税庁 タックスアンサーNo.3105「譲渡所得の対象となる資産と課税方法

執筆者

KPMGジャパン
テクノロジー・メディア・通信セクター
パートナー 渡邉 直人